2021年5月14日に行われた、日本空港ビルデング株式会社2021年3月期決算説明会の内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー:日本空港ビルデング株式会社 代表取締役社長執行役員兼COO 横田信秋 氏

1. 2021年3月期 連結決算総括(1)事業環境

横田信秋氏:こんにちは。代表取締役社長の横田信秋でございます。みなさまには、日頃より弊社事業の運営へ、ご理解とご支援を賜りまして、誠にありがとうございます。

本日は、弊社の2021年3月期決算説明会にあたり、私から前期の連結決算の総括、後期の連結業績予想、そして、事業運営の方向性についてご説明します。

2ページをご覧ください。はじめに、2021年3月期の連結決算について、ご説明します。事業環境については、みなさまもご承知のとおり、コロナ禍により航空業界は大きな影響を受け、非常に厳しいものとなっています。

羽田空港の旅客数においても、実績は芳しくなく、足元でも同じような状況が続いています。国内線の旅客数は、4月以降、移動の自粛要請により大幅に減少しましたが、その後「Go Toトラベル」などにより、秋頃には前半の半分近くまで回復しました。しかし今年1月に緊急事態宣言が再度発出され、再び低い水準となりました。

国際線の旅客数は、足元においても各国との間で渡航が制限され、需要が低迷した状態が続いています。それらの結果、通期の旅客数実績は、羽田国内線で前期比70.3パーセント減、羽田国際線で前期比97.5パーセント減となりました。

1. 2021年3月期 連結決算総括(2)主な取り組み

3ページをご覧ください。このような事業環境の中、必要な緊急措置を取り続けた1年でした。まずは社会インフラである空港において、新型コロナウイルスの感染を起こさないために、感染拡大予防ガイドラインに基づいた対策を徹底しています。

さらに、PCR検査体制の整備や、非接触・非対面技術の導入を進め、お客さまに安心してご利用いただける環境を確保しています。また、激変する事業環境に対応しながら、旅客動向に応じたターミナル運営の見直しを行い、業務プロセスや事業計画の見直しを行いました。

旅客に依存しない収益源の確保に努める一方で、航空会社やテナント店舗への家賃減免措置を実施するなど、ステークホルダーにも配慮した柔軟な事業運営を行っています。

さらには、コスト削減や設備投資の見直しにより、資金流出を抑制しつつ、提携金融機関の危機対応融資の活用や、複数銀行の短期借入枠を設定するなど、手元流動性の確保に努めました。

また、今後の設備投資資金の確保のため公募投資を行い、自己資本を拡充する一方で、旅客減の影響を大きく受けているグループ会社への支援を行うなど、財務基盤の強化を進めています。

1. 2021年3月期 連結決算総括(3)通期連結業績

4ページをご覧ください。2021年3月期の連結業績は、資料の赤枠に記載のとおり、売上高は525億円と79パーセント減少しました。営業損失はマイナス590億円、経常損失はマイナス573億円、当期純損失はマイナス365億円となりました。

国内線・国際線の旅客数の大幅な減少で、施設利用料収入や商品売上などが大きく落ち込み、売上高はすべてのセグメントで減収となりました。そのような中、さまざまなコスト削減に取り組みましたが、減収の影響と、前期までの大規模投資に伴う減価償却費の増加などもあり、大幅な営業赤字となっています。

また当期純利益においても、固定資産の減損損失や、一部の連結子会社で繰延税金資産を取り崩したことなどにより、赤字となりました。修正予想との比較では、不透明な国際線旅客数の見通しを反映し、一部の免税品の処分料も当期に取り込んだことなどにより、営業利益ベースでは、わずかに予想を下回っています。

大変遺憾ではありますが、このような状況を踏まえ、配当金については、中間・期末とも無配としました。

1. 2021年3月期 連結決算総括(4)通期連結業績(TIAT連結の影響額)

5ページをご覧ください。ここでは、TIAT連結の影響額を示しています。2020年3月における国際線発着枠の拡大に合わせて、施設整備や人員増強を実施してきたところでしたが、コロナ禍によって旅客数が大きく落ち込みました。

そのため、ターミナルの民営コストの削減にも取り組みましたが、これまでの投資による固定費の増加もあり、大幅な営業赤字となっています。国際線の旅客数は、当面厳しい状況が続くことが予想されますが、徹底したコストマネジメントにより、業績の改善を図っていきます。

