ソニーのQ3決算は営業権の減損で減収減益に、だが株価は上昇
前日に決算を発表した2017年2月3日のソニー(6758)の株価は、前日比168円高(+5%高)と大幅高で引けました。
決算内容は、映画分野の営業権の減損が響き大幅な減益であり、通期会社予想も下方修正されています。それにもかかわらず、大幅高を演じたのは、既に1月30日の時点でソニーは減損を計上することを正式に発表していたことや、半導体を中心に本業の好調が確認されたからと見られます。
実際、ソニーの2017年3月期通期の新予想(営業利益)は、映画減損やエムスリー(2413)の株式売却益を除くと実質的には449億円の上方修正となっていました。
のれん減損と営業権の減損は本質的には同義
ここで気になるのは、ソニーと同じく巨額の減損を予定している東芝(6502)の今後です。この場合、ソニーは“営業権の減損”、東芝は“のれんの減損”と言葉は異なりますが、いずれも英語では「Goodwill」とされ、基本的には同じことだということを確認しておきましょう。
というのは、ソニーの場合は映画事業の実際の価値が、また、東芝の場合はアメリカの原子力事業の価値が、それぞれのバランスシートに計上されている簿価を下回ってしまったため減損を行うということですので、両社が行うことは本質的には同じことであるためです。
なお、もう少し“のれん”とは何か、また、なぜ減損をするのかについて詳しく知りたい方は、こちらの記事『【3分でわかる】東芝をむしばんだ「のれん」って何?』をご参照ください。
東芝はのれん減損をQ3決算に反映させるのか
では本題の、”ソニーは減損しても株価が上昇したが東芝はどうなるか”について考えてみましょう。
東芝は2月14日に決算を発表予定で、同日に減損額と今後の対応策を発表する予定です。
ここで注視したいのは、巨額の減損を2016年12月末時点で認識し決算に反映させるのか、あるいは、減損額は公表するが、実際の計上は2017年3月末に先送りするのかということです。
ソニーの例を出すまでもなく、減損テストの終了が2月までずれ込んだとしても、常識的には12月末時点、つまりQ3決算で反映させる、というのが普通の処理方法です。
ただし、気になるのは、各種報道では「減損額や資産売却の成否次第では2017年3月期末に債務超過の恐れがある」という表現が目立ち、「2017年3月期Q3決算で債務超過になる恐れがある」という報道が、筆者が確認した限りでは全く見られなかったことです。
ちなみに、東芝の2017年3月期9月末時点での株主資本は3,632億円でした。このため、一部報道にあった7,000億円という巨額の減損がQ3時点で行われれば、その時点で債務超過になるのは避けられないと推察されます。
また、その可能性が高いのであれば、「Q3決算で債務超過になる可能性があるが、その後の資本増強策次第では3月末の債務超過は避けられる可能性がある」と報じるのが望ましい姿ではないでしょうか。
東芝の株価は決算発表でどうなるのか
先述したように、ソニーの株価は減損を織り込んで、下方修正を発表しても株価は上昇しました。では、東芝の場合はどうなるのでしょうか。
両社の置かれている状況があまりにも異なるため、こうしたことを考えるのはあまり意味のあることではないのかもしれません。
ただし、ここで一点だけ留意したいのは、情報開示という観点でも両社には大きな違いがあることです。具体的には、東芝は決算当日に減損額を開示するとしている一方、ソニーの場合は、減損の具体的な金額を決算前に開示していたということです。
のれんの精査のために膨大な資料をチェクする必要があるなど、東芝が置かれている状況は極めて深刻な状況にあることは理解できるものの、上場企業の情報開示姿勢という観点では、ソニーが行ったことのほうが適切であるという印象を持たざるを得ません。
東芝は、ソニーにならい、2月14日の正式な決算発表の前に減損額を公表し、また、それをQ3決算に反映させるかどうかを明確にすることが、東芝が「普通」の上場企業であるかどうかを問う一つの試金石ではないかと筆者は考えます。
和泉 美治