「しっかり歯を磨いているはずなのに、どうして虫歯になるの……?」
虫歯になったことがある人であれば、歯医者に行く前に、一度はこんなことを思ったことはないでしょうか。この記事では、身近な歯の疑問などについてQ&A方式で解説した拙著『歯医者が教える 歯のQ&A大全』から、私たちの悩みの種になりやすい「虫歯」や歯の知識についてなどをお伝えします。
虫歯になるのは「口の中に細菌と細菌のエサがあるから」
虫歯になる原因はシンプルで、「口内に細菌と細菌のエサがあるから」です。
もう少し詳しく説明すると、口の中にいる細菌には、「虫歯菌」と「歯周病菌」と「常在菌」の3つがあります。主に虫歯の原因となるのは虫歯菌で、砂糖を主な栄養源としており、口の中に滞在中に歯を溶かす「酸」を放出します。
この虫歯菌の量が増えれば増えるほど、放出される「酸」の量も増えるので、歯のエナメル質(歯の外側をおおう硬い組織)や象牙質(エナメル質より内側にある組織)が虫歯になるのです。
また、甘いものをよく食べたり、歯にくっつきやすいキャラメルやキャンディー、砂糖入りの飲料を好む人は、それだけ口内に虫歯菌のエサとなる砂糖が豊富ですので、虫歯になりやすくなります。
もうひとつ、虫歯のなりやすさは食生活だけでなく、歯並びや生まれつきの歯のエナメル質の丈夫さも関係があります。たとえば、歯並びが悪く一部凹んでいるようなくぼみがある場合は、時間をかけて丁寧に磨いても歯ブラシが届きにくいので、汚れが溜まってしまい、虫歯になりやすいのです。
また、自身の歯磨きの癖で、「同じところばかり磨いてしまう」「奥歯までちゃんと歯ブラシが届いていない」などブラッシングに偏りがある場合は、汚れを除去できないため、虫歯になりやすくなります。
力強いブラッシングには要注意!
力強く歯ブラシを握って歯に押し当てると、毛先が潰れてしまい、歯間に詰まった汚れを上手にかき出せません。潰れた毛先のまま力強く動かすことで、歯茎を傷める可能性もあります。
また、歯の表面に毛先があたっても、力強くこすっているせいで歯の表面が削れて摩耗してしまいます。毎回、力を入れ過ぎたブラッシングを行っていると、次第に歯の表面が削れてしまい、冷たいもので歯がしみるなど「知覚過敏症」の症状を引き起こす原因にもなります。
実は、汚れはそんなに力を入れなくても、落ちます。歯ブラシを握る適正な力加減は、150~200gといわれています。気になる方は、キッチンスケール(台所用のはかり)に普段自分が歯ブラシを握るときと同じような強さで毛先を当てて、上記くらいの数字になるか確認してみましょう。
市販の歯ブラシでも、毛先の「極細」を謳っているものもありますが、どうしても限界があります。デンタルフロスは、歯ブラシの毛先よりも細いので簡単に歯間に入り込み、楽に汚れを落とすことができます。ある調査では、歯ブラシによる歯垢の除去率は全体の6割程度で、加えてデンタルフロスを行うと2割高まり、歯垢の除去率は8割以上になるともいわれています。
「デンタルフロスを使い続けると歯と歯に隙間ができて汚れが詰まりやすくなって、逆に虫歯になりやすくなりませんか?」と思われる方もいるでしょう。
確かに、大きな糸のようなものを歯間に入れて長い間放置すると歯と歯の間に隙間ができるかもしれません。しかし、デンタルフロスは非常に細く、お掃除程度に歯間に入れる分には隙間が広がることはないので、安心して使ってください。
キシリトールガムが「虫歯になりにくい」理由
実は誰でも、虫歯になりにくい環境をつくることができます。それは「唾液を出すこと」です。
通常、口の中は「中性」ですが、食事をすると一気に「酸性」へと変化します。酸性の状態が長く続くほど、歯が溶けやすくなり、虫歯になるリスクが高まりますが、唾液には酸性を中性に戻す「重炭酸塩」という成分が含まれています。そのため、唾液が出れば出るほど虫歯になりにくい環境になるのです。
唾液を出すためには、「水分を摂取すること」が重要になってきます。寝る前や歯磨きをしたあとなどに水分を摂ると効果的です。ただし、利尿作用があるコーヒー・緑茶・アルコールなどは逆効果になってしまうので、注意しましょう。
口内は本来、水気を多く含む湿潤な環境であることが理想的で、人口唾液を使用したり、粘膜保湿剤を使用することで、口の中を保湿していくことも可能です。
また、別の角度では、「キシリトール」入りのガムを上手に用いることで、口内を虫歯になりにくい環境にすることもできます。
前述した通り、口内細菌の虫歯菌は砂糖をエサに繁殖していきます。キシリトールは虫歯菌のエサになりますが、虫歯菌はキシリトールを分解できず、栄養とすることができません。分解しようとするエネルギーを無駄に使わせることにより、虫歯菌が減っていくというしくみなのです。
さらに、ガムを噛むことで唾液を分泌させて、お口の中を酸性から中性に戻す働きを促せます。ただし、すべてのキシリトール配合のガムに砂糖が含まれていないとは限らないので、商品を選ぶ際は注意してください。
虫歯になった箇所は再び虫歯になりやすい!?
虫歯になった歯は、細菌に侵された部分を削り、そこを埋めるように詰め物や被せ物をして、治療をすることがほとんどです。詰め物や被せ物には、プラスチック製のレジン、インレー、クラウン(いずれも保険適用内)などの種類があります。
被せ物や詰め物をすると、自分の歯と被せ物の間に境目ができます。そこに汚れが溜まりやすくなるのです。とくに銀歯は、本来は歯とはくっつかない材質で、セメントの接着で無理やり止めているため、セメントの隙間から虫歯菌が侵入し、虫歯を詰め物の下から膨張させてしまうことがあります。それが「一度、虫歯になった歯は、再び虫歯になりやすい理由」なのです。
歯科治療はよく「減点式」表されることがあります。上下の歯のすべてが自分の歯である状態が、100点満点。とても素晴らしい状態です。1本虫歯ができると、マイナス10点で90点になります。
虫歯治療をしても、健康な歯が虫歯菌によって損なわれたので、10点すべてをカバーして再び100点に戻ることはありません。そしてまた虫歯になるとマイナス10点で計80点になる……という具合にトラブルごとに減点されていきます。
歯科治療は、いかにその点数をキープできるかを考えていきます。ですので、一度虫歯治療をしたらそれで完了ではありません。治療後は「どうすれば悪化しないか」に意識を向けることが大切です。毎日の歯磨きをはじめ、口内洗浄液やデンタルフロスなどを使用して、なるべく口内を清潔な状態に保つよう心がけましょう。
■ 小谷 航(こたに・わたる)
コンシェルクリニックグループ代表、医療法人社団航路会理事長。親知らずやインプラントをはじめ口腔外科領域を得意としている。あらゆる歯科分野にも対応した総合的な歯科医院を目指し、医科も併設したクリニックを展開。グループには歯科医院をはじめ、耳鼻科クリニックや美容クリニックを含め、各種専門医が協力して顎顔面領域に特化した医療を提供している。
小谷氏の著書:
『歯医者が教える 歯のQ&A大全』
コンシェルクリニックグループ代表・医療法人社団航路会理事長 小谷 航