1. 2021年3月期 連結決算総括(5)公募増資等による資金調達

6ページをご覧ください。今般のコロナ禍を受け、本年3月に、当社は上場以来となる公募投資を行いました。今後のターミナル整備に掛かる資金を確保し、コロナ禍が長期化した場合にも、需要回復時を見据えた成長戦略を停滞なく実行するため、財務基盤の強化が重要との判断に至りました。

そして、当社事業の公共性に鑑み、公募により資金を集めることにしました。この結果、総額567億円の資金を調達し、自己資本比率は34パーセントとなりました。なお、資金使途となる投資計画の内容については、後ほどご説明します。

1. 2021年3月期 連結決算総括(6)会計基準変更の影響額

7ページをご覧ください。ここでは、会計基準変更の影響額についてご説明します。今期から、収益認識に関する会計基準が適用されることに伴い、当社の売上は約1割減少しますが、利益面での影響はないと見ています。

このスライドの表は、前期の数字を当会計基準に組み替えたもので、国内専売店の消化仕入れや、国際線売店および飲食店舗業務受託などの売上が変更されています。なお、次ページ以降で説明する今期の業績予想数値において、比較対象となる前期実績については、組み換え後の数値を使用しています。

2. 2022年3月期 連結業績予想 (1)事業環境

事業環境としては、引き続き感染拡大に留意すべき状況にありますが、国内ではワクチンの普及が追い風となり、特に下期以降、航空需要の回復が見込まれるでしょう。世界的にもワクチン接種が進んでいる国を中心に、渡航制限が徐々に緩和されていくと想定されます。

旅客数については、国内線は、これまでの外出自粛の反動や、各種政策の後押し効果で段階的な回復傾向が続き、2022年3月末にはコロナ影響が深刻化する前の水準までに回復すると見込んでいます。

一方で、国際線の需要回復には時間を要する見込みですが、渡航制限が徐々に緩和されることで、就航便の運航や国際的な人の往来も再開し、2022年3月末では、発着枠拡大後の計画水準の46パーセントくらいまで回復すると見込んでいます。これらを踏まえて、通期の旅客数の予測は、資料のとおりとなります。

2. 2022年3月期 連結業績予想

9ページをご覧ください。ここでは、羽田空港の旅客の回復見通しをご説明します。旅客数については、IATA(国際航空運送協会)の需要想定を参考に作成しています。IATAの想定では、2019年の水準への回復時期を、国内線で2022年、国際線で2024年と予測しています。

羽田空港は日本の基幹空港としての需要が高いことから、国内線・国際線ともに、IATA予測より早い段階での回復を見込んでいます。羽田国内線は、2022年以降もビジネス利用の減少が考えられる一方、海外旅行の代替として、国内レジャー増加等により、コロナ前の水準を維持すると考えています。

羽田国際線は、発着枠がコロナ前と比較し1.4倍に拡大されています。加えてアジア地域では、他の地域に比べ、コロナ禍からの回復が早いと予想されています。それらを踏まえ、2023年度内には、発着枠拡大後の計画水準へ到達すると見込んでいます。

2.2022年3月期 連結業績予想(2)通期連結業績予想

10ページをご覧ください。次に、今期の業績予想についてご説明します。売上高は、国内線を中心に回復していくものと予想されます。一方で、コスト削減を堅持し、販管費は前期以下の水準に抑えることを目指しています。

そのような中、国内線事業は、営業利益が黒字へ転換する一方で、国際線事業は厳しい状況が続くと考えられます。売上向上策や利益改善策を講じても、固定費を賄う水準には至らず赤字となり、会社全体では、2期連続の赤字になると見ています。それにより、スライドの左の赤枠に記載のとおり、売上高は1,032億円、営業損失はマイナス178億円、経常損失はマイナス193億円を見込んでいます。

当期純損失は、マイナス103億円を予想しています。なお、配当金については、現時点で未定としています。当社の株主還元の基本方針である「安定的な配当」を継続して実施することに変更はありませんが、まずは収支改善に注力し、今後の状況を総合的に勘案した上で、配当を決定したいと考えています。

