何かいい企画、考えてよ

 こんな無茶振りをされたことはありませんか? なんとか企画書にしてみるものの、上司やクライアントの反応は微妙……。そのうちに何も思い付かなくなってしまった。こんな経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。

 企画について書かれた本やブログには、「アイデアを生むコツ」が書かれているものが大半です。しかし、実は「アイデア自体に価値はない」のです。この記事では、拙著『企画――「いい企画」なんて存在しない』をもとに、ビジネスにおいて企画をする上で必要な考え方についてお伝えします。

企画とは「決めること」である

 そもそも、企画とは何なのでしょうか? 辞書では「あることを行うために計画を立てること。また、その企画」(『明鏡国語辞典』第二版)と書かれています。

 しかし、企画とは「何かを実行するために必要なことを決めること」です。「企画=決めること」とはどういうこと? と思う方もいますよね。例を挙げて考えてみましょう。

 上司に「何でもいいから新しい企画を出せ」と言われた会社員を仮にショウコさんとします。ショウコさんが最初にすべきことは何でしょうか。それは、最終的な目的を「決める」ことです。

 最終的な目的が「優秀な社員を採用するために自社のイメージをアップしたい」場合と、「伸びそうで伸びない新商品の売上を上げたい」場合では、目指すべき方向は全然違いますよね。今回の例では、「新商品の売上を上げる」ことを目的としてみましょう。

 次に、予算を決めます。3億円あれば、有名タレントを起用したテレビCMを放映する案も候補に挙げることができますが、0円の場合はSNSなどの無料ツールを使うしかありません。

 予算が決まったら、「誰のどんなリアクションを期待するか」を考えます。丸ノ内で働く20代の女性に「これ、すごくオシャレ!」と思ってもらいたいのか。それとも、40代の主婦に「なんだか便利そうだな」と思ってもらいたいのか。

「なんでもいいから企画を考えて」という状態では、何から手をつけていいか分からないですよね。ですが、「丸の内で働く20代の女性に、自社商品を『すごくオシャレ』と感じて買ってもらうためのオンラインイベントを、予算100万円以内で行う」というところまで決まっていればどうでしょうか。次に何をするべきか、見えてきませんか?

 企画がない状態とは、逆に「可能性が無限にある状態」とも言えます。選択肢がありすぎると、何をすればいいのか分からなくなってしまいます。ものごとを決めていくことで、無限にある可能性がひとつずつ間引かれていき、おのずと進むべき道筋があらわになるのです。

 これが、「企画とは決めること」である、という理由です。

AI時代には「決めること」が価値を持つ

 ビジネスにおける企画に限らず、「決める」という行為は、これからの時代で価値を持つようになります。いま、AIは人間の生活に必要不可欠になりつつありますが、これはAIの進化と人間の役割の話です。

 AIは、生きていく上で「これをしたほうがいいよ」「この時期がいいかもね」「こんな可能性もあるよね」といろいろなことをすすめてくれます。いわゆる「あなたへのおすすめ」といったレコメンド機能を思い浮かべてもらえれば分かるでしょう。

 しかし、AIは「決める」ということをしません。決めるのは人間です。いくらAIが選択肢を提示したとしても、決定権は人間にあります。「Aの選択肢」を選べば99%成功すると提示されても、成功確率1%だけど「楽しそう」だと感じた「Bの選択肢」を選ぶこともできるのです。

 アイデアはゼロから生まれているわけではありません。これまで世の中にあったコトやモノの組み合わせによって生まれます。ということは、「企画」も近い将来、あらゆることをビッグデータとして、AIがいくらでもつくることができるようになります。そうすると「企画の価値」は、「人間が決めた」という事実から生じることになるでしょう。

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「制約」が企画を生む

 企画は「決めることで選択肢を少なくすることができる」というお話をしました。これと同じで、企画を考える前提条件が決まっていると、企画は成り立ちやすくなります。

 予算、期日、規模……このような前提条件は、企画の自由度を奪うかのように感じられることも多いのではないでしょうか。「あと100万円あったらこんなことができるのに」「あと1カ月あればあんなこともできるのに」などなど。しかし、こうした「制約」があるからこそ当たる企画もあります。

『カメラを止めるな!』など、低予算であるがゆえに当たった映画やコンテンツのエピソードはよく耳にするでしょう。CMは15秒や30秒だからCMとして認識されますし、俳句も十七音や季語という制約によって文化になりました。

「まったく制約のない企画」は存在しないと言っても過言ではありません。近年では、コンプライアンスに気をつけてと言われることも多く、「コンプライアンスを気にするがあまり面白い企画ができなくなった」という意見もよく見られるようになりました。しかし、コンプライアンスも制約です。制約を理由に企画できないのはただの言い訳であり、そもそも企画というものを理解できていないということなのです。

企画に「特別な才能」はいらない

 企画ができる人とは、特別な才能の持ち主ではありません。企画とは、「決めるプロセス」「決めた結果」に過ぎないのです。

 企画に対するイメージは変わりましたか? 上司やクライアントからの「無茶振り」は、お伝えしてきたような考え方を使って「実行するために必要なことを決める」ことで、無茶振りではなくなるかもしれません。

 

■ 高瀬敦也(たかせ・あつや)
 コンテンツプロデューサー。原作企画者。株式会社ジェネレートワン代表取締役CEO。
 フジテレビ在職中「逃走中」「ヌメロン」「有吉の夏休み」などを企画。ゲーム化もプロデュースした「逃走中」は累計100万本を達成。独立後は多分野でヒットコンテンツを企画。YouTubeチャンネル「お金のまなびば!」の動画プロデュース・ Twitterでの「伯方の塩二代目声優オーディション」・日本酒「騨飛龍」のプロデュースなど、現在15社以上で顧問・アドバイザーを務める。「メンバー全員がコンテンツを創って世に出しまくる」ことを応援するオンラインサロン「コンテンツファクトリー2030」主宰。著書『人がうごく コンテンツのつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)はベストセラー。

 

高瀬氏の著書:
企画――「いい企画」なんて存在しない

高瀬 敦也