2019年、金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書により、いわゆる「老後2,000万円問題」が大きな話題となり、老後の生活費が大幅に不足する予測が示されました。「公的年金だけでは足りないかもしれないが、定年退職金がある」と考えている方もいるかもしれません。しかし、退職金の金額は近年減少傾向にあり、また、中には退職金の制度がない企業も存在します。退職金の支給については企業側に支払い義務はなく、そのため産業により退職金に関する偏りがあるようです。ここでは、退職金制度の現状について見ていきましょう。

産業別の退職給付制度の実態とは?

退職給付金の受け取り方は2通りあります。「退職一時金制度」と「退職年金制度」です。厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」(2018年)によると、この制度がある企業は80.5%となっています。産業別では退職給付制度がある割合にどのくらいの違いがあるのでしょうか。

産業別の退職給付制度

  • 複合サービス事業(信用・保険・共済事業を行う協同組合や郵便局など):96.1%
  • 鉱業、採石業、砂利採取業:92.3%
  • 電気・ガス・熱供給・水道業:92.2%
  • 金融業,保険業:88.6%
  • 製造業:88.4%
  • 建設業:87.5%
  • 医療,福祉:87.3%
  • 学術研究,専門・技術サービス業:86.8%
  • 教育,学習支援業:86.5%
  • 情報通信業:86.1%
  • 不動産業,物品賃貸業:81.5%
  • 卸売業,小売業:78.1%
  • 運輸業,郵便業:71.3%
  • サービス業(他に分類されないもの):68.6%
  • 生活関連サービス業,娯楽業:65.3%
  • 宿泊業、飲食サービス業:59.7%

【調査対象について】

日本標準産業分類(2013年10月改定)に基づく16大産業(製造業や情報通信業、金融業など)に該当する産業で、常用労働者30人以上を雇用する民営企業(医療法人、社会福祉法人、各種協同組合等の会社組織以外の法人を含む)となっています。ここからさらに、産業、企業規模別に層化して無作為に抽出した企業が調査対象です。調査客体数は6,405、有効回答数は4,127、有効回答率は64.4%となっています。

調査結果によると、もっとも高い割合となったのは「複合サービス事業(信用・保険・共済事業を行う協同組合や郵便局など)」でした。サービス業を中心に割合は低くなり、「宿泊業、飲食サービス業」では6割を切っています。また、さらに企業規模により退職給付制度の有無に差があるようです。

企業規模別の退職給付制度がない企業

  • 1,000人以上:7.7%
  • 300~999人:8.2%
  • 100~299人:15.1%
  • 30~99人:22.4%

企業規模が小さくなるほど、退職金制度がない割合が増えています。世界全体の経済情勢を考えると、退職金の支給額についても決して楽観できるとはいえないでしょう。住宅ローン等の負債や家族構成、老後の生活の見通しによりライフプランは変わってきます。企業に退職金制度がある場合でもできるだけ早いうちに概算額を把握して、計画を立てていくことが重要となりそうです。