キュレーターから読者に伝えたいポイント

2016年9月28日、石油輸出国機構(OPEC)が大方の予想に反して、2008年以来8年ぶりに石油生産量を減らすことで合意しました。このニュースはポジティブサプライズとして受け止められ、原油先物市場は急騰し、これを受けた米株式市場でダウ工業株30種平均は続伸しました。

今回は、この想定外のニュースが日本株にどのような意味を与えるのかを考えて見たいと思います。

基本的には原油価格上昇は日本株にポジティブ

2016年9月29日の日本の株式市場は、前日の米国株の上昇を受けて高く始まりました。上昇を牽引したのは鉱業、鉄鋼、石油石炭製品などであることから、OPECの減産報道を材料視したことが読みとれます。

日本は資源輸入国です。そのため、原油などの資源価格上昇はコスト上昇をもたらし、本来は株価にはマイナス材料となるはずですが、資源価格の上昇で短期業績が大きく改善する業種が多いことも事実です。

具体的には、資源権益の資産価値が上昇する大手総合商社、資源国の設備投資回復の恩恵を受けられるプラント関連メーカーや鉱山機械メーカーなどです。また、原油価格の上昇局面では、安い価格で仕入れた原油を高い価格で販売することができますので、石油精製メーカーについては利益率の改善を期待することができます

また、原油価格が上昇すると、日本株に対する外国人買いが増加する可能性があることも見逃せないポイントです。

原油の下落局面では、オイルマネーは原油の収入減から世界の金融資産を売却する行動に出ます。一方、上昇局面ではこうした動きが反転する可能性が高まることや、外国人投資家から見た日本株は製造業・輸出産業の構成比が高い「世界景気敏感株」であるため、買いを集めることが期待できるからです。

こうした点を考慮すると、OPEC減産報道を受けて上昇した29日の日経平均の動きには「違和感がない」ということになります。

出所:原油価格は下がるのか?上がるのか?(楽天証券)

米国シェールオイルの生産動向を注視したい

では、今回の合意により、原油価格が今後大きく下落するリスクは完全に後退したのでしょうか。ここで取り上げた記事を読むと、そうとは言い切れず、米国でのシェールオイルの動向にも注意が必要であることが感じられます。

その理由は、ここ数年の原油価格低迷の主因が米国でのシェールオイルの大幅増産にあったことや、原油の供給量を決めるのはOPECだけではなく米国のシェールオイル企業も無視できない存在であるためです。

ちなみに、減少が続いていたリグ(掘削装置)稼動数も、5月末時点の316基を底に8月26日現在で406基まで増加しています。加えて、原油価格は彼等の採算ラインを上回っているため、近い将来に生産が増加に転じる可能性もまだ残っているようです。

目先は原油先物市場を好感した動きが継続する可能性がありますが、こうしたリスクもまだ残っていることを頭の片隅に入れておきたいと思います。

出所:高まる原油安リスク。その背景と日本への影響は?(投信1)

業種ごとに原油高の影響が異なることに注意が必要

29日の日本の株式市場で最も売られた業種は、日本航空(9201)やANAホールディングス(9202)などが含まれる空運セクターでした。この理由は、容易に想像できると思いますが、燃料費上昇のデメリットが懸念されたためです。

一方、空運セクターと同様に石油を原料として使う素材セクターは、空運業ほどはパフォーマンスが悪化しませんでした。それは、短期的にはコスト増のマイナス影響を受けるものの、材料コストの上昇が化学製品の上昇にも転化されていけば、持続的な株価上昇につながることへの期待が反映されたためと推察されます。

この記事の筆者によると、化学株の“ボトムフィッシング”のタイミングは、早ければ2017年前半と指摘されています。業種ごとに石油価格の変動の影響が異なることを踏まえて、こうした見方も参考にされることをお勧めいたします。

出所:石油化学株、“ボトムフィッシング“のタイミングはいつ?(投信1)

 

LIMO編集部