しばらく前、ツイッターをはじめとするSNSでは、夫婦の間の「ある言葉」の是非について賛否両論が飛び交っていました。よく話題になることのようですが、今回の再燃のきっかけは、某企業の公式ツイッターアカウントの投稿からのようです。

「ところで、明日は休日ですね!皆さんは何します!?
私は、嫁から「とりあえずこれを読め」と佐々木倫子先生の「Heaven?」を全巻渡されたので読みます。
(ドラマ版を見ていて、「これ原作見てないわ」と言ったら、速攻でした。)」

一見ごくふつうのツイートですが、「嫁」という言葉を使用していることに批判が集まっていたようなのです。この「嫁呼び」問題はときどきテレビでも特集されるなど、議論は白熱しているようです。

この記事では、配偶者の呼び方に関する調査なども踏まえつつ、さまざまな意見を見ていきたいと思います。

呼ばれたい呼び方と実際の呼び方の差

市場調査などを手掛けるインテージリサーチが2017年11月に発表した「夫婦は互いをどう呼んでいる?全国1万人調査」によると、女性に関しては、「希望する呼ばれ方」と「実際の呼ばれ方」には差があるようです。

女性の「希望する呼ばれ方」のベスト3は、

1位 「妻」23.0%
2位 「奥さん」17.9%
3位 「嫁」12.1%

なのですが、「実際の呼ばれ方」は、

1位 「嫁」23.0%
2位 「奥さん」15.7%
3位 「名前の呼び捨て」12.3%

となっているとのこと。ちなみに、男性の「希望する呼ばれ方」は、

1位 「主人」29.0%
2位 「旦那」16.2%
3位 「お父さん/パパ」12.3%

となっていて、「実際の呼ばれ方」についても、パーセンテージこそ違いますが、

1位 「主人」23.4%
2位 「旦那」22.9%
3位 「お父さん/パパ」17.6%

というように、ベスト3は同じ並びになっています。

「嫁」は差別用語か?

「嫁呼び」が嫌だという人の意見の根拠は次のようなものです。

「嫁とは本来、息子の結婚相手に使う言葉で、自分の妻を指して使うのは意味が違う」
「嫁呼びはなんだかモノ扱いされてるように感じることがある」
「昔の家父長制度を色濃く残している言葉のために男性上位な言葉という印象がある。嫁にもらうとか嫁に出すとか、人扱いしない時に使うという感じがする」

このほか、「嫁という漢字は女偏に家でできている」という意見もあるなど、わかりやすく古い家族の形を残しているように感じる人も多いようです。実際に、多くの行政が作成している「男女共同参画の視点に立ったガイドライン」のほとんどでは、「嫁」をはじめ、関連する「婿」や「家内」といった言葉は推奨されていません。

また、この「嫁呼び」問題に関連して、結婚している女性と思われるアカウントからはこのような意見も上がっています。

「嫁呼びって若い印象があるのでむしろ呼ばれたい」
「嫁呼びって嫌じゃなくない?この人と結婚したんだって感じする」
「私は旦那が外で嫁さんって呼んでるの知って嬉しかったな」

「嫁」と呼ばれることに対して違和感や不快感を覚える人が少なからずいる一方で、そう呼ばれていても気にならないという人も多いようです。

「主人」と呼ばれたくない!

結婚している女性を指す言葉が「嫁」「奥さん」「妻」と種類があるように、結婚している男性を指す言葉もまた「主人」「旦那」「夫」など多くあります。男性にもまた、こう呼ばれたくないなあという思いがあるようで、そうした考えを綴った投稿も数多くみられます。

「妻には主人と呼ばれたくないし、呼ばせない。僕も妻を家内とは呼ばないと決めている」
「旦那って呼ばれたくないなあ。これは結婚する前に確認案件だな」
「うちの婿とは呼ばれたくないし、嫁って呼び方もちょっと恥ずかしいですね」

中でも多く見られたのは、「主人」や「亭主」と呼ばれたくないという意見です。「対等な関係であるのに、主従関係があるかのように聞こえてしまうため使われたくない」というのがその理由のようです。

会話相手の配偶者はどう呼べばいいの……?

自分の配偶者を指す場合、それはお互いに了承している呼び方であれば何でも良いのだ、という意見は多く見られ、「嫁」や「主人」が時代に合わない表現であっても、お互いに納得していれば気にしないという方が一般的のようです。また、そうでなくともお互いを「妻」や「夫」と呼んでいる人は多くいます。「妻」「夫」ニュートラルな言葉ですから、当事者同士はそのように呼べば問題ないでしょう。

ただ、会話をしている相手の配偶者を指す場合には、なかなかそういうわけにもいかないですよね。「ご主人」や「奥様」というのが一般的でしょう。こういう場合は、一体どう呼べばいいのでしょうか……?

日本語とジェンダーの研究者である水本光美さんは、他人の配偶者の新呼称について、日本語ジェンダー学会に掲載されたエッセイ「改まった場における他人の配偶者の呼びかた」で以下のように書いています。

「現代社会では、必ずしも妻は「家の奥にいる人」ではなく、多くの女性達が社会進出をして家の外の世界で活躍している。また、 夫は「主人」「旦那」「亭主」という考え方も、いつまでも夫が中心で妻の上位者という意味合いを認めるようで、現代社会にはそぐわない」
「他人の配偶者に関しては、『妻』『夫』に匹敵するジェンダーフリー的な言葉がないのが現状だ」

こう述べた上で、「妻さん」「夫さん」がわかりやすくていいのではないか、と提案しています。

法律で呼び方が変わったものも

実際に、松たか子や満島ひかりが出演した2017年のテレビドラマ『カルテット』では「夫さん」という言葉がセリフ中で使用され、SNSでも話題となったようです。

ジェンダーへの配慮から、2001年に「保健婦助産婦看護婦法」が「保健師助産師看護師法」に改定されたことを受けて、2002年からは、かつての「看護婦」「看護士」という呼び方が、男女ともに「看護師」に統一されました。これは「法律」という形で、国として使う用語を変えたということになります。

配偶者の呼び方は、まさか法律で決めることはないでしょうが、上記のような見方が広がっていくにつれて、ひょっとすると「嫁」や「主人」も使わないのが一般的になるのかもしれません。みなさんはどう思われますか?

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