あなたは、自分が好きですか? わたしは自分が大嫌いでした。
内閣府がおこなった2018年度の調査によると、「自分自身に満足している」と答えた日本の若者は全体の10.4%でした。これは、アメリカの57.9%、イギリスの42.0%、韓国の36.3%に比べても、低い数値といえます(「令和元年版 子供・若者白書」より)。日本の若者は、他の国々の若者と比べても自己肯定感が非常に低いのです。
わたしも例に漏れず、そうした「自己肯定感が低い若者」の一人でしたが、あるきっかけで人生が大きく変わりました。
この記事では、拙著『New Me わたしだけの新しい人生の見つけかた』をもとに、現在はヨガスクールの代表であり、哲学講師を務めるわたしが、自分自身の体験を交えて「自分らしく生きるヒント」をお伝えします。
自分を変えたくて、大学卒業後はロンドンに留学
最初に少しわたしの話をさせてください。わたしはずっと「変わりたい」と思ってきました。変わることで、自分を好きになりたいと思い続けてきたのです。
わたしは「大学に行けばやりたいことが見つかる」と信じて、大学へ進学しました。しかし、結局は何も見つからず、今度は「海外に行けばやりたいことが見つかる」と思い、大学卒業後にロンドンへ留学しました。最初は思い描いていた留学生活と現実とのギャップに苦しみましたが、少しずつ「自分にはできなさそうなこと」にも挑戦していくうちに、できることが増え、毎日が楽しくなっていきました。
でも、そんな一見充実した時間の中で、ふとした時に感じてしまったのです。「友達や環境のことは少しずつ好きになったけれど、自分自身のことは少しも好きになれていない。わたしは何も変われていない。ロンドンに来たのは無駄だったのかも……」と。
アルバイトをして貯めた留学費用は底をつき始め、あと少しで半年間の留学が終わってしまう。留学が終わるころには英語がペラペラになっていて、やりたいことも見つかっているはずだった。でも、そんな状態にはほど遠い。焦れば焦るほどに動けなくなってしまいます。わたしは自信をなくし、最終的には留学先の学校で2カ月に1回実施される最後の英語のレベルチェックテストにも落ちてしまったのです。
わたしは結局、変わっていなかった
そのテストでは、先生から「君はスピーキング力が全然ないから、次のレベルには達していない」と評価されました。そのことにショックを受けて、ネガティブ思考に入ってしまいました。
ロンドンで半年間頑張ってきたけれど、結局、英語を話せるようにはなれなかった。やりたいことも見つかっていない。自分のことも嫌いなまま。そう実感したことで、「もう学校に行きたくない」と最後の1カ月間は学校をサボりがちになり、部屋に引きこもってしまったのです。
環境が変わったとしても、わたしはわたしで変わることはなかった。海外に行くと決意した大学卒業時のあの覚悟も、結局は単なる「逃げ」だったのかもしれない。わたしは負け犬だ。みんなからも言われたように、あのときの選択は失敗だったのかもしれない。そう思いながら、日本に帰国することになりました。これがわたしのロンドンでの挫折経験です。
今あるものやできることに目を向ける
その後、わたしは紆余曲折あって、ヨガの教えを学ぶことになります。「ヨガ」と聞くとポーズを思い浮かべる方が多いと思いますが、ヨガとは「生き方」です。
実はヨガの教えでは、「なりたい自分になって新しい人生を歩むための8つの段階」について語られています。のちほどもう少し詳しく解説しますが、それは「八支則(はっしそく)」という教えです。この八支則とは、ヨガを実修するための8つの段階・行法のことです。このヨガの教えを学んだとき、わたしは自分に足りなかったものに気づき、人生が大きく変わったのです。
八支則の第2段階である「ニヤマ(勧戒)」は、進んで行うべき5つの心得、いわゆる「自己規律」のことです。その5つの心得のうち、2番目に出てくる「サントーシャ(知足)」は「持っているものに目を向けること」を意味します。自分にできないことや、足りないと思うことに意識を向けるのではなく、今あるものやできることに目を向け、感謝する心を養うことが、サントーシャの教えです。わたしにはこれが足りなかったのです。
ロンドン留学していたときのわたしは、他人と自分を比べては落ち込んでいました。もしその頃のわたしがサントーシャの教えを実践していたら、結果は変わっていたはずです。「今あるもの」に意識を向けていたら、自信をなくすことなく、最後までいろいろなことに挑戦できたでしょう。筆記テストは得意だったので、英語の知識は頭にしっかりと入っていた。そのことに意識を向けていれば、スピーキングテストでも自信をもって話せたはずです。
