心を込めてモノをつくっても、なかなか売れない時代。広報・PRの担当者に限らず、ほぼすべてのビジネスパーソンにとって、いまやPRの基本的な知識は必須のノウハウといえます。

 この記事では、拙著『サニーサイドアップの手とり足とりPR』から、メディアやSNSで取り上げてもらえるPR企画を考えるのに重要な「ストーリーを組み立てる」「具体案を組み立てる」というポイントを解説しつつ、それぞれ実際に考えたりアイデアを出したりするときに役に立つツールを紹介します。

ストーリーを組み立てる:情報に「ニュース性」を持たせる4つのポイント

 PR施策を立てるための戦術のひとつは、社会性に則った方向で打ち出す「順張り」、または社会性と正反対の文脈を描く「逆張り」のストーリーを仕上げることです。PR企画のポイントは、この「社会性」と「順張り/逆張り」との掛け合わせだといえます。では、「社会性」とは具体的に何のことでしょうか?

 PRに社会性を持たせるということは、言い換えると「ニュース性を持たせる」ということです。それによってPRしたい商品が「世の中において価値のあるもの」として認識され、注目を浴び、流行していくきっかけになります。具体的な視点としては、「トレンド」「生活者ニーズ」「世の中の機運」「社会的課題」などが挙げられます。

・トレンド
 世の中で流行っていたり、話題になっていたりする言動や商品・サービスのこと。イチから話題を作っていくのが理想ですが、すでに流行や話題になっているものがあれば、それに乗っかるのもひとつのやり方です。
 例)毎回名言続出のドラマ、女子高生の間でよく使われている言葉 など

・生活者ニーズ
 向上したいというプラスな気持ちも、不満や不安などのマイナスな気持ちも、どちらもが生活者ニーズです。すでに明らかになっている顕在ニーズと、まだ浮き彫りにされていない潜在ニーズがあります。
 例)新型コロナウイルス感染症の流行で外出できないが、行きつけのお店を応援したい、運動不足を解消したい など

・世の中の機運
 社会情勢が反映された人々の気持ちや期待、物事のことを指します。誰しもが納得できる少し先の未来の状況や、それに関連した人の心情です。
 例)感染対策への意識が向上、若年層のクルマ離れ、自宅内のオンライン化が浸透 など

・社会的課題
 SDGsに含まれるような世界規模の課題から、日本国内における課題、ある地域や属性の人に限った課題まで、対象範囲は大小さまざまですが、直接関係ないと思われる方でも課題だと認識できるものです。
 例)地球温暖化、女性への差別・偏見、障がい者が使いにくい設計の施設、地域の落書き問題 など

順張りと逆張り

 順張りとは、「Aという事象が広まっている中、A+というサービスが始まりました」というように、社会性に則ったものとして商品やサービスを位置づけることです。世の中の大きな流れに入り込むことができるので、話題になりやすいという特徴があります。その流れの進化系として見せることができると、よりよいストーリーになります。

 一方で、先にポジションを取っている競合商品などがあるため、二番煎じになる可能性もあり、爆発的な話題にするのは難しいという面もあります。

 逆張りとは、「Aという事象が広まっている中、真逆のBというサービスが始まりました」など、社会性と正反対のものとして商品やサービスを位置づけることです。世の中の流れに反したポジション取りをするため、潜在ニーズをつかむことができれば、面白い情報として話題になる可能性があります。

 反面、世の中の逆を行くため、共感を得られないというリスクもあります。

同じ商品をPRするための「順張り」「逆張り」ストーリー

 たとえば、「全世代的な健康意識の高まり」という社会性にフォーカスし、健康食品会社が商品をPRするために、「順張り」「逆張り」では、それぞれ次のようなストーリーを描くことができます。

例)「順張り」ストーリー
 全世代的に健康意識が高まっている中、さらに高齢者の健康意識を高めるために、健康食品会社が90歳以上限定の5kmマラソン大会を実施。参加者にはゴールで健康食品を配布しました。

例)「逆張り」ストーリー
 全世代的に健康意識の高まる中、たまには食欲を解放させようと健康食品会社がジャンクフード食べ放題のイベントを実施。参加者には今日の罪悪感をリセットするために健康食品が配布されました。