2. 2022年3月期 連結業績予想(3)営業利益、EBITDAの四半期推移

11ページをご覧ください。ここでは、羽田空港の国内線及び国際線の旅客数と、当社の営業利益、EBITDAの四半期推移を示しています。通期では赤字予想ではありますが、旅客数の回復に伴って、業績も回復すると見ています。第2四半期には、旅客数が国内線で65パーセント、国際線で21パーセントまで回復し、EBITDAがプラスに転換すると想定しています。

第4四半期には、旅客数が国内線で95パーセント、国際線で43パーセントまで回復し、営業利益もプラスに転換すると予想しています。これらを踏まえ、会社全体での黒字転換は、来期になると考えています。

2. 2022年3月期 連結業績予想(4)資金の状況

12ページをご覧ください。ここでは、今期の資金状況をご説明します。まず、営業キャッシュフローは、売上の増加とともに減価償却費のプラスがある一方で、国有財産使用料の前期猶予分と、当期分の2年分の支払い等もあり、プラス8億円程度と見ています。

投資キャッシュフローは、国内線ターミナル整備の着工で130億円を予定しているため、全体ではマイナス204億円を想定しています。財務キャッシュフローについては、転換社債の償還150億円を含めて、全体でマイナス118億円と見込んでいます。これに伴い、フリーキャッシュフローではマイナス195億円となります。

キャッシュバーンは、1ヶ月あたり28億円となり、いずれも回復傾向に向かっています。今期は設備投資などによる資金流出がありますが、十分な現預金を有するほか、未使用の短期借入枠やコミットメントラインを含めると、手元流動性は十分に確保していると考えています。

3. 事業運営の方向性(1)コロナ禍における経営課題

13ページをご覧ください。ここからは、コロナ禍における経営課題と、事業の方向性についてご説明します。2020年度は、コロナ禍による事業環境の悪化に対するコスト削減や投資の見直しなど、必要な緊急措置を実行した1年となりました。

今期は赤字幅の縮小に注力するとともに、2020年度以降を見据えて企業価値を向上させるべく、コロナ回復後の成長に備える1年と位置付けています。ターミナル運営における柔軟性と効率性の追求に加え、コストマネジメントのさらなる強化・徹底と、収益の多元化を目指します。

中期的には、変容する事業環境に対応できる、柔軟で強靭な事業体質への転換を目指します。利益体質の強化や、旅客に依存しない収益力の向上を図るとともに、将来の需要拡大を見据えて、羽田空港の機能強化にあたり、投資の効率性を追求していきます。

また、環境問題などの社会的課題に対応しつつ、持続的な事業成長に向けて、ESGなどの経営戦略を推進します。これらの取り組みを経て、2025年度にはコロナ以前の収益性を確保し、さらなる成長投資を推進していきます。

3. 事業運営の方向性(2)コストマネジメント

14ページをご覧ください。ここでは、コストマネジメントの状況についてご説明します。今期はコスト削減を堅持し、ターミナル運営の見直しにより、施設維持管理費の増加を抑制するほか、業務委託費のさらなる削減に繋げていきます。

集客および売上の回復に伴い、一部費用の増加が見込まれますが、販管費全体では、前期を下回る水準を目指しています。人員に対しては、全社を挙げた業務プロセスの見直しや、デジタル技術の活用による生産性の向上を図り、最適な人員配置等の検討を進めています。

さらに、研修制度の充実などにより、従業員のスキルアップとマルチタスク化を図り、グループ内での人材の有効活用に繋げ、外部への委託業務の内製化を進めていきたいと思います。今後、本格的な旅客需要および売上の回復局面に入った際にも、費用の増加を抑えられるよう、コスト構造改革を推進していきます。

3. 事業運営の方向性(3)収益の多元化

15ページをご覧ください。ここでは、収益の多元化の状況についてご説明します。航空旅客が減少する中、羽田空港限定商品の拡充などにより、収益基盤の強化がある一方で、販売代理店事業など、非航空旅客からの収益確保に向けた取り組みも進めています。

さらに、EC事業でも売上規模の拡大に取り組み、2025年度には、年間商品売上高の5パーセントにあたる売上の創出を目指しています。

また、かねてより地方自治体などと連携し、観光促進イベントの開催や地方産品の展開に取り組んできました。全国で観光産業が落ち込む中、取り組みをより一層強化することで、羽田空港を拠点に観光事業の回復に繋げ、地方創生にも貢献していきます。

