本記事の3つのポイント

  • 中国の国際競争力を産業別に分析。「世界の工場」と言われた中国が今や高品質・低価格を売りに各分野でトップに立つケースが出てきている
  • 半導体は参入障壁が高いことに加え、米中貿易摩擦の中心。装置・材料分野も今のところ日欧米の既存サプライヤーに依存している
  • 太陽電池やEV、スマートフォンなどは世界トップクラスの企業がズラリ。旅客機や貨物など輸送機分野でも頭角を現しつつある

 

 数年前までユニクロで買い物すると、ほとんどのアパレル製品は「メード・イン・チャイナ」の中国の現地生産品だった。しかし、いま上海のアパレル店舗に行くと、カンボジアやベトナムなど中国以外の国で生産された衣料品が多い。上海人の友人は「私は品質のいい中国製の方を選ぶようにしている」と話す。

 「世界の工場」となって十余年、アリババのECサイトで日用品や小型家電を物色すれば、無印良品やアイリスオーヤマのようなデザイン性がよい工業製品が、日本の半額ほどの値段で売られている。スマートフォンで価格破壊を起こしたシャオミー(小米科技)は、家電製品でも「安かろう!良かろう!」を実現し、さらにシャオミーを追随するメーカーが続出。中国製品は今や高品質なのに低価格になっている。

 ただし、半導体は約80%を海外からの輸入に頼っており、中国政府は15年に「中国製造2025」を発表して国産化戦略を打ち出した。しかし、そう簡単に技術力は向上できない。そんな中でも、他のハイテク分野では中国は国際的なイニシアチブを取れるようになり、海外依存から脱却し始めている。今回は、マッキンゼーの中国の国際技術競争力の分析レポートを参考に、中国が国際的にも競争優位性を持っている12の技術について見ていきたい。

■半導体――米国のハイテク摩擦はいつも半導体

 「世界の工場」となった中国は世界中に電機・電子製品を輸出しているため、中国が毎年消費している大量の半導体は、必ずしも中国の内需分の電子機器に使用する量というわけではない。そうとは言うものの、マッキンゼーのレポートでは中国の半導体自給率はたった5%しかない。また、半導体を製造するために必要な国産材料の使用率も10%しかない。さらに言えば、中国産の半導体は海外ではたった5%のシェアしかないお寒い状態だ。

 一方で、大方の業界人の見方に反して、この5年間でNANDフラッシュとDRAMを国産化させ、中国の国産化は確実に前進している。米国政府が20年末にSMICを国防総省や商務部の制裁リストに加えたため、10nm以下の製造プロセス開発はさらに遅延する可能性が高まった。その反面、中国が技術確立できているレガシー領域(200mm口径や300mm口径の40nm以上)はどんどん生産能力を拡充していく。

■太陽電池――最も成功したデバイスの国産化

 十数年前に太陽電池工場の生産ラインを見に行くと、太陽電池セルの1枚1枚を目視検査し、手作業でモジュール組立していた。人件費が安かったので、他国よりも格安で太陽電池モジュールを組み立てることができた。製造装置や部材は海外メーカーから調達するしかない状態だった。また、製造した太陽電池モジュールも、ドイツなど欧州諸国の環境対策の補助金のおかげで売り先を確保できているに過ぎなかった。

 しかし、その後の10年間で装置や材料の国産化を進め、今では世界の太陽電池需要の80%以上を中国だけで供給するようになった。中国の国内市場は完全に自国生産品だけでまかなうことができ、部材も80%が国産化、海外市場でも中国メーカーが半分のシェアを握っている。「世界の太陽電池産業の大半は中国が握っている」といっても過言ではない。

■EV――深圳はバスもタクシーもすべて電動化完了

 2000年ごろ、中国の自動車業界は世界水準から大きく遅れていた。中国に進出する外資自動車メーカーは中国資本の自動車メーカーと合弁(共同出資)が義務づけられ、中国の自動車メーカーは着々と技術を吸収していった。しかし、コアとなるエンジンの技術格差を埋めることは難しかった。その結果、10年くらい前から中国メーカーはEV(電気自動車)シフトを進めた。15年からエコカー補助金が始まり、この流れをさらに後押しした。

 中国は世界最大のEV生産・販売国になったものの、今後の排ガス規制をクリアしていくためには、HEV(ハイブリッド車)の導入拡大が必須となる。中国は不得意なHEV技術をトヨタなど日本の自動車メーカーと技術提携して導入・拡大していく。

■スマートフォン――端末生産もアプリ利用も世界のトップをいく

 米国の制裁対象となったファーウェイの存在それ自体が、中国のスマホと5G通信の技術力の高さを物語っている。アップルとサムスンを除くと、世界のスマホ市場でトップ争いできる外国企業はいなくなった。韓国のLG電子もスマホ事業からの撤退が噂されている。米国の対中制裁の経験から、今後はスマホ部品の国産化率が必ず大幅に上昇する。すでに、CMOSイメージセンサー(CIS)や受動部品などの国産品がローエンド~ミドルクラスから増え始めている。

