本記事の3つのポイント
- 太陽電池分野における日系企業の事業縮小に歯止めがかからない。中国企業の勢力拡大によって生産終了や外部調達に切り替えるケースが増えている
- 中国PVメーカーの躍進の背景には、低価格&大量生産に加えて、先進技術の積極的な導入が挙げられる
- 日本のPV産業は風前の灯火といった状況だが、次世代技術の開発は継続。国プロでもPSCや次世代CIGSの開発を強化する方針を打ち出した
日本の太陽電池(PV)メーカーの事業縮小が止まらない。2020年3月に三菱電機がPV事業から撤退したが、パナソニックも22年3月までにPVの生産を終了することを発表した。シャープ、京セラは自社生産を続けているが、一方で、OEMによるPVモジュールの外部調達を増やしている。
かつては、PVの生産&販売で世界市場を牽引した日本のPVメーカーだが、すでにその役割は中国に移っている。価格が大幅に下がった結晶シリコン(Si)で無理な競争をする理由はないとは思うが、PVの世界市場は今でも成長を続けている。果たして、ペロブスカイト太陽電池(PSC)に代表される次世代技術で巻き返すことができるだろうか。
日本のシェア低下
JPEA(太陽光発電協会)の統計によると、19年度(19年4月~20年3月)におけるPVモジュールの総出荷量は6.4GW(前年度比9%増)だったが、このうち日本企業の出荷量は半分以下の3GW(シェア47%)にとどまった。国内企業のシェアは18年度までは5割以上を確保していたが、19年度にはついに5割を切った。
20年度は第3四半期累計(20年4~12月)の統計を発表しており、総出荷量は4.1GW、日本企業の出荷量は1.7GWとなっている。全体の出荷量が減少しているうえ、日本企業のシェアも42%まで下がっている。ちなみに、日本企業の出荷量は14年度の6.8GWがピークだった。
中国は技術でもリード
今でこそ、PVの生産&市場は中国がトップだが、20年前は日本のPVメーカーが世界市場を牽引していた。シャープは00年以来、7年連続でPV生産世界トップに君臨した。
06年のPV世界生産量トップ10を見てみると、1位がシャープ、2位がQ-Cells(ドイツ)、3位が京セラ、5位が三洋電機(現パナソニック)、6位が三菱電機で、日本のシェアは50%を超えていた。生産能力でも、上位5社のうち日本企業が4社を占めており、これら上位5社で世界のPVセル生産量の8割以上を占めていた。
ところが、中国がPV市場に本格参入し、価格下落が急速に進んだことで、日本のPVメーカーの地位は瞬く間に消し飛んでしまった。欧米のPVメーカーも同様で、スタートアップも含めて多くのPVメーカーが価格競争に敗れて、撤退もしくは事業売却を余儀なくされた。
IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、19年における中国のポリシリコン(ポリSi)のシェアは7割弱で、PVセル&モジュールは7割を超えている。19年のPVモジュール出荷トップは中国Jinko Solarで、以下、JA Solar、Trina Solar、LONGi Solar、Canadian Solarと中国勢が上位を独占している(英GlobalData調べ)。トップ10のうち8社が中国企業である。
中国PVメーカーの躍進の背景には、低価格&大量生産に加えて、先進技術の積極的な導入が挙げられる。現在の結晶SiPVは単結晶Si、大型ウエハー/セル、PERC(Passivated Emitter and Rear Cell)、HC(ハーフカット)、MBB(マルチバスバー)、高密度実装技術などの技術を組み合わせることで高出力を実現しているが、多くの中国メーカーがこうした先進技術を導入している。
次世代の大型Siウエハー/セルについては、M10(182mm角)とM12(210mm角)が標準化競争を繰り広げているが、モジュールの出力競争は20年の500Wに対し、21年は700Wに達している。
パナソニックも生産終了
日本のPVメーカーは、12年7月からスタートしたFIT(固定価格買取制度)を追い風に販売量を大きく伸ばしたが、買取価格の引き下げに伴い、販売量は減少に転じ、PVの販売減で各社は相次ぎ生産体制の縮小に舵を切った。
京セラはセル&モジュールを生産していた八日市工場(滋賀県東近江市)を閉鎖し、国内生産を野洲工場(滋賀県野洲市)に集約。三菱電機も18年3月で中津川製作所飯田工場(長野県飯田市)のセル生産を終了し、PVセルの製造から撤退したが、20年3月末でPVモジュールの生産も終了した。ソーラーフロンティアは16年7月から稼働した最新の東北工場(宮城県大衡村)の生産を休止し、主力の国富工場(宮崎県国富町)に集約した。
パナソニックは18年3月に滋賀工場のPVモジュールの生産を終了し、19年にはマレーシア工場を中国企業に譲渡する計画を発表した。さらに、17年8月から稼働したニューヨーク州バッファロー工場でのPVモジュールの生産についても、協業するテスラ社との契約を解消し、20年9月に同拠点での生産から撤退した。
