相続税の課税強化やマイナンバー制度でタンス預金が急増中?

最近、世の中に出回る現金の総量が伸びているそうです。財務省の計画では、2016年度に印刷される1万円札の枚数が12億3000万枚と、前年度に比べ、約1億8000万枚、1兆8000億円相当を増刷するとか。

お札の需要が伸びている理由の一つに、「タンス預金」が広がっていることもあるようです。タンス預金とは、銀行などの金融機関にお金を預けないで、自宅などでお金を保管することです。

お札の発行残高などを元に計算すると、国内のタンス預金の総額は約40兆円であり、最近急速に伸びています。

それにはいくつかの要因があるでしょう。まずは相続税の課税強化です。2015年には相続税の非課税枠(基礎控除額)が大幅に引き下げられました。

次にマイナンバー制度です。2016年1月から始まったマイナンバー制度により、個人の銀行口座が国に把握されてしまうのを避けようという動きです。

さらに、2月にはマイナス金利も導入されました。すでに導入されている欧州のように、個人の預金にもマイナス金利が課されるのではないかと考える人もいます。

もちろん、銀行に対する不安もあるでしょう。国内でもこれまでいくつもの銀行が破たんしています。また、昨今では地銀の苦境も取りざたされています(参考:『地銀はマイナス金利の犠牲者か? 生き残りの条件は』。

銀行が破たんした場合に預金者を保護する預金保険制度とは

タンス預金は銀行よりも安全でしょうか。答えはノーです。逆にリスクが大きいでしょう。盗難に遭うこともあります。火災や津波などですべてを失うこともあり得ます。

一方、金融機関には「預金保険制度」があります。預金保険制度とは、万一金融機関が破たんした場合に、預金のうち一定のものを保護するために設けられた制度です。

預金保険制度の対象金融機関は、預金保険法により預金保険制度への加入が義務付けられています。保険料は金融機関が納めます。預金者は特に手続きを行う必要はありません。ただ、外国銀行の在日支店や国内の銀行の海外支店などは対象外です。

金融機関の破たんの際には、預金保険機構が一定額の保険金を預金者に支払います。これを「ペイオフ」と言います。

保護される預金の額は、預金の種類によって異なります。一般的な預金の場合、1金融機関1預金者あたりの元本1000万円までと、その利息などが保護の対象となります。同じ金融機関に複数の口座を持っている場合でも、口座ごとではなく預金者ごとに合算(名寄せ)されます。

ちなみに、ゆうちょ銀行では、2016年4月1日から、預け入れできる貯金の預入限度額が1人1,000万円から1,300万円に変更になりました。ただし、保護の対象が増えたわけではなく、一般の銀行と同じく、保護される貯金は1,000万円までです。

誰でも開設できる「利息の付かない普通預金」は注目すべき

預金保険制度で保護される預金は1,000万円まで。では、それを超える預金は、銀行に預けても意味がないのでしょうか。

そんなことはありません。銀行が破たんした際、預金保険制度で保護される預金は1,000万円までですが、それは最低額です。保護の基準を超える部分は破たん金融機関の財産の状況に応じて支払われます。

それでも心配という人にぜひ検討してほしいのが「利息の付かない普通預金」です。預金保険制度では「当座預金や利息の付かない普通預金等(決済用預金)は、全額保護」されることになっています。

これを読んで「全額保護される当座預金を開設したいけど、個人ではダメなんでしょ?」と思う人がいるかもしれません。そこではなく後半に注目してください。実は、「利息の付かない普通預金」は、個人でも法人でも制限なく開設できるのです。

都市銀行、地方銀行、信用金庫など、いずれの金融機関にも「利息の付かない普通預金」があります。ゆうちょ銀行にもあります。「振替口座(振替貯金)」です。ちなみに、振替口座には、預入限度額はありません。

「利息の付かない普通預金」はその名のとおり利息は付きませんが、預金の全額が保護されるので安心です。このため、マンション管理組合のほか、町内会、サークルなど各種団体でよく利用されています。

ATMを利用した預け入れや引き出しもできます。個人の場合、金融機関によってはインターネットバンキングも使え、一般の普通預金と同様のサービスが利用できます。

「ペイオフが怖くてタンス預金にしている」という人や「1,000万円ずつ別の銀行に預けている」というような人は、「利息の付かない普通預金」の利用を検討してみる価値があると思います。通常の普通預金であっても、おそらくしばらくは、ほとんど金利は付かないでしょうから。

 

上山 光一