ヘッジファンド業界の報酬、上位と下位はどれだけ違う?
「ヘッジファンドのお給料はなんとなく高そう」というのが一般的な認識だと思います。それは正しいようです。
実際、ヘッドハンティング専門のGlocap社によると、成績の良い大手ヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャー(運用担当者)の平均年収は、6億7,750万円となっています。ファンドの規模と運用成績が最大の決定要因となりますが、業務内容、役職、業界経験年数なども年収に影響を与えます。
その内訳は、ファンドの規模が40億ドル(1ドル=100円換算で4,000億円、換算レートは以下同)を超える大手クラスの場合、上位3分の1に入る成績を収めたヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャーは、基本給27.5万ドル(2,750万円)に対して、ボーナスが650万ドル(6億5,000万円)、合計すると年収6億7,750万円となります。
一方、小規模なヘッジファンドはどうでしょう。同じくGlocap社のデータによると、ファンド規模が5億ドル(500億円)以下の小規模クラスの場合、上記と同様に上位3分の1に入るヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャーは、基本給22.5万ドル(2,250万円)に対して、ボーナスが107万ドル(1億700万円)、合計すると年収1億2,950万円となります。
大手クラスと小規模クラスでは、ポートフォリオ・マネージャーの年収に大きな格差が生じていることがよく分かります。ヘッジファンドでは人件費、オフィス賃料、システムコスト以外に大きな費用負担はないので、運用資産が拡大すると、同時にビジネスとしての収益機会も拡大することは容易に想像できます。
運用成績の優勝劣敗が鮮明なのは、一般的な企業の売上に相当する手数料収入に影響されるためです。ヘッジファンドの手数料は主に2種類で、運用成績にかかわらず徴収しているManagement Fee(運用管理報酬)とPerformance Fee(成功報酬)です。運用成績が良く、過去の最高成績を上回った場合にのみ徴収できる成功報酬の存在が、運用成績の違いによる収入格差を生んでいるというのが背景にあります。
Glocap社のデータによると、大手クラスでも下位3分の1に入るヘッジファンドでの年収は、上位3分の1の10%程度に満たない状況です。また、小規模クラスでは、下位3分の1での年収は上位3分の1の30%程度という厳しい現実が示されています。
営業担当者にも高額報酬の機会が
ヘッジファンドの規模を拡大する上で、ポートフォリオ・マネージャーと同じぐらい重要な機能を持っているのが営業です。既に名のあるポートフォリオ・マネージャーは、自らのヘッジファンドを立ち上げると、これまでの実績が名刺代わりとなり、大きな努力をせずとも運用資金は簡単に集まってしまうものです。
しかし、優秀な実力を持ちながらも業界でまだ無名である場合やメインストリームとは異なる運用戦略を展開している場合は、投資家がポートフォリオ・マネージャーのポテンシャルを正確に認識することが困難となります。その場合、運用者と投資家の間を取り持つ存在が必要になり、その役割を営業が担うのです。
そして、このような形で営業を必要とするヘッジファンドが、大きな運用資金を集め、さらに成功報酬を獲得するような良好な成績を収めた場合、営業の貢献は非常に高く評価され、営業担当者にも多額のボーナスが支払われるのです。
グーグルやアマゾンと人材獲得で争奪戦
これらの事実を踏まえると、ヘッジファンドがいかに規模を拡大し、運用成績を追求することに必死になっているか、その背景が見えてきます。
ここ数年のヘッジファンドは、以前のような高水準の運用成績を叩き出すことに苦戦しており、業界全体の規模も成長が止まったように見えます。しかし、今回説明した非常にシンプルなお給料事情もさることながら、世界最高峰の知的ゲームを展開していると言われるヘッジファンド業界はまだまだ優秀な若い才能を惹きつけています。
そんな中、ヘッジファンド業界でもビッグデータの解析、人工知能の導入といった最先端エリアの研究開発が拡大していくものと思われます。
研究資金の豊富な大手ヘッジファンドでは、既にグーグルやアマゾンのように世界中から優秀な人材を集める企業と、人材獲得の面で争奪戦を始めています。経済的な側面だけではなく、知的チャレンジを可能にするヘッジファンドがこれらの優秀な人材を惹きつけられるのでしょう。
これまでの考え方では全く想像もできないような運用戦略や、驚異的な運用成績を叩き出すヘッジファンドが今後登場してくることを期待しています。
小田嶋 康博