退職金制度の変化と「本当に必要な老後資金額」
冒頭の老後資金2,000万円の話題について「想像通り」という意見もあるでしょうが、この2,000万円を退職金で考えると、勤続年数で35年超が境目になりそうです。
つまり、20代で就職した企業に定年まで勤務するという努力の上に成り立っていることになります。そして退職金額が低下傾向にあるという点を考慮する必要があります。給付額の平均1,700万~2,000万円程度という金額は、バブル期のピーク時と比べると約3~4割の減少となっているのです。
また、老後資金については、個人ごとに考えていくことが重要です。一定程度の老後資金が必要だという認識についても、これまでの考え方が「2,000万円問題」の時期を境に変化している可能性があるからです。
以前のデータでは、「公的年金以外に必要な退職後の生活資金総額」の平均額は、約3,000万円という意見が多数でした。しかし2019年6月に金融庁レポートで「2,000万円」が話題になった後、2020年に初めて大幅に下落して、平均2,697万円(前年度比16%減)となったのです。必要だと考える額は「1,000万〜2,000万」「2,000万〜3,000万」が全体の6割に達し、多くの人の意見が「2,000万円」という数字に集約されていった可能性があります(※5)。
「2,000万円」は目安の一つ
この2,000万円という数字は、あくまでモデルケース(平均給与で40年間就労してきたサラリーマンと専業主婦の妻)の場合であり、老後に必要な資金は人それぞれです。
老後資金を意識して貯蓄の見直しや投資を始めるなどの行動につながった人がいる一方で、逆に「2,000万円で大丈夫」「退職金があるから」と安心してしまった人がいるかもしれません。2,000万円という金額は老後生活を考える上での目安の一つであり、自分に必要な老後資金は各人がそれぞれ推計していく必要があるのです。
退職金に関するアンケート調査によると、給付額を把握した時期について、約半分の人が退職するまで支給額を把握できていなかったというデータもあります(「退職金を受け取るまで知らなかった(約3割)」「知ったのは定年退職半年以内(約2割)」)。
年金の見込み額や退職金制度・支給額について確認することで、老後資金を考える第一歩につなげてみてはいかがでしょうか。
さいごに
老後2,000万円あれば誰でも安心だとは言い切れません。退職金も2,000万円を得るには勤続35年超が目安であり、支給額は減少傾向にある点にも注意が必要でしょう。ライフプランについては出来るだけ早期に専門家に相談するなど、その人にとっての適切な対策法を探していくことが重要となりそうです。
参考資料
- (※1)『金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」』金融庁(令和元年6月3日公表)
- (※2)「平成30年(2018年)就労条件総合調査 結果の概況」厚生労働省
- (※3)「令和元年退職金、年金及び定年制事情調査」中央労働委員会(2019年)
- (※4)「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」東京都産業労働局(2018年)
- (※5)「投資をしている人が4割突破 反面、老後2000万円問題の功罪も」ITメディアOnline (2020年11月17日)
【ご参考】貯蓄とは
総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。
LIMO編集部