この記事の読みどころ

  •  10月25日号のエコノミスト誌(毎日新聞出版)に、「半導体バブルが来る」という特集がありました。ややセンセーショナルなタイトルではありますが、確かに米国フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)は過去10年間で最高の水準を記録し続けています。
  •  日本の半導体製造装置企業の受注状況を示すBBレシオ(出荷額に対する受注額の割合)も、年初から1.0の採算ラインを上回って推移し、アドバンテストや東京エレクトロンの株価は夏以降、TOPIXを大幅にアウトパフォームしています。
  •  では、半導体の基板であるシリコンウエハーはどうなっているのでしょうか。この分野の主要プレーヤーである信越化学工業(4063)、SUMCO(3436)の株価はある程度強い動きですが、上がったという感じはしません。そこで足元のウエハーの出荷状況を調べてみました。

生産能力を上回る出荷が続く300ミリウエハー

世界の半導体ウエハーの統計を月ごとに見てみると、主力の300ミリ(直径)ウエハーの月間出荷枚数が今年の3月以降、8月まで6か月連続で500万枚を超え続けています。

昨年の上期あたりまでは、世界の4大プレーヤーである信越半導体(信越化学工業100%子会社)、SUMCO、ワッカーシルトロニック(独)、LGシルトロン(韓国)による300ミリウエハーの総月間能力は480万枚程度とされていました。したがって、3月以降の500万枚を超える出荷は完全に超フル操業状態と言えるでしょう。

ただ、業界では世界の生産能力を月産510万枚とする意見も見られるようになってきました。おそらく生産性、歩留まりの改善が顕著に出てきたのではないかと業界関係者は見ているようです。

この活況はいつまで続くのか

このように300ミリウエハーの出荷は活況を呈していますが、スマートフォン以外に需要をけん引するものが見当たらず、新興国の経済も低迷しています。では、何が需要を牽引しているのでしょうか。

その背景には、2016年に入りスマートフォンの在庫調整が一巡し、中国やインドなど新興国のスマートフォン生産が活発なことから、ロジック、メモリー半導体の生産が堅調だということがあります。加えて、データセンター、SSB、サーバーなどのNANDフラッシュメモリーの需要が相当強いと見られます。

このNANDフラッシュメモリーはハードディスクに変わるメモリー機能を持ち、低消費電力を武器にデータセンター、サーバー、SSD向けの需要が相当に伸びているようです。将来的にも、AI(人工知能)、IOT(モノのインターネット化)、自動運転車など、多くの半導体を使う未来技術が目白押しです。

出遅れ感のある株価は2017年に大化けも?

半導体は一部のパワー半導体がセラミック製の半導体基板を使いますが、大部分の半導体は金属ケイ素(シリコン)から製造される半導体シリコンから生産されます。半導体の需要が強いのに、なぜウエハーメーカーの株価はあまり上昇しないのでしょうか。

リーマンショックの後、即ち2009年以降、ウエハーメーカーは価格競争に走りました。その結果、販売単価はリーマンショック前と比べて半値以下にまで下がり、その後まったく価格が改善していません。株価があまり上昇しない理由は価格競争の結果、利益率が低いという点にありそうです。

しかし、既に生産能力を上回る需要が続いているばかりではなく、将来的に有望な市場が開花しようとしています。一方、今年のウエハー企業の株価推移を見ると、東京エレクトロン、アドバンテストなどの製造装置企業の株価に比較して出遅れていることがわかります。

ベストシナリオを考えると、2017年の年明けからウエハーの値上げが一部のユーザーの間で浸透し、円高転換(円安へ)が進行というニュースが確認できると、株価は大きく化けるのではないでしょうか。

 

石原 耕一