ルネサス エレクトロニクスの主力生産拠点である、那珂工場での火災事故が自動車産業をはじめとする最終市場に大きな影響を与えそうだ。影響を最小限に食い止めるべく、クリーンルームの清掃作業、ならびに焼損した製造装置の入れ替えなどを急ピッチで進めているが、頼みの綱である中古装置の確保が難航する可能性がある。

11台の製造装置が焼損

 同社の説明によれば、3月19日に発生した那珂工場の300mmライン(N3棟)の火災によって、11台の製造装置が焼損。内訳はバンプ/WLP再配線工程向けのめっき装置が4台、配線工程向けのCuめっき装置が3台、残り4台が他のプロセス装置ならびに関連設備となっている。

 火事のあった1階クリーンルームにはもともと、計7台の配線工程向けのCuめっき装置があり、現時点の情報では3台が稼働できる見通しのため、1カ月以内の早期再開に向けては、この3台を活用した生産を念頭に置いているものと見られる。

 現在は火災によって発生した煤の清浄作業など、クリーンルームおよび製造装置の汚染除去を人海戦術で行っていく考えで、製造装置などサプライヤー企業の応援も受け入れて、再開計画を練っているもようだ。

「人気が高く、在庫もあまりない」

 ただ、最終的な目標である火災事故前の生産キャパシティーの水準に戻すには、相応の時間がかかる可能性がある。ボトルネックとなるのが、やはり製造装置の入れ替えだ。

 トレセンティーズ(日立製作所とUMCの合弁製造会社)の時代も含めて、N3は2000年代初頭に生産を開始した300mmラインであり、設置されている製造装置の型式も非常に古い。ルネサスは早期再開に向けて、中古装置の確保を前提に計画を進めているが、「300mm対応の中古装置は人気が高く、在庫もあまりない」(中古装置業者)状況だ。

 焼損した製造装置のなかには、すでに生産・販売を中止しているものもあり、代替機種も含めたかたちになると見られるが、中古装置として流通する装置はドライプロセス系装置が多い。Cuめっき装置のようなウエット系装置は手入れが大変で、残価設定がしづらく、あまり流通しない傾向もあるという。

 仮に中古装置市場で確保できたとしても、ルネサスの要求仕様にカスタム、あるいはリファービッシュする必要があるため、元の水準に戻すには1カ月では難しく、3~5カ月かかるとの見方が多い。

ファンドリー企業も余力なし

 ルネサスはマイコン生産において、自社工場に加えてファンドリーを活用したファブライトモデルを志向している。40nm以降はTSMCをパートナーとした外部委託が主体となっている一方、90nmは那珂工場による自社生産が中心。火災によって大きな影響が危惧される90nm世代について、外部ファンドリーを使って代替生産するプランも考えられるが、業界全体で半導体供給が逼迫していることで、TSMCはじめ、ほぼすべてのファンドリー企業に余力がないのが実情だ。

 ルネサスの業績への影響はもちろんのこと、最も懸念されるのが自動車産業への影響だ。同社は車載マイコン市場において27%(19年基準、Strategy Analytics調べ)のシェアを握る立場にあり、N3生産品のうち66%が自動車市場向けとなっている。

 自動車産業は20年末から半導体不足を理由に、一部OEM企業で減産を強いられているところもあり、7月以降の生産巻き返しを想定しているところが多かった。しかし、今回の工場火災によって目算が大きく外れるかたちとなっている。仮に1カ月で再開できたとしても数十万台レベルで生産に影響が出る恐れがあり、再開まで時間を要するほどに影響台数が増えていく見通しだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