マレーシア工場は19年11月に譲渡が完了する計画だったが、中国企業との交渉が進展せず、20年8月に契約を解消した。そして、最終的にはマレーシア工場および島根工場での生産を終了し、PVの生産から完全に撤退することを決めた。
マレーシア工場では、ウエハーおよびセル&モジュールの生産を21年度中に終了し、建物および土地などの資産は譲渡する。現地法人も清算する。島根工場も21年度中にPVセルの生産を終了する。
PVの生産から撤退するが、今後も国内ではPVの生産委託などで自社ブランドによる販売を継続する。海外では北米などで実施しているPVの外部調達による販売を継続する。そして、車載用PVと時計&電卓用のアモルファスSiについては国内生産を継続する。
自社生産から外部調達へ
京セラは2030年を目標に、PV、風力、蓄電池などの再エネを最大限に活用した総合エネルギー事業への転換を打ち出しているが、PVの生産規模は縮小している。かつて国内に3カ所、海外に4カ所(中国、メキシコ、チェコ、米国)の生産拠点があったが、現在の生産拠点は野洲工場と中国・天津工場の2カ所のみで、天津工場では日本向けのPVモジュールを生産している。国内の生産能力はピーク時の半分になった。
生産縮小の一方で、外部企業との協業を加速している。18年から中国の大手PV封止材メーカーのHangzhou First Applied MaterialにEVA封止材の製造を委託しており、単結晶Siウエハーも外部から調達している。
メガソーラーなどの産業向けPVモジュールも委託生産を開始しているが、21年度以降は、外部生産をさらに加速する。ただ、住宅向けPVモジュールは自社生産を継続するという。
シャープもPVモジュールの委託生産にシフトしている。最近では、国内住宅用の単結晶モジュール(出力259W)や166mmの大型セルを採用した高出力モジュール(出力445W)を欧州市場で発表しており、いずれも、単結晶PERC、ハーフカットやマルチワイヤーといった最新技術を採用しているが、生産は外部の協力企業に委託している。バックコンタクト型の高出力モジュール「BLACKSOLAR」は国内で生産してきたが、現在は生産調整中という。
次世代PVで勝てるか
相次ぐ事業縮小&生産撤退で、日本のPV産業は風前の灯火といった状況だが、次世代技術の開発は続いている。次世代PVとして注目されているのがペロブスカイト太陽電池(PSC)、タンデム型、Ⅲ-Ⅴ族化合物である。
PSCはラボレベルでは変換効率が25%を超えているが、商業化の動きも活発化しており、欧州、米国ではスタートアップ企業が相次ぎ立ち上がっている。米国ではNREL(米国立再生可能エネルギー研究所)がコンソーシアムを立ち上げるなど、官民挙げて商業化を後押ししている。
中国もPSCの開発を強化しており、最近では、スタートアップのWuxi Utmost Light Technology(江蘇省無錫市)がPSCモジュール(63.98㎠)で変換効率20.5%を達成した。ミニモジュールでは世界最高効率で、同社は量産ラインの建設も計画しているという。
わが国でも、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が21年1月に発表した「太陽光発電開発戦略2020(NEDO PV Challenges 2020)」において、PSCや次世代CIGSの開発を強化する方針を打ち出した。
車載用では、Ⅲ-Ⅴ族多接合の低コスト製造技術やPSC/Siタンデムなどを開発するが、トヨタはⅢ-Ⅴ族化合物と結晶Siに低倍集光レンズを組み合わせたハイブリッド型集光システムを開発している。パナソニックはPSCモジュールの大面積化に向けて、インクジェットプロセスを開発しており、30cm角モジュール(55セル直列)で変換効率17.9%を達成している。
東芝は独自に開発した亜酸化銅(Cu2O)をトップセルに用いたタンデム型を開発している。同社は世界で初めてCu2Oの透明化に成功し、最近ではCu2O/Siタンデムで変換効率26.1を達成しているが、Cu2Oの変換効率を10%まで引き上げることで、タンデム型で30%を目指すという。
NEDOが日本の国際競争力強化の武器になると考えているのが製造装置である。PSC、Ⅲ-Ⅴ族、タンデム型など次世代PV技術の開発と装置開発を連携することで、国際競争力のある低コスト&大量生産の製造技術を確立するという青写真を描いている。国内でサプライチェーンが形成できれば、経済効果も大きいと期待している。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾
まとめにかえて
日系企業の太陽電池事業はかつてないほど追い込まれています。中国企業の台頭を前に事業縮小や撤退を余儀なくされている状況です。次世代技術に向けた技術開発も継続していますが、中国系企業はコスト競争力だけでなく、技術開発でも世界をリードする立場にあり、この状況を打破するのはそう容易ではありません。
電子デバイス産業新聞