11月30日の石油輸出機構(OPEC)総会を前に、原油相場の値動きが荒くなっています。OPECは大枠で合意している減産についての最終調整を進めていますが、詳細については当日まで議論が続く見通しです。こうした中で、米国ではトランプ新政権が発足する運びとなり、OPECへの影響がさまざまな視点から吟味されています。
OPEC総会ではイランとイラクへの対応がポイント
OPECは9月の会合で産油量を日量3,250万~3,300万バレルに制限することで合意していますので、関心は合意の中身となり、特にイランとイラクへの対応が注目されています。
10月現在の産油量は3,364万バレルですので、64万~114万バレルの減産が見込まれています。一方、全世界の石油需要から非OPECの生産量を差し引いた値を潜在的なOPECへの石油需要とみなして計算すると、2017年のOPECへの需要は3,269万バレルと推計されています。
したがって、レンジの下限である3,250万バレルに近い数字でないと2017年中の供給過剰の解消は期待薄となり、114万バレル相当の減産をどのように割り振るのかが問題となります。
ただし、政情不安で生産が落ち込んでいるナイジェリアとリビアは減産の対象外となる見通しです。また、経済制裁の解除で生産が回復中のイランも減産に難色を示しており、特別措置として、“現状維持”が認められる可能性があります。
ナイジェリアとリビア、イランを除くと10月の生産量の4.0%が111万バレルに相当しますので、各国に均等に割り振るのなら一律で4.0%程度の減産を実施すれはよい計算です。
OPECは2次情報ベース(事務局調査)と自己申告ベースの2つのソースで生産量を報告していますが、10月のイラクの自己申告が478万バレルなのに対し、2次情報では456万バレルと大きな差があることが問題となっています。
イラクは同国の生産が過小評価されていることを不満とし、減産の基準となる生産量を2次情報ではなく自己申告の数字にするように訴えています。
同様のことはイランにも言えますので、2次情報を大きく上回る自己申告ベースに基づくのであれば、イランも減産に合意するかも知れません。
イラン、イラクを始めとする加盟国間の生産枠の調整は難航も予想されており、最後の最後まで予断を許さない状況が続きそうです。
ロシアは減産には応じず“増産凍結”も
OPECは非OPEC産油国にも同調を求めており、特にロシアの動きが注目されています。サウジアラビアとロシアは今年2月に“増産凍結”で暫定合意していますが、最終的な合意には至りませんでした。イランの不参加が主な理由ではありますが、価格の上昇により危機感が薄れたことも指摘されています。
OPECは減産合意による原油価格の上昇を60ドル程度(1バレル当たり、以下同)と見込んでいますので、目標値としては60ドルが一つの目安となりそうです。一方、ロシアは原油価格が50ドル近辺であれば増産を凍結する必要はないとしており、OPECより目標が低い模様です。
11月23日現在、原油価格は48ドル前後で推移しています。OPECはロシアに対し日量50万バレルの減産を求めているようですが、ロシアは“増産凍結”で十分と考えている可能性もありそうです。
イラン、イラク、ロシアとの調整がこじれた場合、減産が先送りされる可能性も残されており、想定外のリスクとして警戒されています。
シェール企業は価格上昇に備えて増産準備
OPECが減産に向けて動いている一方で、OPECの減産を待って増産の準備を進めているのが米シェール企業です。米国の原油生産量は昨年6月の日量960万バレルから今年7月には840万バレルにまで減少しましたが、11月18日現在は870万バレルと最近は微増が続いています。
米国内では掘削を終了し生産待機の状態にある油井の数が増加しており、シェール企業は価格が上昇すればいつでも増産できる準備を整えています。
OPECは2017年の非OPECの原油供給を前年比でわずか23万バレルの増加と予想していますが、減産で価格が上昇した場合には、シェールオイルの増産を過小評価している可能性がありそうです。
OPEC内では、10月のナイジェリアの生産量が163万バレル、リビアは53万バレルとなっていますが、生産能力はナイジェリアが190万バレル、リビアは160万バレル程度が見込まれていますので、両国で生産が順調に回復した場合、140万バレル程度の増産となる可能性があります。
減産が合意されたとしても、米生産の増加や適用の除外が予想されるナイジェリアやリビアでの増産が減産を打ち消すかも知れません。また、価格が上昇した場合、ロシアが早々に合意から離脱する可能性もあります。
原油市場では過去の平均に比べ3億5,000万バレルほど在庫水準が高く、この過剰在庫の存在が価格を圧迫しています。今回のOPEC総会で減産が合意されたとしても、過剰在庫や供給過剰の解消、価格の回復には時間が必要となるかも知れません。
規制緩和でOPECとの価格競争は激化へ
トランプ次期政権のエネルギー政策はオバマ政権とはまったく異なります。OPECへの影響としては、エネルギーの“自給”と対イラン政策がポイントとして挙げられます。
トランプ氏は地球温暖化対策を決めた“パリ協定”からの離脱を明言しており、再生可能エネルギーを推進してきたオバマ政権の流れはストップすることになりそうです。一方、石炭、石油、天然ガスといった旧来型で低コストの化石燃料への傾斜が強まると予想されます。
エネルギー長官には“シェールオイルの父”と呼ばれる石油王ハロルド・ハム氏の就任が有力視されており、何れにしても化石燃料推進派が就くことは間違いなさそうです。
トランプ氏は「OPECからの輸入を不要にするため、米国が所有するエネルギー資源を開放し、エネルギー生産の障害となる規制を撤廃する」としており、エネルギーの自給を目標に掲げています。
そのため、エネルギー企業への減税措置や環境対策面での規制緩和でシェールオイルの生産コストが大幅に下がり、生産量が増えることで、OPECとの価格競争が激化することが予想されています。
中東政策ではイラン対策でサウジとの関係修復か
エネルギーの自立を語る時にはOPECとその盟主であるサウジアラビアとは対決姿勢となりますが、外交面での利害関係は一致しています。
トランプ次期大統領の中東政策は、イランやハマス、ヒズボラを敵視する一方で、ヨルダンやエジプトには親近感を示していますので、ほぼイスラエルと同じとなります。さらに、ジュリアーニ元ニューヨーク市長を始め、トランプ氏の側近には親イスラエル派が多く、イランとの核合意も破棄する構えです。
イラクのフセイン政権が倒れて以来、中東でのパワーバランスはサウジアラビアとイランとの間での覇権争いとなっており、現在はイエメンにおいて両国が代理戦争中です。したがって、“敵の敵”であるサウジアラビアは“味方”となりそうです。
現在、米国とサウジアラビアは“冷たい”関係にありますが、これはオバマ政権が中東への関与を弱めたことに起因しています。イランとの核合意の見直しなどでトランプ政権が中東情勢への関与を強めることには、イランが再び核開発に向かうなど、中東情勢を緊迫化させるリスクがあります。
中東情勢の緊迫化による原油価格の上昇は、OPECのみならず、当然のことながらシェール企業も恩恵を受けます。エネルギー長官候補のハム氏は原油価格の下落で資産の半分以上を失ったとされています。
トランプ次期政権とサウジアラビアはイランを共通の敵として関係を修復する可能性がありそうですが、その過程には原油価格の高騰を招くリスクが潜んでいるかも知れません。
LIMO編集部