本記事の3つのポイント

  •  パッケージ基板・プリント配線板市場はDX化の動きや、EV市場の拡大に伴い、活況を呈している
  •  パッケージ基板ではイビデンや新光電気などの国内有力企業が積極的な増産投資を実施。パワーモジュール基板も次世代材料を用いた基板の開発・量産投資が目立つ
  •  基板市場の拡大に伴い、装置・材料メーカーへの引き合いも拡大。旺盛な需要に対応するため部材各社の増産投資も目立つ

 2021年は、新型コロナ禍で加速したIT(情報技術)やICT(情報通信技術)化の流れがさらに勢いづく。感染拡大抑止のためリモートワークや遠隔授業などが普及し、PCをはじめタブレット、サーバーなどの電子機器需要が急増した。本来なら数年かけて移行するはずのデジタルトランスフォーメーション(DX)やIoT化の動きが、今回の新型コロナにより一気に加速しており、エレクトロニクス産業や電子回路・関連資機材市場に活気を与えている。PCやサーバー向けの高性能CPU向けパッケージ基板市場ではイビデンなどが積極的な投資を行っている。

 新たな市場も立ち上がる。EVの普及とともに、その心臓部とされるパワー半導体モジュールの絶縁基板として注目されている窒化珪素(SiN)基板だ。一方、関連する基板部材や装置業界でも、世界的に盛り上がる電子回路市場の将来を見据え、旺盛な需要に応えるべく積極的に投資を行っている。

パッケージ基板に旺盛な投資

 新型コロナ禍は日系基板業界の事業戦略にも大きな影響を与えている。ハイエンドサーバー向けの高性能CPUパッケージ基板を手がけるイビデンならびに新光電気工業が旺盛な需要を享受しており、国内で積極的に投資を拡大中だ。

 イビデンや新光電気工業のみならず、中堅の凸版印刷をはじめ京セラ、富士通インターコネクトテクノロジーズなどの技術力のある企業に、インテルを筆頭にAMDやNVIDIAなどから、CPUやAIチップ、GPUといった高性能ロジック向けのパッケージ基板の増産・供給要請がきているという。微細な回路形成だけではなく、高速伝送処理や放熱対策など、通常の多層基板製造とは異なる次元の生産管理や信頼性が求められている。安定して製造できる基板メーカーはそう多くなく、顧客先からの熱心なラブコールはしばらく継続しそうだ。

 ハイエンドパッケージ基板の需要増に備えて、トップランナーのイビデンは、18年から主力拠点の大垣中央事業場(岐阜県)で大型投資を実施している。この第1期投資分の新ラインが20年10月から稼働を開始し、それが20年度下期業績に貢献してくる見通しだ。電子部門の20年度設備投資として過去最高の800億円を計画する。大垣中央事業場の第2期投資が中心案件となる見込みだ。一連の投資により、23年までの需要増に対応できる体制が整ったとしている。

 新光電気工業も、18~21年度の4年間で540億円を投じてFCパッケージ基板の生産能力を従来比4割増産する。主力の若穂工場に加え、高丘工場などに生産ラインを拡張している。国内ではこれら両社に加えて、凸版印刷や京セラなどFCパッケージ基板の量産技術を持つ企業があり、今後の需要次第では新たな投資計画が浮上してくる可能性がある。

パワーモジュール用基板が急拡大

 SiN基板市場も盛り上がっている。EVの心臓部とされるインバーター用パワーモジュールの絶縁回路基板として業界標準になりつつある。特に使用環境の厳しい自動車用途では、パワーモジュールの高信頼性が要求される。耐ヒートサイクル特性に優れる、SiNの持つ靭性のある絶縁素材が業界で高評価を得ているのだ。従来のアルミナ基板や窒化アルミ基板を駆逐しそうだ。

 このため、業界最大手のデンカが粉末原料の大幅増産に乗り出しているほか、白板・回路基板向けのトップメーカーの東芝マテリアルも100億円超の能力拡大投資でパワーモジュールメーカーらの旺盛な需要に応える。さらに、同市場が今後伸長するとみた新興勢力も相次いで新規参入を決めるなど、成長市場に向けて各社の動きが激しくなっている。また、EV最大市場の中国ならびに欧州市場でいかにシェアを確保できるか、提携や現地生産を巡り、各社の熾烈な競争も激化している。

 デンカは、大牟田工場(福岡県大牟田市)で製造するSiNの原料粉の能力増強を20年11月に公表済みだ。現行比で約3割の能力増強となり、稼働は22年度下期を見込む。同社はここ数年前から、EVや風力発電向けベアリングボール用途などで需要が拡大するとみて逐次、増産対応を進めてきた。一部ラインは22年度前半にも稼働する見込みで、生産能力は世界最大となり、ダントツの供給力を確保する見通しだ。

SiN原料の新規投資を発表してダントツの生産能力確保へ

 一方、同社は大牟田工場内で新棟を建設して、SiN基板の生産ラインも大幅に増強中。21年3月までに一部を稼働させ、最終的には18年度比3倍にまで生産能力を高める。関連投資額は約40億円を見込む。