コロナ禍に伴い、社会環境の人々の構造が変容する中で、当社はより一層の顧客起点の経営強化を行っていきます。デジタルマーケティングに取り組み、リアルとオンラインの双方でお客さまとの接点を拡大し、新たなサービスや施設を展開することで、収益力の向上を図っていきます。

3. 事業運営の方向性(4)ターミナル整備

16ページをご覧ください。ここでは、ターミナルの整備についてご説明します。まず第1ターミナルでは、国が行うエプロン改修工事に伴い、複数のスポットが閉鎖されることから、北側にサテライトを新設します。

旅客利便の影響を最小限に抑えるために、代替措置として確保するものですが、スポットの再編も伴うことから、今後の旅客需要の拡大にも対応できると考えています。

次に、第2ターミナルは、先の国際線施設の整備に伴って建設したサテライトと本館を接続します。これによってバス移動がなくなり、コネクティングタイムの短縮もあって、国際線への乗り継ぎ機能が強化され、利便性が向上します。併せて固定スポットが増設されることとなり、収益拡大に向けた店舗計画なども検討していきます。

これらの工期は約3年と見ており、コロナ回復後の旅客増を見据えて、今期より着工する予定です。

また第3ターミナルでは、ビジネスジェット専用施設を整備しており、7月に予定されるオリンピックに合わせオープンします。不特定多数との接触を回避できるビジネスジェットは、コロナ禍により今後の利用増が予想され、国際線回復の第一手として対応を進めていきます。

これらの3つの取り組みは、設備投資額が約500億円となりますが、これによって需要の変化に確実に対応し、柔軟な運営ができる旅客ターミナルへと進化させていきます。

3. 事業運営の方向性(5)ターミナル運営

17ページをご覧ください。ここでは、ターミナル運営の取り組みをご紹介します。まず、当社の経営方針の1つである「絶対安全の確立」のもと、お客さまの安心と安全を最優先に考え、感染症対策を徹底しています。今後も、関係機関や空港内事業者と連携し、新しい社会環境に応じた安全の確保に努めていきます。

また、今後自然災害やリスクに備えた安全対策にも、継続して取り組んでいきます。さらに、羽田空港では、ターミナル運営における先端技術等の積極的な活用を進め、これまでにAIやロボット技術を活用した案内サービス、保安検査場のスマートレーンなどを導入してきました。

今後は、顔認証技術を用いた「Face Express」の本格運用や、独自のノウハウを有した企業と連携することで、旅客利便性と業務効率性を追求し、スマートエアポート化を目指していきたいと思います。

3. 事業運営の方向性(6)ESGの取り組み

18ページをご覧ください。ここでは、ESGの取り組みをご説明します。環境への取り組みとしては、環境面に配慮したターミナル運営に向けて、自然エネルギーの活用や、羽田空港における焼却ごみの減量化を行っており、省エネ効果を持つ建築資材の活用と販売なども行っています。

今後は脱炭素が求められる中で、従来の取り組みの強化に加え、新たな環境施策を追求し、着実に実行していきます。

次に社会への取り組みとしては、コロナ禍でも空港を安心・安全にご利用いただけるよう、周辺地域の自治体や医療機関と連携し、PCR検査体制の構築を進めています。併せて、航空という交通インフラが、コロナ禍でも安全な移動手段であることを、お客さまにもご理解いただけるように取り組んでいきます。

今後も、公共性と企業性の調和の企業理念のもと、SDGsの体制に向けて、ESGの取り組みを推進していきます。

最後になりますが、航空業界はコロナ禍により、大きな打撃を受けているものの、長期的に見れば、航空需要は確実に回復していくものと考えています。その戻りは、これまでとは異なるかたちとなるかもしれませんが、引き続き、コスト削減と収益改善を推進し、企業価値の向上に努め、早期に黒字化を実現できるように努力していきます。

また、需要の回復とともに、以前の利益水準を超えるべく、柔軟で強靭な企業体質の構築を目指していきます。みなさま方におかれましても、ご理解とご支援を賜りたく、今後ともよろしくお願い申し上げます。説明は以上でございます。ありがとうございました。

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