■産業ロボット――コロナ対策でロボット導入再燃

 産業ロボットの分野は日本やドイツなどがまだ幅を利かせている分野ではあるが、近年の中国のキャッチアップは目覚ましかった。国産部品の使用率や海外市場でのシェアはまだ半分にも満たないが、国内市場の半分は国産ロボットだけで行き渡らせることができるようになった。

 近年は、単なる人件費削減から、スマート製造のための産業ロボット導入へと目的が変わっている。デジタルエコノミーを下支えする物流センターでは、新型コロナ対策もあって自動化が急ピッチで進行中だ。この分野での産業ロボットの導入が21年はさらに増えるだろう。

■高速鉄道――外資メーカーと技術提携でノウハウ蓄積

 2000年代の初めごろ、中国は自力で高速鉄道の国産化を目指していた。しかし、08年の北京五輪までに実用化させるためには外国技術の導入が不可欠と判断。日本(川崎重工)やドイツ(シーメンス)などに中国市場を明け渡すかわりに、技術供与を要求した。中国で外資技術ベースの高速鉄道(和諧号)が開通してから約10年後、国産技術ベースの高速鉄道(復興号)が運行を始めた。今では中国は高速鉄道の海外輸出プロジェクトを進め、中国と陸続きの「一帯一路」周辺国へ高速鉄道をどんどん輸出しようとしている。

■航空機――国産旅客ジェットをテスト運行

 旅客機は、半導体に次いで中国がまだまだ出遅れている分野だ。今は中国のジェット旅客機市場の大半を米ボーイングに依存しているが、この分野は時間をかけても国産ジェットを導入・拡大していく。小型ジェット機の「ARJ21」や中型ジェット機の「C919」、ロシアと共同開発中のワイドボディー旅客機の「CR929」などを並行して開発している。

■貨物船、農業機械――国内市場の約9割をカバー

 中国は20年、貨物船の新規受注量が2893万載貨重量トン(DWT)となり、3年ぶりに韓国を抜いて世界トップの座に返り咲いた。貨物船は国内市場の90%を国産で対応し、海外市場でも半分近くのシェアを持っている。農業機械でも中国は国内自給率が約90%に達している。特に国産部品の使用率も高く、産業チェーンが育っている分野といえる。

■風力タービン――世界最大の風力発電国

 太陽電池よりも先に新エネルギー開発の役割を担った風力発電設備は、国内自給率がとても高い。中国は徹底的にエネルギー関連設備の国産化を推し進めてきたからだ。陸上での風力発電設備の設置場所が少なくなり、今後は洋上風力発電の拡大を増やしていく。

 30年までに世界の発電量の57%が再生可能エネ発電になるものとみられ、世界の電力の1/3は風力発電と太陽光発電になると予測されている。

■クラウドサービス、デジタル決済――中国独自の進化へ

 中国は欧米など海外とのインターネットの自由なアクセスを制限してきた経緯があり、基本的にグーグル検索が使えない。また、グーグルやアマゾン、配車サービスのウーバー(Uber)などのサービスの代わりに、バイドゥ(百度)検索やECの京東(JD.com)、アリペイやWeChatペイなどの電子決済システム、配車サービスの滴滴出行(DiDi)などが発達している。アンチGAFAのネットシステムが中国全土を覆い、海外勢が入り込む余地はほとんどない。近年は、中国のネット企業が第三国で米系ネット企業とシェア争いを繰り広げ、米中デカップリングのようなオセロゲームが進行している。

 当面は米ドルが基軸通貨であり続けるだろうが、デジタル社会の移行度合いによっては今の想定よりも早く大きな変化が起きる可能性がある。中国がデジタル通貨を世界に先駆けて流通させれば、将来的にドルの基軸通貨体制が揺らぐ可能性も考えられる。

 半導体記者としては常日頃、中国の半導体の国際的な競争力はまだまだ低いと考えてきた。しかし、ハイテク技術全般に視野を広げると、中国のハイテク技術は着々と力を増していることを実感した。次の10年でこの円グラフがどれくらい広がっていくか注目していきたい。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

まとめにかえて

 デバイス分野では太陽電池、液晶、LEDと世界を席巻してきた中国のエレクトロニクス産業ですが、半導体は技術的なハードルが他の産業に比べて高いことから、なかなか大きな成果をここ数年見せられませんでした。中国製造2025の政策のもと、近年は急速に力をつけてきましたが、それを脅威と感じた米国政府が主要企業に対して制裁を発動している状況です。もっとも重要な装置・材料分野に規制をかけていることから、SMICなどの半導体関連企業が先端プロセスでこの逆境を跳ね返すのは現状で難しいとされています。今後米中対立の進捗によって、SMICの動向も大きく変化しそうな情勢です。

電子デバイス産業新聞