投資と退職準備額、どちらが原因でどちらが結果か?
フィデリティ・インスティテュート 退職・投資教育研究所では、2010年から会社員・公務員1万人を対象にしたアンケートを何度か行ってきました。そのなかで、毎回「あなたは退職後の生活用にどれくらいの資金を準備していますか」と聞いています。
投資をしている人と投資をしていない人の退職準備額の平均値をみると、図表1のように2010年以降、常に2倍以上の開きがありました。
2020年の調査でも、投資をしている4,860人の退職準備額の平均値は1,003万円強だったのに対して、投資をしていない7,141人の同金額は400万円強と、2.5倍の開きが出ています。
これは「退職準備資金があるから投資をしている」のか、「投資をしているから退職準備資金が多い」のか、原因はどちらで、結果はどちらなのでしょうか。
投資家の退職準備額が減少している
ところで、投資をしている人の最近の退職準備額の推移をみると、2015年をピークにじりじりと低下していることがわかります。2020年の平均値は2015年に比べて24%減少しています。
投資をしていない人も同様に23.1%減少(2016年比)していますが、“投資をしていて、しかも株価は上昇している”のに、なぜ退職準備額が減っているのでしょうか。
資産がないから投資をする時代に
傍証からの推計になりますが、これは若年層が資産形成に動き始めたからではないかと思っています。しかも、資産を作り上げるために投資を始めている人が多いからではないでしょうか。
図表2をみてください。たとえば20代の投資をしている人としていない人の退職準備額は、2015年では大きな差がありました。明らかに資産のある方が投資をしているといえそうですが、2020年になると大きな差はありません。
その間に投資をしている人が12ポイントも増えていますが、こうした人たちが新たに投資を始めたとすれば、退職準備額は少なくても不思議ではありません。
これまで何度も取り上げてきましたが、積立投資で資産運用を始める若年層が増えてきたということは、「資産があるから投資をする」時代から「資産がないから投資をする」に視点が変わってきたとみることもできます。
それが、投資をしている人の退職準備額が減ってきている理由だとすればうれしい限りです。
合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史