日本ではまだ歴史の浅いプライベートバンクのサービス内容について、前回の記事に続き、「よくある質問」に回答する形式で紐解いていきたいと思います。
Q5 日本で提供されるプライベートバンク業務と欧州のプライベートバンクに違いはあるのでしょうか?
欧州のプライベートバンクは、設立以来プライベートバンク業務を展開してきた揺るぎない実績を有しており、その業務を最適に展開するための企業運営が長年に亘り行われています。プライベートバンク業務を展開する上で必要なサービスやネットワークを常に吟味しながら、あらゆる国々のお客様の期待に応えようとしています。
一方日本では、プライベートバンクサービス自体が比較的新しい事業領域であるという事実があります。しかしながら、日本の金融機関はグループ内の関連企業とのネットワークが充実しており、さらに日本に根ざしたサービス展開の歴史も長いので、ワンストップでお客様のニーズに応えることも可能です。
どちらが良い悪いということではなく、ご自身が何を一番大切にしたいのかをご判断された上で、金融機関をご選択いただくことがよろしいのではないでしょうか。
Q6 スイスの富裕層はどのような投資意向があるのでしょうか。
既に保有している資産を守りたいという、資産保全を志向されるお客様が多いため、必然的に相対的に低リスクの投資戦略に収斂される傾向にあります。
従前は、金利低下局面が長期に亘って継続しましたので、低リスクで安定運用の代表格である債券投資が投資戦略の中心的な存在でした。しかし、昨今のマイナス金利の導入もあり、債券セクターからの期待収益率は厳しい水準です。一方、株式セクター単体のリスク水準はお客様にとって高過ぎます。
また、富裕層の方々の投資戦略において分散投資は基本中の基本で、これは過去から現在まで変わらない鉄則です。
債券セクター並みにリスクを抑えるために様々なアセットクラスへの分散投資を徹底する、また様々な市場環境に応じて機動的に分散投資の内容を調整するといういわゆるアセットアロケーション型運用戦略が、現在は多くのお客様の目的を達成する手段となっています。プライベートバンクではそのような運用戦略の優劣を競っている状況です。
Q7 日本では「投資は良くない」という意識が強いため、資産の大半を預金にしている方が多いようです。プラベートバンクのお客様は投資に対してどのような認識なのでしょうか?
日本で投資に対してネガティブな認識が広がっている理由は主に2つあると考えています。まず1つ目は、日本人だからという理由だけで日本株に縛られすぎている点。2つ目は、金融業界の努力不足が原因でもありますが、金融リテラシーに問題がある点です。
日本人として日本企業を応援したい、日々の生活の中で日本企業になじみがあるという理由だけで、資産運用の中心は日本株でなければならないと考えている方がとても多いようです。
しかし、日本株が資産運用の中心になってしまうと、バブル崩壊から現在に至るまで日本株投資を通じた投資結果は良くなかったはずで、「投資は良くない」という印象を持ってしまった方も多いかもしれません。
一方、グローバル目線でご自身のビジネスを展開されていたり、ご子息が海外の教育機関で学んでいたり、海外資産や外貨建て資産を承継した経験を持つ富裕層の方々には、この呪縛は大きく作用しません。よって、国際分散投資を受け入れる素地をお持ちで、豊富な選択肢の中からポジティブな投資経験をお持ちの方が多いと考えています。
現在は、日本に居ながらにして充実した国際分散投資ポートフォリオを構築することが可能です。銀行や証券会社を中心とする販売会社でも、国際分散投資や時間分散に基づく投資を推奨するようになってきています。
Q8 安定運用と言えば、「債券を買っておけばいい」というわけではないのでしょうか?
先述の通り、従前であれば安定運用といえば債券を持っていればほぼ目的を達成することが可能でした。一般的に債券投資の魅力は、確定した利金収入が期待でき、価格変動リスクが相対的に低い点にありました。
特に日本においては、債券からの利金収入が期待できない上に金利上昇リスク、つまり債券価格の下落リスクを意識しなければならない環境にあります。このため、従前のように債券投資を資産運用の中心に据えることは難しい状況です。
超低金利環境となった今、債券の代替となる投資戦略が注目を集めています。債券並みの価格変動リスクに抑えたアセットアロケーション型といわれる投資戦略やオルタナティブ投資戦略などが代替候補と見られています。
オルタナティブ戦略といっても、高水準のリスク・リターン特性を有するものではなく、債券代替となるような低リスクの運用戦略が選好されつつあります。
ちなみに、REIT(不動産投資信託)は高水準の配当が期待できる魅力的な投資対象ですが、価格変動リスクは株式市場全体とほぼ同等であり、債券の代替とは言えずリスクを受け入れられる投資家のみが投資候補に考えるべきではないでしょうか。
小田嶋 康博