米大統領選挙後から一本調子で下落していた金価格がこの1カ月で6%以上の急反発となっています。ただ、選挙前と比べるとまだ半値戻しにも達しておらず、自律的な調整局面と捉えることもできそうです。
こうした中、1月13日にワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)がリポートを公表し、2017年は金価格の支援材料が目白押しであることを明らかにしました。何が起こっているのかを探ってみましょう。
2017年の金価格を支える6つの強気材料
WGCは次の6つのトレンドが金需要を後押しするとしています。
- 地政学的リスクの高まり
- 金融緩和による通貨価値の低下
- 期待インフレ率の上昇
- 割高な株価とポートフォリオ・リバランス
- アジアのプレゼンス向上
- 年金基金の再登場とイスラム金融の拡大
順に見ていくと、まず地政学的リスクとは反グローバリズムのことです。欧州では英国の“ハードブレグジット”が避けられない情勢となる中で、2017年にはEUの中心国であるオランダ、フランス、ドイツで波乱含みの選挙が実施されます。
一方、米国では保護貿易を主張するトランプ政権が誕生します。新政権が貿易戦争を引き起こし、地政学的リスクによる緊張を高める恐れがあります。
地政学的リスクの高まりは安全な逃避先としての金需要を高めます。歴史を振り返っても、危機が発生してリスク資産である株価が下落したときには、安全資産である金価格が上昇しています。
米国では利上げが再開されましたが、米国以外はそのような環境にありません。ECBは2017年も緩和的な金融政策を維持する見通しであり、米国以外の国では通貨価値が低下することになりそうです。こうした国では資産価値を守るために金投資への需要が高まる見通しです。
米国では金利の上昇とともにインフレ率も上昇する見通しです。結局のところ、数年間続いた世界的な金融緩和により、金融市場にはお金が余ってしまい、ついにインフレを押し上げるところまで来たと言うことなのかも知れません。
金は伝統的にインフレヘッジの役割を担っており、インフレによる実質金利の低下は金の魅力を高めることでしょう。
超低金利が続き、投資家がリターンを求めてリスク許容度を高めた結果、株価が割高となりました。一方、これまで株価の調整に備えて保有してきた債券は、金利の上昇で下落する見通しであることから、投資先としてのリスクが高まっています。
株価に限らず、強気相場が永遠に続くことはありません。テールリスクに備えた分散投資は投資の基本ですが、2017年はこれまで債券が果たしていた役割を金が担うことになるのではないでしょうか。
アジアの経済成長と金の需要には高い相関が見られます。アジアの国々がお金持ちになるにしたがって、たくさんの金が買われたということです。中国とインドの2カ国合計が世界の金需要に占める割合は、1990年代の25%から2016年は50%以上となっています。ベトナムやタイ、韓国でも金市場が活況を呈しています。
アジア経済は欧米への依存度を低下させており、低成長にあえぐ先進国を横目に高い成長を達成しています。2017年は日本を除くアジアは世界経済の成長の60%を占める見通しです。
ここ数年、日本では年金基金が金の保有残高を増やしています。この傾向は欧州へ波及すると見ています。低金利・マイナス金利により、年金基金はアセットアロケーション戦略の再考を迫られており、これは構造的に金需要を後押しすると考えられます。
一方、イスラム世界では金投資に関する新しいスタンダードが昨年末に制定されました。新基準はイスラム世界の潜在的な金需要を掘り起こす“ゲームチェンジャー”となるでしょう。イスラム世界の資産残高は6.5兆ドルですので、その1%の650億ドルが金に向かうだけで、1,700トンの金需要が生まれることになります。
ドル高やリフレには警戒が必要、通貨混乱なら支援材料
WGCは金の業界団体ですので、楽観的な見通しは割り引いて見る必要があるかも知れません。
まず気になるのがドル高をポジティブに受け止めている点です。トランプラリーでのドル高で金が失速していたことでも分かるとおり、ドル高は少なくともドル建ての金価格にとってはネガティブな材料です。ドル高の恩恵の受けるのはユーロ建てや円建ての価格である点に留意が必要でしょう。
また、ドル高は新興国からの資金流出を加速させる恐れがありますので、アジアを含めた新興国での成長を抑制し、金需要はむしろ減少する可能性があります。
昨年の上半期に金価格は30%程度上昇しましたが、この間ドルは軟調に推移しています。トランプ新政権がドル安政策へと転じたほうが、むしろ金には支援材料となるのかもしれません。
中国やインドでは、通貨の混乱が金需要を高める可能性がありそうです。最近もビットコインの乱高下が話題となりましたが、中国では人民元安が強く懸念されていますので、安全資産として金の魅力が高まるかもしれません。
また、インドはもともと金嗜好の強い国ですので、高額紙幣が廃止されたことで、現金から金へと資金のシフトが起きても不思議ではありません。
インフレと金利見通しについても注意が必要です。世界的に見るとインフレ率はまだまだ低い状況が続いており、原油価格も頭打ちとなっていますので、インフレが懸念される状況になるのかどうかは未知数と言えます。
インフレが加速しない場合には、リフレと緩やかな金利上昇の組み合わせとなる可能性がありますので、こうした状況では金の魅力が高まるとは考えづらいでしょう。
LIMO編集部