たとえば、米国のシンクタンク「The Washington Institute」がまとめた最新の統計によると、ISがイラクとシリアで犯行声明を出したテロ事件は、昨年12月に75件、11月に85件、10月に101件、9月に99件、8月に139件、7月に115件、6月に87件、5月に193件、4月に151件、3月に101件、2月に93件、1月に88件だったとされる。

1月23日にも、フセイン元大統領の生まれ故郷でもあるティクリートで、イラク治安部隊に協力する部隊を狙ったテロ攻撃で11人が死亡、10人以上が負傷したというが、ここでもISの犯行が指摘されている。

新型コロナで過激派が勢いを増す恐れ

バイデン政権の対テロ戦略はまだはっきりしないが、ISによるテロはイラクやシリアで続くことだろう。

新型コロナウイルスの感染拡大の長期化で、たとえば、テロ対策に従事するイラクの軍や警察がその対応に追われ、パトロールや警戒監視などのテロ対策が疎かになり、ISに自由に行動できる空間が拡がって活動がエスカレートする恐れがある。

また、新型コロナウイルスによる影響で失業や経済格差が拡がるだけでなく、圧迫される財政事情によって兵士や警察官への給与供給に遅延や停止が生じ、最前線でテロ対策に従事する人々の士気が低下する可能性がある。

さらに、失業や経済格差がいっそう深刻化し、一部の若者が一昨年のような反政府デモや暴力に走るだけでなく、スンニ派とシーア派の宗派対立も相まって、ISにリクルートされテロの世界に入ってしまう恐れもある。

イラク駐留米軍撤退とIS

バイデン政権にとって、最重要課題が中国やロシアなど国家間問題であることは間違いない。しかし、対テロ問題を軽視すると、ISがイラクやシリアで再び勢力を拡大させるだけでなく、再び欧米で過激思想の影響を受けた者によるテロが活発化する恐れもある。

2011年12月、当時のオバマ大統領はイラク駐留米軍の撤退を完了したが、それがISを生み出したとも言われる。オバマ政権で副大統領だったバイデン大統領は再び過ちを犯すのか、バイデン大統領の手腕が問われている。

和田 大樹