本記事の3つのポイント
- 自動車市場の回復基調が鮮明となり、車載半導体メーカーの7~9月業績は急回復している
- 主要4社(Infineon、NXP、ルネサス、STマイクロ)の売上高をみると、全社で4~6月期からプラス成長で推移
- 足元では在庫調整も終了し、一部で供給がタイトになっているところもある
中・米・日で自動車販売増
2020年10月における新車販売台数をみると、中国では前年同月比12.5%増の257.3万台となり、4月以降7カ月連続で前年を上回る成長を継続するとともに、5月から6カ月連続で2桁の高成長を記録している。内訳は、乗用車が同9.3%増の211万台、商用車が同30.1%増の46.4万台と大きく伸長した。
新エネルギー車も6月までは前年を下回る状況であったが、7月からプラス成長に転じ、10月は前年同月比で約2倍の16万台まで拡大した。都市でナンバープレート発給数の引き上げや、新エネ車の購入に際しての補助金支給の実施方針が明らかになるとともに、中国の年間最大のショッピングイベントである「W11」(ダブルイレブン)に伴う消費機運の高まりが需要を喚起したと思われる。
欧州市場(17カ国)においては、同6.3%減の102万台となった。英国やフランスで新型コロナの深刻な感染拡大を受け、全国を対象としたロックダウンを実施するなど、マクロ経済は混迷しており、自動車の本格的な販売回復にはほど遠い状況にある。このため、「20年だけでなく21年初頭まで自動車販売の混乱は続く」と懸念の声が聞こえてきている。
日本市場における新車販売台数は同29.2%増の40.7万台と、これまでのマイナス成長から脱し、大幅なプラス成長を達成した。大型車のうちバスはマイナス成長となったものの、乗用車、軽自動車ともに大きく増加した。トヨタは、主に米国・中国などが牽引し、同8%増の84.8万台を販売。これは10月単月としては過去最高の販売台数となる。中国市場では、地方モーターショーなどによる来店誘致に加えて、カローラやレビン、レクサスブランドが好調で、7カ月連続で前年超えを果たしている。
10月の米国市場における新車販売台数は、同3%増の120万台となった。個人消費が大きく改善し、ディーラーの在庫もタイトになっているもよう。車種別では、比較的高価格のピックアップトラックやSUVの人気が高まっており、平均取引価格は3万6755ドルと過去最高となる見通し。
想定前倒しで車載半導体が急回復
自動車市場の回復基調が鮮明となり、車載半導体メーカーの7~9月業績は急回復している。主要4社(Infineon、NXP、ルネサス、STマイクロ)の売上高をみると、全社で4~6月期からプラス成長で推移。Infineonでは、サイプレスの売上高が4~6月期から含まれたこともあり、4社のなかで唯一、前年同期比でも2桁の高成長を果たしている。車載半導体では、チャネルの在庫調整が一段落し、再び需要が回復基調に転じるは10~12月期からとの見方があったが、すでに在庫調整は終了。自動車販売の急回復を受け、むしろ需給がタイトになってきているもようだ。
Infineon Technologies
Infineon Technologies(ATV事業)は、サイプレス・セミコンダクターの買収により、NXPを抜いて車載半導体のリーディングサプライヤーとなった(19年ベース)。車載用パワーデバイスでは圧倒的トップシェアを持つとともに、サイプレスの買収で車載マイコンを強化し、NXPやルネサスを猛追している。
7~9月期におけるATV事業の売上高は、前年同期比17.8%増の10億5200万ユーロ(約4分の1は旧サイプレスの車載マイコン、車載メモリーと推計)となり、2桁の高成長を果たした。xEVやMCU、ADASなど製品を展開するほぼすべての分野で売り上げが拡大した。セグメント利益も4~6月期の赤字から、6200万ユーロの黒字へ転換するなど力強い回復を見せている。
「9月は、米国と欧州市場でコロナの感染拡大後、初めて前年同月比でプラス成長を果たした。ドイツやフランスでは、EVの補助金制度導入を受け、PHVならびにフルバッテリーEVの構成比率が前年比2倍にまで拡大している。当社では比類のないパワーコンポーネントのポートフォリオを有しており、あらゆるタイプの電動車に対応する完全なソリューションの提供で事業を拡大していく」としている。