具体案を組み立てる:インプットとアウトプットの方法

 具体案を組み立てるには、既存の要素を新しく組み合わせたアイデアが必要です。アイデアを出すには、普段から知識を蓄えることと、物事の関連性を見つけ出して、組み合わせ方を工夫するのがポイントになります。アイデアの作り方には、シンプルな過程と簡単な公式があるので、トレーニングすれば誰でもたくさんのアイデアを出せるようになります。

 アイデアは、名著『アイデアのつくり方』(ジェームズ・ウェブ・ヤング著)でも書かれているように、「既存のアイデアや事象の組み合わせ」と捉えると、誰でも簡単に作れるようになります。たとえば、別の業界・違うジャンルで流行った事象やバズった企画を自社の商品・サービスに置き換えたり、さらに別の要素を付加したりすることで、新しいアイデアが生まれます。

 アイデアの作り方を鍛える要素としては、「知識を蓄えること」と「組み合わせ方を工夫すること」です。そもそも既存のアイデアや事象を知らなければ、組み合わせを生み出すことはできません。事例や企画だけではなく、自社の事業に関連すること、世の中全体での関心事など、多岐にわたるインプットが武器になります。また、組み合わせてアウトプットするコツはいろいろありますが、そのための便利なツールものちほどご紹介します。

知識を蓄えるインプット

 さまざまなネタがまとまっている雑誌は貴重な情報源です。自社の業界誌以外にも、PR業界誌を中心に、ビジネス系メディアなども読んでみましょう。Webサイトと比較すると、深い考察や掘り下げたインタビューなど、一般的には記事のクオリティが高く、企画立案の参考になります。

・宣伝会議/広報会議/販促会議
・ブレーン
・100万社のマーケティング
・日経クロストレンド
・日経BPマーケティング
・NewsPicks Magazine
・広告
・MarkeZine など

 また、毎日情報が更新されるWebサイトも、とても役に立ちます。PR業界や競合他社のサイト、オウンドメディア、SNSなども情報の宝庫。まさにいま話題の「旬の事例」が手に入ります。

・advanced by massmedian
・アドタイ
・街角のクリエイティブ
・Campaign Japan
・SMMLab
・DIGIDAY など

筆者の吉田誠氏による共著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

知識を自分のものにするアウトプット

 気になったリリースの切り口、プロモーションイベント、話題になった広告などをピックアップして、自分なりに咀嚼した上で、事例集として「自分の言葉でまとめる」のがいいでしょう。得た情報が定着しやすくなります。

 たとえばワードやパワーポイント、スプレッドシートにして資料化したり、ブログや「note」に記事を上げたり、SNSで発信したりなど、やり方はさまざまなものがあります。

 次に、「マッチングリボン」という手法をご紹介します。視野を広げたり組み合わせ方を工夫したりするために、商材が持っている特徴と、ターゲットのインサイト(本人も気づいていない購買意欲のツボ)やトレンド、ライフシーンを掛け合わせるのが「マッチングリボン」です。たとえば熱海温泉に若い世代を呼びたい場合、それぞれ10個ずつキーワードを出して掛け合わせてみましょう。短い時間に多数のアイデアを簡単に出すことができます〈別図版1参照〉。

図版1 マッチングリボンの使い方

 ニーズマンダラートについてもご紹介しましょう。まず9つのマスを用意し、商材が持っている特徴や要素を洗い出します。次に、その要素を「ニーズ」に変換します。最後に、「そのニーズを満たす別のモノ」を考えるという手法がニーズマンダラートです〈別図版2参照〉。

図版2 ニーズマンダラートの使い方

 マッチングリボンより手順は多いですが、より幅広いアイデアが出やすいのがニーズマンダラートの特徴です。これらのツールを使って、ぜひよい企画を生み出してください。

 

■ 吉田 誠(よしだ・まこと)
 株式会社サニーサイドアップ PRプランナー、アカウントプランニング局 プランニング部部長。2008年入社。BtoBからBtoCまで幅広い企業の広報・PR企画を立案。社会的課題や生活者インサイトを捉えたストーリー性のあるPR戦略の策定を得意とし、実績も多数。企業向けの広報セミナーなども数多く行っている。

 

吉田氏による共著書:
サニーサイドアップの手とり足とりPR