一般社団法人電子情報技術産業協会(電子情報技術産業協会(JEITA)の半導体部会は5月19日、経済産業省に提言書「国際競争力強化を実現するための半導体戦略」を提出した。主要各国政府が自国の半導体産業へ相次いで大型支援を決め、国産化率向上や供給確保に注力していることに対し、日本も出遅れないよう官民の協力を呼びかけた。

各国政府が半導体産業へ大型支援

 半導体は世界市場規模が約50兆円あり、需要の増加から現在、供給不足に陥っている。コロナ禍がデータ駆動経済を一層加速しており、経済だけでなく安全保障の見地からも重要性を増しており、近年は各国政府が半導体産業への大型支援を打ち出している。

 中国が15兆円を超える半導体産業への政府支援を進めるなか、国家安全保障の問題として、米国の半導体業界が500億ドル(約5兆円)の政府補助金の必要性を提言。EUも半導体を含むデジタル分野に今後2~3年で1450億ユーロを投資する計画を打ち出し、韓国の半導体工業会も政府に提言書を提出した。JEITAも国家安全保障と国際競争力強化の観点から日本も支援や強化に出遅れることのないよう、それら主要国・地域の補助金に比肩する支援を求めている。

日本政府へ5項目の支援要請

 今回、提言書で支援を求めたのは①新たな時代の研究開発体制と支援、②新時代サプライチェーンへの支援、③国際的な半導体支援策の潮流への対応と国際的なイコールフッティングの実現、④輸出管理などの対応、⑤半導体に関する諮問委員会の設置、の5項目。

 ①では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた次世代半導体の開発支援を要請する。すでに政府からの支援でAIやポスト5Gに関する次世代半導体の研究開発を推進しているが、カーボンニュートラル実現に向けて、引き続きSiC、GaN、酸化ガリウムによる次世代パワー半導体の革新や、光配線化による光エレクトロニクス・デバイスの開発に対する支援を求めた。

米国政府と同等の資金支援を

 ②では、日本にない先端ファンドリーの基盤確保、ロジックの設計力強化やファブレスの育成などに支援を求めた。日本には現在、先端ロジックを製造できる微細化プロセスがない。日本は自助努力によって強い分野をさらに強くしていくが、先端半導体製造プロセスの前工程(微細化)、後工程(実装3Dパッケージなど)をはじめとした、国際的な企業連携を実施していく技術開発支援を要請する。また、地震・津波・台風などの自然災害に加え、不慮の事故による半導体工場などへの被害が生じた際の支援も求めた。

 ③では、米国の半導体業界が米国政府に要請している額(500億ドル)と同等を要請する。半導体の供給不足とならないように業界の自助努力による製造能力強化に加えて、既存事業の新規工場立ち上げをサポートする立地補助金スキームの構築を求めた。また、世界的な課題である再生可能エネルギー(再エネ)の活用は、日本の半導体産業でも不可避となっており、国際競争力のある再エネ価格の実現と、大量かつ安定的な再エネ供給のための社会インフラ・系統ネットワーク整備を求めた。

政府内に諮問委員会の設置要望

 ④では、米中貿易摩擦の過熱で両国が輸出管理強化策を次々と実施するなか、日本の半導体企業各社もビジネス上で多大な影響を受けている。安定的なビジネス環境の維持を確保するため、米中対立を背景とした輸出管理強化、中国輸出管理法におけるレアアースや蛍石など、日本の半導体産業に多大な影響を与える規制に対して政府の支援を要請した。

 ⑤では、内閣府など日本政府内に半導体戦略を議論する産官学による諮問委員会の設置を求める。米国政府では、国家安全保障の観点やグローバルサプライチェーンの再構築など半導体の国家戦略を議論するため、ホワイトハウス内に委員会を設置する方向。日本も政府内に半導体戦略を立案する議論の場が必要だとJEITAでは考えており、諮問委員会に上程する「半導体戦略の素案」を作成するため、JEITA半導体部会に機能構築の準備を進めていく方針だ。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