 EV用のパワーモジュール用絶縁基板として老舗かつトップシェアを誇る東芝マテリアル。同社のマザー拠点である横浜事業所に加えて、21年9月稼働を目指して現在、ジャパンセミコンダクターの大分事業所(大分市)内で新ラインを整備中だ。既存施設を改造して新規ラインを導入する。22年度までに100億円強を投じる計画で、既存の生産能力よりも倍増する。

 また後発メーカーながら徐々にシェア拡大を狙う日立金属は、熱伝導率130W/mKを達成したSiN基板を開発済みで、量産を開始した。同レベルの熱伝導率を確保したSiN基板の量産は世界初とみられる。同社はSiNの原料を宇部興産グループなどから外部調達し、自社でブレンド加工したあとの焼成工程など一連の量産ラインを完備する。製造は、鳥取県内のグループ企業が担当する。

 新規参入組も登場した。日揮ホールディングスグループの日本ファインセラミックス㈱は、独自の製法によるSiN基板市場への参入を図った。宮城県富谷市にある同社事業所内に専用の量産工場を20年秋に稼働、21年から本格量産を見込む。

日系基板材料・装置業界、国内外で増産投資

 国内のプリント基板材料・装置メーカーも需要増を当て込んだ投資意欲が強い。特に次世代通信規格の5Gに対応した低伝送損失の基板材料をはじめ、高性能パッケージ基板材料の旺盛な需要が背景にある。国内ではパッケージ基板やSiN基板の需要が急増しているが、世界では中国・台湾勢や韓国基板メーカーらによる、中国大陸や東南アジアをベースにした高密度基板(FPC含む)の新工場建設が相次いでおり、関連する部材・装置業界も積極的に投資を行っているのだ。

 イビデンや台湾ユニマイクロンなど、国内外で大型のハイエンドパッケージ基板投資の案件が目白押しとなっており、中長期的にも継続した需要が見込まれている。FCBGAやFCCSPなどの高機能パッケージ向けの材料メーカーが相次いで増産計画を明らかにしている。依然、同事業領域では日本の材料・装置メーカーが主導権を握っており、積極的な増産を計画している。

 昭和電工マテリアルズは、プリント基板用積層材料(プリプレグ)、感光性ソルダーレジスト(SR)の生産能力を増強する。台湾で台南市にある生産子会社「Show Denko Semiconductor Materials(Taiwan)Co., Ltd(SDSMT)」でプリプレグ、感光性SRなどの生産能力増強を行う。同社のプリプレグは、信頼性や反り特性、平坦性に優れ、主に半導体パッケージ基板用として使用されている。特に高い信頼性が必要なサーバーなどの大型パッケージやスマホなどに搭載される通信モジュールに用いられており、今後も高い成長が見込まれている。関連投資額は90億円弱にのぼる。

 パナソニックも、中国で多層基板材料の生産能力を増強する。広州工場(広東省)内に建屋を増設して、22年初頭から量産する。関連投資額は80億円にのぼり、従来比1.5倍に引き上げる。5Gなど高周波対応や車載向けなどの需要が拡大しているためだ。増産するのは電気信号などが減衰しにくい、安定した低誘電率や低誘電正接を確保できる特殊材料「MEGTRON(メグトロン)シリーズ」が中心になるとみられる。

 SRトップの太陽ホールディングスも、韓国で半導体パッケージ基板用ドライフィルムSRの生産工場を建設する。製品出荷は22年5月にも開始する。同国ではレジスト工場として2拠点目となる。韓国には半導体パッケージ基板の有力企業が多数あり、先端の高性能パッケージ基板の市場が急速に拡大していることに対応する。

 なお同社は、ベトナム・ハノイ市にもSRの新たな工場建設を公表済み。同社のSR工場は、国内2カ所に中国、台湾、韓国、米国の海外に各生産拠点を運営しており、基本的に“地産地消”型で臨んでいる。

 装置メーカーのウシオ電機子会社でハイエンドの直接描画露光装置の有力企業であるアドテックエンジニアリングは、長岡事業所(新潟県長岡市)の拡張を計画。隣接地ならびに既存建物を取得して、現在受注の好調なプリント回路向けのダイレクトイメージング(DI)装置の生産能力を大幅に引き上げる。生産能力を現有の1.4倍まで増強する予定で、早ければ21年春の稼働を目指す。

 5G通信対応などで、高速大容量対応のスマホならびにデータセンターなどの開発・量産が進んでおり、高性能パッケージ基板をはじめ高密度プリント基板需要は当面堅調に推移するとみている。また、ファンアウト対応などの次世代の高精細回路形成技術やパッケージの大型化が見込まれており、これらに対応した大型で高性能なDI装置のニーズも高まっていることに対応する。

電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広

まとめにかえて

 半導体不足に大きな注目が集まるなか、パッケージ基板の逼迫もクローズアップされるようになってきています。パッケージ基板は半導体需要の拡大に加えて、基板サイズの大型化や層数の増加に伴い、基板キャパに対する負荷も増しています。従来はインテルなどのCPU向け基板需要が大きなウエートを占めていましたが、近年はAMDやエヌビディアなど他の半導体メーカーからの引き合いも増しており、市場拡大に大きな役割を果たしています。

電子デバイス産業新聞