この記事の読みどころ
波乱続きであった2016年も終わりに近づき、来年のテーマを考える時期になってきました。
来年のテーマの1つに中国があげられると思います。中国の経済成長率は来年低下するのか、中国の債務問題は解決に向かうのかなど、恐らく来年も中国の話題が尽きることは無いと見ています。
そんな中、中国の債券利回りが上昇(価格は下落)しています。その背景のうち、誰でも思いつき、分かりやすいのは米国でトランプ氏が次期大統領に選出されたことに伴いグローバルで債券利回りが上昇したことです。
ただし、今回の中国の債券利回りの上昇はトランプ次期大統領以外の要因にも注目すべきと見ています。
中国10年国債利回り:上昇(価格は下落)が続き、約1年4カ月ぶりの高水準
中国の10年物国債利回りは、2016年12月20日も上昇傾向を維持しています。10月には3%を下回っていた中国の10年物国債利回りは、現在では3.5%近辺にまで上昇しています。
たとえば、銀行間資金の取引センター(NIFC)による、中国10年債(2026年11月償還、ビッド)の利回りは20日に前日比で0.1%上昇し3.5%と、1年4カ月ぶりの高水準となりました。
どこに注目すべきか:生産者物価指数、キャリー取引、買戻し
中国国債利回り上昇の背景はいくつか考えられますが、最も分かりやすいのは米国トランプ次期大統領の選出に伴なうグローバルな利回り上昇です。ただし、今回の中国の債券利回りの上昇ではトランプ次期大統領以外の以下の要因に注目すべきと見ています。
まず、目に付くところでは中国のインフレ率上昇懸念です。
消費者物価指数(CPI)は前年同月比で足元2.3%と概ね横ばいの動きですが、生産者物価指数(PPI)は上昇傾向で足元は前年同月比で3.3%と急上昇しています。2016年8月までPPIはマイナス圏で推移していたことを考えれば大きな変化が見られます。この生産者物価の上昇は、今後CPIへ波及することも懸念されます。
また、人民元安傾向が続いていることから、輸入物価の上昇がインフレ率を上昇させる可能性も懸念されます。ひょっとすると、実体はもう少し深刻かもしれません。横ばいに見えるCPIですが、輸入価格の影響を受けやすい食料品価格の部分だけを見ると前年同月比で4.0%となっており、生活実感はCPIが示唆する数字以上に悪化している可能性もあります。
2つ目は中国債券市場の取引に中国当局が懸念を強めているとの憶測です。
中国債券市場では、短期金利で資金調達し長期債券に投資するキャリー取引が盛んと言われています。しかし、キャリー取引は調達と運用期間が一致しない(ミスマッチ)という問題があります。過去、市場ではしばしば、調達と運用期間が一致しないキャリー取引は市場混乱の原因となっています。
たとえば、資金調達している短期金利が上昇した場合、同様のポジションをとった投資家が一斉に解消の必要性に迫られ、市場の大きな変動となったからです。中国当局はこれ以上キャリー取引が拡大するのを抑制するためオペで資金を絞り、キャリー取引解消を促すとの憶測が市場で見られます。
この憶測を確実性の高いものにしたのが、16日に閉幕した中央経済工作会議です。中国当局から、金融市場の安定に向け踏み込んだ発言があったからで、当局が強い姿勢で取引拡大に取り組む可能性が想定されます。このキャリー取引解消による債券の売り圧力も利回り上昇(価格は下落)の要因と見られます。
また、中国当局が取り締まりを強めると思われる別の分野が、いわゆる理財商品への監督強化です。中国当局が同商品への監督強化を厳しくする意向を示唆したことも債券へのマイナス要因と見られます。
最後に、中堅証券会社の債務不履行(報道)による債券市場のセンチメントの悪化です。
報道では、国海証券が債券取引で売却先からの『暗黙の』買い戻しの合意を(恐らく、債券価格の下落を受け)履行しなかったと伝えられたことなどが債券市場のセンチメントを悪化させたと見られます。もっとも、21日の報道では同証券は不履行を回避するとも伝えられています。
それでも、同取引が行われていた背景には、当局のレバレッジ規制回避に使われていたことがある模様で、どの程度かを推定するのは困難ですが、同様の取引解消が今後も債券の売り要因になる可能性もあり、債券市場の下押し圧力に注意が必要と思われます。
中国については、2017年も注目の的であり続けると見ています。