本記事の3つのポイント
- マイクロLEDの事業化に向けた動きが活発化。スマートグラスなど具体的なアプリケーションも見えてきた
- 台湾サプライチェーンでも事業化に向けた提携が相次いでいる。EpistarとLextarは合弁会社を設立
- 欧州でも大型の資金調達や工場投資が目立つ。日本もジャパンディスプレイや京セラ、シャープに注目
次世代ディスプレーとして期待を集めるマイクロLEDの事業化に向けた動きが活発化している。具体的な搭載アプリケーションと紐づいた事業提携や投資計画が相次いで浮上しており、2021年には実製品としてお目見えする案件が見えつつある。各社の動きをまとめてみた。
21年にARスマートグラスに搭載確定
2021年にマイクロLEDディスプレーを搭載したARスマートグラスを発売することを公表しているのが、スマートグラスの老舗メーカーである米Vuzixだ。手ごろな価格の一般消費者向けから、セルラー接続機能を搭載したハイエンドのエンタープライズ用まで幅広くラインアップする予定になっており、ここに1インチ前後のモノリシック型マイクロLEDディスプレーを供給するとみられるのが英Plessey Semiconductorsである。VuzixとPlesseyは18年8月に開発提携を結び、19年5月には専用ディスプレーの長期供給契約を締結している。
PlesseyはGaN on SiliconマイクロLEDアレイを製造し、これを駆動するシリコンバックプレーンは米Compound Photonics(CP社)が供給し、これを貼り合わせてモジュール化する。両社はともに研磨表面処理装置メーカーの米Axus Technologyと協業しており、マイクロLEDアレイとシリコンバックプレーンをAxus社のCMP装置「Capstone CMP」で平坦化する。このプロセスを確立するため、CP社はアリゾナ州チャンドラーに持つマイクロLEDイノベーションセンター「MiARA」でAxus社と共同開発を行っている。
なお、貼り合わせには、Plesseyが共同開発契約を結んでいるEVGのウエハー接合装置「GEMINI」を活用するとみられる。また、PlesseyはLEDアレイの製造にはAixtronのMOCVD装置「AIX G5 + C」を用いている。
CP社は20年8月、マイクロLEDディスプレーのプラットフォーム「IntelliPix」を発表し、21年初頭にデモサンプルの提供を開始すると明らかにした。AR/MRのニアアイ用途を想定したもので、同プラットフォームの主要技術として、画素の駆動を最適化し、消費電力を削減できるOnDemand Pixels技術を搭載した。アイトラッキングと組み合わせることもできるといい、これがスマートグラスに搭載されるディスプレーモジュールのベースになるとみられる。
ちなみに、Plesseyは3月にSNS大手の米Facebookと協業することも発表済みで、Facebookが開発するARスマートグラスにマイクロLEDディスプレーを独占供給するとみられている。本件の早期具体化も注目されるところだ。
台湾メーカーの事業提携が活発化
台湾サプライチェーンでも事業化に向けた提携が相次いでいる。その中心にいるのが、LEDメーカーのEpistar(晶元光電)とLextar(隆達電子)である。
ミニ/マイクロLEDの開発の加速と効率化を図るため、両社は共同持株会社「ENNOSTAR」を設立することを6月に決定している。株式交換に関する中国当局の承認が遅れているため、設立は21年1月6日に延期することになったが、EpistarはLEDのエピやチップなど上流と中流の技術、LextarはパッケージやモジュールなどLED下流の技術に注力していく方針だ。
こうしたなか、Lextarは、マイクロLEDベンチャーの米X Display Company(XDC)と共同開発&IPライセンス&サービス契約を結んだ。LextarはXDCのIPを用いてマイクロLEDを製造し、互いの顧客に提供できるようになる。
XDCは、アイルランドと米ノースカロライナ州に拠点を持つベンチャー企業X-Celeprintからのスピンオフで18年末に設立された技術開発企業で、LED移載技術「エラストマースタンプ マストランスファー」を持つ。世界で発行済みと申請中を含め400件を超える特許を有している。今回の契約でLextarは「顧客はマイクロLEDチップからディスプレーモジュールまでワンストップサービスを受けられるようになる」と述べている。
XDCは2月、大型LEDディスプレーメーカーの米Daktronicsから出資を受けた。DaktronicsはXDCの技術開発を支援し、LEDディスプレーの画素ピッチを1mm以下に狭ピッチ化できる技術の確立などを進めている。また、LextarとXDCは、19年8月に台湾で開催された展示会「Touch Taiwan 2019」で、マイクロLEDを用いた5.1インチのフルカラーディスプレーと緑色単色ディスプレーを展示したことがある。
