その弁当を売っていたのは、あるお肉屋さんでした。店は芦屋や三宮からは離れており、地震の被害が少なかったようで、本来は1個400~500円くらいで売っていただろう弁当を、震災のダメージが大きい場所に出向き、1個5000円で売っているというのです。

 芦屋については、「関西でも有数の高級住宅街」というイメージをお持ちの方もおられると思いますが、当然ながらごく普通の住宅も多く、資産家だけが住んでいる地域ではありません。ただ、その値段でも弁当は次々に売れたそうです。

 しかし、それから3カ月ほど経ったとき、奥様がそのお肉屋さんが閉店したと教えてくれました。芦屋の人々は「あんな店、地元だったら絶対に買わない!」と憤っていたそうですが、そのお肉屋さんは地元近辺でも5000円で弁当を売っていたらしく、実際に地域の人たちに相手にされなくなったというのです。

混乱期にこそ、まっとうに

 それとは正反対に、混乱期にまっとうな行動を取ったのが、宮城県に本社を構え、2020年で創業100周年を迎えたお茶の井ヶ田(いげた)株式会社(以下「井ヶ田」)です。

 井ヶ田は和風スイーツの販売や食事の提供をする「喜久水庵(きくすいあん)」という店舗を展開しています。1998年に発売された抹茶生クリーム大福「喜久福」は人気を博しており、お笑いコンビ「サンドウィッチマン」のお二人も大好きで、「喜久福親善大使」を務めるほど愛されている商品です。

 2000年代の井ヶ田は、喜久福の人気を受けて拡大戦略を取っており、2006年ごろから、私も店舗の売上アップのコンサルティングをさせていただくご縁を得ました。2010年には出店数が50店舗を突破し、若い才能がどんどん抜擢されて、20代の若い店長のみなさんがそれぞれの店舗を運営していました。

 そして迎えた2011年3月11日、東日本大震災が発生。

 若き店長たちは自主判断での対応を迫られました。通信会社では電話やメールが集中し、回線はパンク。連絡手段が断たれた状況が地震発生以降続いていました。その状態で、彼らはどんな判断をしたのでしょうか。