ヨガは「生き方」を教えてくれるもの
ロンドン留学の挫折体験は、わたしの人生のほんの一部にすぎません。ほかにもいろいろなことに挑戦しては失敗し、何度も挫折を経験し、なかなか自分を好きになれずにもがいてきたのです。けれども、ヨガの教えに出合い、わたしは変わりました。
わたしを変えてくれた八支則の教えは、次のようなものです。
【ヨガの八支則】
第1段階:ヤマ(Yama)/禁戒
第2段階:ニヤマ(Niyama)/勧戒
第3段階:アーサナ(Asana)/坐法
第4段階:プラーナヤマ(Pranayama)/呼吸法
第5段階:プラティヤハーラ(Pratyahara)/制感
第6段階:ダーラナー(Dharana)/集中
第7段階:ディヤーナ(Dhyana)/瞑想
第8段階:サマディー(Samadhi)/三昧
馴染みのない言葉に、「ちょっと難しいな……」と感じた方もいるでしょう。わたし自身も最初にインドで八支則を教わったとき、正直、まったく意味がわかりませんでした。しかし、何度もこの八支則に触れ、学びを深めていくうちに、この教えが自分の人生での出来事とつながる瞬間がありました。そこではじめてこの教えの大切さに気付き、救われた自分がいたのです。
だからこそ、ヨガの「エクササイズ」を教えるインストラクターではなく、ヨガの「哲学」を伝える哲学講師として、わたしは歩み始めました。
ガンディーも掲げた「非暴力」は、誰にとっても身近な教え
昔のわたしのように「自分のことが嫌い」だと言う人に、ぜひ知ってほしい教えがあります。それは、「アヒンサ(非暴力)」です。
ヨガの八支則における第1段階である「ヤマ(禁戒)」は、慎むべき5つの心得であり、環境や人間関係を良い状態に保つために自制すべきこと。いわゆる「社会的モラル」です。ヤマの5つの心得のうち、最初の教えが「アヒンサ」で、とても大切な教えといわれています。「インド独立の父」と呼ばれるマハトマ・ガンディーが、独立運動のモットーに「アヒンサ」を掲げ、武器や戦力を使わずして、インドの独立を成し遂げたことは有名な話ですね。
「暴力」という強い言葉を聞くと、誰しも「自分は暴力なんてふるっていないから、関係ない」と思うのではないでしょうか。わたしも初めてアヒンサの教えを学んだとき、暴力なんて自分とは無縁だと思っていました。しかし、学びを深めるうちに、アヒンサの意味はとても深く、とても身近な教えであることに気付きます。たとえば、
・誰かを傷つける言動を慎むこと
・自分の怒りに他人を巻き込まない
・誰かの時間を悪口などで奪わない
・冷たい視線や態度で傷つけない
・不満をぶつけて八つ当たりしない
このようなことも、アヒンサの教えだと知りました。
「わたしを大切にしないこと」も自分に対する暴力
暴力とは、他人に対するものばかりではありません。アヒンサの教えでは、「自分を責めること」や「自分を傷つける言葉」も、自分自身に対する暴力だと説かれています。
わたしは長い間、自分のことが大嫌いで、カラダにも心にもコンプレックスばかり抱えて、自分を肯定できずにいました。でも、自分自身に投げつけていたそれらの言葉たちは、自分に対する暴力だったのです。また、「無視すること」も暴力といわれます。本当の自分を知らないことは、自分自身を無視すること。他人に対して過剰に謙遜したり、自己卑下したりすることも、本当のわたしを無視する行為です。アヒンサを意識することで、考え方や行動、言葉、生き方全体を少しずつ変えていくことができました。
今は自分のことが嫌いなあなたも、アヒンサの教えにならい、自分に暴力をふるうことをやめてみてほしいのです。以前のわたしのように「自分には何もない」と思ってしまったときは、サントーシャの教えを思い出して、自分が持っているものに目を向けてみてほしいのです。
■ 横幕 真理(よこまく・まり)
株式会社MAJOLI 代表取締役。一般社団法人 国際ヨガアカデミー協会代表理事。自分のことが嫌いでコンプレックスだらけだった過去と決別し「変わりたい」一心でインドに渡り、ヨガに出合う。その後インド、オーストラリア(バイロンベイ)、インドネシア(バリ島)と3カ国にヨガ留学し、日本に500人ほどしかいないと言われるヨガ講師資格、RYT500を取得。2018年に29歳で起業し、全米ヨガアライアンス公式認定ヨガスクールMAJOLIを創設。2020年4月に開講したヨガ業界初のオンライン資格取得講座は、半年間で受講生500名を超える人気講座に。インドヨガ哲学の教えを現代の日本人女性向けにわかりやすく解説し、「わたしらしい生き方」や「自分を好きになる方法」を伝えている。
横幕氏の著書:
『New Me わたしだけの新しい人生の見つけかた』
横幕 真理