河口でのアキアジ釣りを初体験

9月から10月は、北海道の河川にシロザケ(鮭)が産卵のために上ってきます。このシロザケを地元北海道ではアキアジと呼び、海上あるいは河口の許可されている場所での“ぶっこみ釣り”が盛んに行われています。

今はまさにその季節、筆者は生まれて初めて河口でのアキアジ釣りの現場を見ることができました。その時感じたことは、この釣りの”様式”が日本人の行動の原点ではないかということでした。

小清水町の止別川河口には多数の釣り人が

筆者が初めて河口でのアキアジ釣りを見たのは9月25日。北海道斜里郡小清水町を流れる止別川の河口での光景でした。冒頭の写真のように、河口を両岸から挟む堤防の上に、釣竿を持った大勢の釣り人が肩を寄せ合い海の方を向いて立っています。

これは、海岸近くに迷い込んだアザラシを眺める野次馬というわけではなく、それぞれがルアー竿を投げて、アキアジを釣っているのです。

止別川は、ついシベツ川と読みたくなりますが、正しい名称はヤンベツ川です。ヤンベツはアイヌ語の「ヤム・ペッ」(冷たい川)に由来するそうですが、このようなアイヌ語に漢字を当てた地名が北海道全域で見られるのはご存知の通りです。

余談ですが、小清水町は「ジャガイモ街道」で有名な地域で、筆者が堪能したジャガイモの焼酎はなかなかの味でした。

隣の人と肩が触れ合う近さで釣りができる理由

話を釣りに戻しましょう。北海道では、海面漁業調整規則により河川内でのアキアジ釣りは全面的に禁止ですが、一部の河川では海と川の境目(概ね堤防の海側)での釣りが許可されています。

そのため、アキアジの群れが上ろうとする河川の入り口には上の写真のように釣り人が集中するのです。この、人が肩を寄せ合い釣っている堤防のことを、地元では「お立ち台」と呼んでいます。

初めての経験である筆者は興味津々で、1時間以上にわたってこの様子を観察してしまいました。初めは、こんなに肩と肩がぶつかり合う距離で釣りができるのかと疑問に思いましたが、見ているうちに、なぜそんなことができるのか理解できました。

このような混雑状態で誰かが釣り上げると、隣の釣り人の糸や針に絡んでトラブルの原因になることがありますが、ここでは見ている限り何の口論も諍いもありませんでした。

アキアジを掛けた釣り人は、素早く手元に獲物を引き寄せます。その獲物を堤防脇の砂浜に引き上げるためには隣に居並ぶ釣り人の竿を潜り抜けなければなりません。そこで、周辺の釣り人は暗黙の了承のもとに一歩後ろに下がり竿を立て気味にします。

その隙間を通って、釣った本人が砂浜に降りることができるのです。この間、釣り人が1人減ったことで別の釣り人が新たに仲間入りできるという仕組みになっています。その整然とした動きに、ただただ驚き感心するだけでした。

こうして、筆者が見始めた最初の30分間だけでも、数十本のアキアジが上がっていました。

これが日本人の行動の原点、経済発展の原点か?

堤防のお立ち台に立っている釣り人たちは、恐らく長い間の経験でお互い馴染みになっている面もあるでしょう。暗黙の規則ができて、全員がその規則を忠実に守り、各自の釣りの技量でそれぞれ楽しんでいます。

狭い環境でひしめき合いながらも、諍いもなく黙々と秩序正しく行動する。これは、まさに日本の高度経済成長期のサラリーマンと似てはいないでしょうか。給料をもらうかアキアジをゲットするかの違いはあれど、日本経済を世界トップレベルに引き上げた原点を垣間見た印象を強く持ちました。

昨今では、働き方の多様化も進んでいます。昔と今とどちらが正しいということはありませんが、大災害の際にも発揮される日本人の秩序正しさは、社会や経済の発展にマイナスになったということはないと思われます。

1時間余りアキアジ釣りを観察して、ふとそんなことを考えました。来年は自分でもこの場に挑戦してみたいと思います。

 

石原 耕一