不振企業の救世主のイメージが強い産業革新機構

2016年末、政府系ファンドである産業革新機構(以下、INCJ)が、液晶パネル大手のジャパンディスプレイ(6740)に追加出資することが話題になりました。

また、その前にはシャープ(7653)の再建スポンサーや東芝(6502)の家電部門の「買い手」として名前が上がることもありました。こうした流れから、経営危機が一段と深刻化している東芝の救世主としてINCJに再建の役回りを期待する声が高まる可能性もありそうです。

とはいえ、INCJは、ダイエーなどを手掛けた産業再生機構(2003~2007年)や、日本航空の再建スポンサーとなった企業再生支援機構(2013年に地域経済活性化支援機構に改組)とは異なり、「企業再生」をミッションとしているわけではありせん。

また、東京電力の筆頭株主である原子力損害賠償・廃炉等支援機構(2011年~)のように、公益のために政府資金を活用する組織でもありません。このため、東芝の再建の救世主として期待するのは、やや筋違いであると言わざるを得ません。

そもそも産業革新機構が目指す姿とは

では、INCJの目指すものや、ミッションとは、どのようなものでしょうか。この答えは、まず、INCJという社名、“Innovation Network Corporation of Japan ”にあります。つまり、“イノベーション”がキーワードとなります。

INCJのホームページでは、同社の活動方針について以下のような説明があります。

  • INCJは、“オープンイノベーション”の考え方に基づき、次世代の国富を担う産業を創出するため、産業界との連携を通した様々な活動を行う。
  • 産業や組織の壁を超えた“オープンイノベーション”の考えに基づき、新たな付加価値を創出する革新性を有する事業に対して「中長期の産業資本」を提供する

ここから浮かび上がってくるのは、INCJというファンドの役割はオープンイノベーションを起こすためのベンチャーキャピタル(VC)となることが主軸であり、それを補完するために業界再編などプライベートエクイティ(PE)的な投資も行う、という姿です。

案件数ではVC的な投資が圧倒的に多い

では、実際の投資実績はどのようなものだったのでしょうか。監督官庁である経済産業省は、毎年INCJの業務実績をレビューし、その結果を公表しています。2015年度の報告書によると、同年単年度でのベンチャー支援の割合は99%であったとのことです(2014年度84%、2013年度 57%)。また、2009年の発足以来の累計でも 90%に達していることが述べられています。

INCJの出資先というと、ルネサスエレクトロニクス(6723)やジャパンディスプレイへの出資がまず思い出されます。これらはいずれも、実質的には業界再編を目的とした出資であったため、INCJ=PEあるいは再生ファンドというイメージが強いかと思いますが、案件ベースで見ると実態はむしろVCであることが理解できます。

今後の注目点

INCJに対する現時点での政府からの出資金は2,860億円、民間からの出資が140億円、加えて、借入として活用可能な政府保証枠は1兆8,000億円です。

一方、2016年3月末時点での支援決定額は8,305億円、実投資額は6,470億円となっています。このため、まだまだ投資余力を十分に持ったファンドであると見ることができます。ちなみに、INCJは2009年に産業競争力強化法に基づき発足し、設置期間は15年とされています。つまり、解散まではまだ8年ほどが残っています。

出資金の大半は政府から、つまり税金です。このため、INCJのお金がしっかりとリターンを確保するかどうか、納税者としては当然ながら気になるところであり、また、注目していくべきだと思います。

さらに、ミッションである、“次世代の国富を担う産業創出”が実現されるか、こうした巨大ファンドが民業圧迫、つまり民間ファンドの業務を奪ってしまい民間の活力をそぐような結果にならないかなどについても注視していく必要があると考えます。

 

和泉 美治