NXP Semiconductors
Automotive事業の7~9月期売上高は、前期のガイダンスの中間点を大幅に上回る9億6400万ドルとなった。前年同期比では8%減となったが、前四半期比では43%増とV字回復を果たした。
NXPの主要顧客は欧米の自動車メーカーであるため、4~6月期は生産調整などで大きな打撃を受けたが、7~9月期は自動車市場の回復により増収に転じている。
同社はデベロッパー・コンファレンスでフォルクスワーゲン(VW)とのコラボレーションを発表していたが、NXPのバッテリー・マネジメント・ソリューションがVWのEVプラットフォームに採用されたことを明らかにした。VWのPHV「ID.3」や「ID.4」から、アウディの「e-Tron」、ポルシェの「Taycan」といった高級EVに至るまで、電動車に対する広範なニーズに応えるために必要な柔軟性とスケーラビリティーを提供する。「現在、自動車メーカー上位20社のうち16社が、同ソリューションのデザインインを行っている」としている。
ルネサス エレクトロニクス
自動車向け事業の売上高は、前年同期比14.5%減(前四半期比9.6%増)の796億円となった。「4~6月期に比べると、車載関連の需要は急回復しており、チャネルにおける在庫調整はほぼ終わった。むしろ需給がタイトになっており、在庫を積み増す方向に変わってきている」としている。
マーケットシェアの動きとしては、特にSoC製品を中心として新しいプラットフォームが立ち上がってきている。個数ベースで広がりと、比較的単価が高い製品であるため、金額ベースでの上乗せが期待できる。
ルネサスは、コンチネンタルが第1世代のボディー集中制御コンピューター(ボディーハイパフォーマンスコンピューター)に、ルネサスの高性能車載用SoC「R-Car M3」を採用したことを明らかにした。ボディーハイパフォーマンスコンピューターは、クラウドサービスに接続するためのセキュアなゲートウエイ機能を持ち、車両システムを集中制御。R-Car M3は、その最高レベルのセキュリティーと機能安全により、OTA(Over the Air)による車載ソフトのアップデートを可能にする。
従来の車両構造では、搭載している数十ものECUのソフトウエアを個別にアップデートすることは困難だが、車内のE/Eアーキテクチャーを刷新し、ボディー集中制御コンピューターを搭載することで、車載ソフトウエアのアップデートを1カ所で集中的に管理することが可能となる。
STマイクロエレクトロニクス
Automotive & Discrete事業(ADG)の7~9月期売上高は、パワーディスクリートなどの需要減を受け、前年同期比4.8%減(前四半期比17.0%増)の8億5100万ドルとなった。
「自動車の電動化では、20年におけるHVとEVの市場予測は、それぞれ約700万台と200万台と見ている。また、自動車のデジタル化は、当社にとって大きな追い風になると期待している。新型コロナの感染拡大により、自動運転レベル4およびレベル5のADASの展開が遅れる可能性があるが、レベル2およびレベル2+では需要が明らかに加速している。これらの動きは、10~12月期業績に表れてくるだろう」としている。
クルマの電動化では、電気自動車用の車載充電器などの用途で、SiC-MOSFETで多くの新しいデザインウインを獲得。また、バッテリー管理システム用の「MDmesh MOSFET」や、統合ベルトスタータージェネレーターの低電圧トランジスター、ボディー帯電プラットフォーム用の「VIPower」製品、SiCダイオード、補完的なテクノロジーを備えた多数のソケットでデザインウインを獲得している。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水聡
まとめにかえて
当初、長期的な需要低迷に喘ぐと見込まれていた自動車産業ですが、予想に反して急回復を見せています。車載用半導体大手の業績も20年4~6月期を底に回復しており、記事にもあるとおり一部で供給がタイトになっているところもあります。需要回復も一過性のものと見る向きもありましたが、10~12月期の需要にも力強さがあり、回復基調が鮮明になっている印象です。
電子デバイス産業新聞