国内半導体大手のルネサス エレクトロニクスは、アナログ半導体が主力のダイアログ・セミコンダクターを買収する。発行済み普通株式および発行予定普通株式のすべてを取得し、完全子会社化する手続きを開始する。買収金額は約49億ユーロで2021年末の取引完了を目指す。ルネサスは買収を通じてアナログ分野を一層強化し、事業ポートフォリオの拡充を図る。
インターシル、IDTに次ぐ買収第3弾
ダイアログは1981年設立の半導体メーカーで、英国に本社を置く。年間売上高は14億ドル(19年実績)で、ミックスドシグナル(MS)が全体の87%を占めているほか、近年はコネクティビティーやオーディオ分野での事業も広げている。
ルネサスはここ数年、海外半導体メーカーを積極的に買収しており、16年にインターシル、18年にIDTを傘下に収めた。柴田英利CEOは「アナログ/MS分野を中心に一貫したテーマで買収を行ってきた」とし、今回のダイアログもその延長線上にあることを強調した。両社合算の製品別売上高構成比ではマイコンを抜き、アナログが最大セグメントとなるほか、市場別でも車載分野への依存度が落ち、モバイルを含むIoT分野の構成比が上昇するかたちとなる。
また、買収によって、アナログ・MS分野のエンジニア陣ならびに設計開発技術も強化でき、グローバルR&D人員も従来の約7400人から9200人に拡充される見通し。
買収によるシナジー効果として、ルネサスではクロスセルや高成長市場にアクセスすることで2億ドルの売上増による統合効果を見込むほか(買収完了から4~5年以内)、業務効率化による1.25億ドルのコスト削減効果(買収完了から3年以内)が得られるとしている。
特定顧客の依存度引き下げがポイントに
ダイアログは近年、特定顧客向けのPMIC(パワーマネジメントIC)を中心に業績を伸ばしてきた。19年に占める特定顧客の売上高比率は66%に達している。しかし、この特定顧客がPMIC内製化に舵を切ったことで、事業戦略の見直しに着手。
特定顧客への依存度を引き下げるため、数件のM&Aを実施したほか、特定顧客に対してPMICに関する一部技術ならびに資産を18年に売却。同時にオーディオや充電システムに関連したサブPMICの供給を締結した。これにより、特定顧客への依存度は23年をめどに25~30%に引き下がる見通しだ。
ルネサスもボラティリティーの高いモバイル分野での事業拡大には積極的ではなく、特定顧客への依存度低下は「ここに大きな関心を持った」(柴田CEO)としており、買収を検討するにあたってはプラス材料として捉えられたようだ。
ルネサスとダイアログは長年製品レベルで協業関係にあり、自動車用SoC「R-Car」においては、ダイアログのPMICがリファレンスデザインとして採用されている。買収を通じて、ルネサスが「ウィニング・コンビネーション」と呼ぶ、顧客へのソリューション提案をより一層深めていく考えだ。
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