ウェブニュースのほか、YouTubeなどの動画サイト、FacebookやTwitterといったSNSなどで、ありとあらゆるコンテンツが誰でも簡単に見られる時代。多くの企業や自治体は、それらのウェブサービスに必死に広告を打って、少しでも多くの人に知ってもらおうとしています。それでも、情報が溢れまくっているだけに、マーケティングやブランディングは一昔前のように一筋縄ではいかない状況です。頭を抱える広報や販促の担当者は少なくないでしょう。

 しかし、多くの人の価値観に響き、小さい会社が大きな成功を収めているケースも多くあります。書籍『儲かるSDGs』の著者で、中小企業の集客・売上アップや自治体・公的団体などの地方創生プロジェクトなどにも数多く関わってきた経営コンサルタントの三科公孝さんは、「大企業やお金を持っている企業が取り組んでいるイメージが強い『SDGs』ですが、中小企業こそ経営にとってめちゃくちゃプラスになる考え方なんです」と話します。

 この記事では、同書をもとに、三科さんに具体的な事例を挙げてもらいつつ、「SDGsを活用したマーケティング・ブランディング」について解説してもらいました。

マーケティングは抗生物質、ブランディングは漢方薬

「SDGs」というのは、2015年の国連でのサミットで採択された「持続可能な開発目標」のこと。「質の高い教育をみんなに」「住み続けられるまちづくりを」「産業と技術革新の基盤をつくろう」など、日本も含めて世界中が2030年までに達成を目指している17の国際的な目標です……などと言うと、ものすごく高尚で難しそうな話に思われますが、そんなことはありません。

 このSDGsの活用の話に入る前に、まず「マーケティングとブランディングって、結局、どういうものなの?」という話を少ししておきましょう。

 一言でまとめるなら、マーケティングとは、企業なら「買ってもらうこと」、自治体などの場合は「人に来てもらうこと」と言えます。また、ブランディングは「好きになってもらうこと」と言えるでしょう。前者は市場を分析し、買ってもらう/来てもらうためのルールを導き出すこと。後者はメッセージを投げかけて、そのメッセージをキャッチしてもらえるようにすることです。

 この2つは、どちらも大切で、領域的に近しい部分も多々ありますが、薬にたとえると、マーケティングは「抗生物質的な効き目が出やすい施策」と言えます。ただ、多用すると耐性菌が生まれるように、効果が出にくくなります。また、広告的なマーケティングの場合、インターネット時代においては「中身の魅力」が肝心。いかに広告そのものが優れていても、中身が薄いものであればファンを獲得できません。

 一方のブランディングは「漢方薬的な施策」です。一朝一夕でブランドは確立できませんが、じわじわと体を強くしていく。最終的には薬=細かい分析や広告を用いずとも、勝手にファンがついてきて自立できる状態を目指し、理想とするものです。

個人の「好き」の価値・強さがどんどん上がっている

 本来なら、マーケティングとブランディングは両立されるものでしたが、近年はブランディングがより重視されるようになっています。

 なぜなら、見え透いたマーケティング戦略に、「あざとさ」を感じる方が増えているからです。たしかに、情報源がラジオやテレビ、新聞や雑誌しかない時代は、広告も娯楽の一種で、いまも語り継がれる名キャッチコピーや、短い映画のように愛されるテレビCMがたくさん生まれました。

 しかし、インターネットによって情報の選択肢が劇的に増えたのが現代。興味のない企業や商品の広告を見せられるのは、多くの人にとって苦痛になっています。自分が見たい・知りたいコンテンツにアクセスするたびに、見たくもない広告を目にすることにうんざりしたという経験がある方も少なくないでしょう。

 要するに、いまを生きる人たちは、自分の「好き」に時間を使うので精いっぱい。SNSなどで簡単につながり、シェアできることで、個人の「好き」の価値・強さがどんどん上がっています。一人の消費者がつぶやいた書評ツイートがあっという間に広がり、絶版になっていた書籍が復刻されるようなケースが日々起きています。

 そんな時代においては、マーケティングの広告的観点から見ても、「きちんと中身を見てもらい、好きになってもらうブランディング的手法が、最も効果的だ」と考える人が、宣伝広告に携わる側にも増えています。

 結果、マーケティングとブランディングの壁がなくなり、マーケティングをブランディングのように行い、ブランディングをマーケティングとして行うような時代になっているのです。

SDGsは「ブランディング施策」にはもってこい

 そうした状況で、「SDGs」はブランディング施策にもってこいだと言えます。SDGsの悪口は誰も言いません。敵がいないので、「好き」を生み出しやすく、ブランディングとの親和性が非常に高いのです。

 ただし、当たり前の話ですが、底の浅いSDGsアピールでは見抜かれ、むしろ評価が下がってしまうので要注意です。現代の消費者のみなさんの「好き」の熱量は、凄まじいものがあります。ちゃんと自分がやりたいこと、できそうなことをやって、好きになってもらえるよう、伝わりやすくアピールする努力が欠かせません。

 ブランド化の最大の効果は、品質を評価・信頼してくれるファンがついて、高価格でも売れるようになることです。SDGsで高品質の商品・サービスを高価格で売れるようにできるのも、SDGsがブランディングにつながるからです。

 1990年代以降、多くの企業や組織が、自社の商品・サービスのコモディティ化(日用品化)に悩んでいます。ディスカウントストアやコンビニエンスストアの、安くて質も高いプライベートブランド(PB)商品の勃興は、消費者目線ではありがたいものの、コモディティ化は価格と利益を下げ、赤字を増やし、企業の寿命を縮めてしまうので、同業の経営者目線では大変な試練となっています。

 また、競合が少なかった時代は魅力的に見えていた商品・サービスも、コモディティ化し、PB商品のような強力なライバルが増えると、消費者目線では「平均的なモノ・コト」になってしまい、ブランディングの観点からもダメージが大きいと言えます。

 もちろん、経営者からすると、そんなことは百も承知でしょう。とはいえ、ブランディングは難しいので、高品質・高価格の商品やサービスを開発できずに、コモディティ市場で戦うしかない企業がほとんどであると思われます。

筆者の三科公孝氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

不足している「最後のピース」

 SDGsは、そんな企業の救世主となるかもしれません。

「持続可能な社会」を目指す前向きな取り組みであるSDGsは、多くの人に親しんでもらいやすいものです。実際に、従業員の少ない中小企業や、地方の自治体でも、SDGsの考え方をブランド化施策にうまく取り込んで成功している事例がたくさんあります。

 もちろん、繰り返すように、消費者の目は肥えて、厳しくなっているので、「SDGsをやれば必ず成功する」とは言えません。しかし、高品質で、なおかつ外に知ってもらう施策もきちんとしているのに、うまく売れない商品があるのなら、そこに不足している「最後のピース」がSDGsかもしれません。

 

■ 三科 公孝(みしな・ひろたか)
 株式会社ノウハウバンク 代表取締役。1969年山梨県生まれ。立命館大学文学部哲学科を卒業後、株式会社船井総合研究所を経て2000年より現職。中小企業の集客・売上アップ・販路開拓などの企業活性化プロジェクト、地域資源活用によるヒット商品開発や観光集客・PRなどの地方創生プロジェクト、研修・講演活動などを行う。企業・官公庁・公的団体など組織形態を問わず、実践的で確実に売上・集客につなげるコンサルティング手法に定評があり、特に近年は全国でSDGsに関する講演・セミナーを行っている。

 

三科氏の著書:
儲かるSDGs ――危機を乗り越えるための経営戦略

三科 公孝