こうした一連の提携から、Lextarは今後、XDCの技術を用いて、Daktronics向けにタイリングによって大型ディスプレーを構築できるマイクロLEDモジュールを量産供給するとみられる。
また、余談になるが、EpistarとLextarは、台湾FPD大手のAUOとも連携しており、Appleが開発中とされるARスマートグラスやApple WatchにもマイクロLEDディスプレーを供給する可能性があるともいわれている。
Alediaがグルノーブルに量産工場新設へ
ナノワイヤーLEDを開発している仏Alediaは、このほど総額1億2000万ユーロを計画しているDラウンド資金調達のうち、8000万ユーロの調達を完了したと発表。この資金を活用し、グルノーブルの南に位置するイーゼル県シャンパニエに約4000万ユーロ(設備除く)を投じてマイクロLEDの量産拠点を建設することを表明した。
Alediaは、フランスの研究機関CEA-Letiが開発してきた3D-LED技術をスピンアウトして11年に設立された。マイクロ&ナノワイヤー構造を持つ3D GaN on Silicon LEDを開発しており、13年3月には8インチのシリコンウエハーを用いたLEDの開発に初めて成功。あわせて、欧米の投資家から総額1000万ユーロのファーストラウンド資金調達を完了した。
3D-LEDは、シリコンウエハー上に直径1μm以下のGaNマイクロ&ナノワイヤー(マイクロ&ナノロッド)が垂直に立った構造をしており、このワイヤー1本ずつが発光素子として機能し、モノリシックで青~赤までの全波長を発光させることができる。一般的なCMOS技術と互換性があり、ファンドリーで大規模量産できるプロセスだといい、300mmへの大口径化も検討している。
18年1月に総額3000万ユーロのシリーズC資金調達を完了し、新たな投資家としてIntel Capitalが加わった。さらに、19年12月には半導体ファンドリーのTowerJazzと開発パートナーシップ契約を締結し、TowerJazzのTransfer Optimization and Development Process Servicesを利用して、量産プロセスの確立を図った。
これと並行して、18年6月に米Veeco InstrumentsからGaN系MOCVD装置「Propel」を購入し、製造プロセスの開発を加速。19年にはグルノーブル都市圏のエシロルに2000万ユーロを投資して4000m²の新R&D施設を建設し、120人以上のメンバーで2年以内にナノワイヤーマイクロLEDの量産を開始するべく準備を進めていた。
新工場は、シャンパニエの敷地1万4000m²の取得に4000万ユーロ、製造設備の取得に1億ユーロを投じて整備する。最終的に2億ユーロまで追加投資して能力を拡大することを視野に入れている。シャンパニエを選んだ理由をCEOのGiorgio Anania氏は「CEA-Letiのラボ、グルノーブル研究エコシステムとの距離が近く、すべてが揃っている」と述べた。また、主要投資家である公的投資銀行BPI FranceのSPIファンドディレクターであるMagali Joessel氏は「今後5年間で2億ユーロを超える設備投資を行い、従業員約500人に成長するという計画であり、Alediaがフランスに世界規模の製造施設を設立するというコミットメントを示している」と語っている。
ちなみに、Alediaの投資家には、BPI France、Intel Capitalのほかに、Braemar Energy Ventures、Demeter Investment Partners、Ingka Investments、Sofinnova Ventures、Supernova Invest、東京エレクトロン、Valeoらがいる。
日本メーカーでも、ジャパンディスプレイ(JDI)、京セラ、シャープ、OKIなどがマイクロLEDディスプレーの開発を進めている。京セラは8月に開催されたディスプレーの国際学会「SID」で3.9インチの開発成果を発表したほか、シャープは先ごろJDIから取得した白山工場で近い将来、マイクロLEDディスプレーを量産する予定ではないかと報じられている。海外メーカーに続き、日本メーカーからも新たな開発成果や事業化に向けた動きが具体化することに期待したい。
電子デバイス産業新聞 編集部 編集長 津村明宏
まとめにかえて
マイクロLEDの量産化に向けた動きが活発化しています。従来の液晶・有機EL分野の枠にはとらわれないかたちで、新規参入メーカーが続々と台頭してきており、製造装置や材料などの関連市場も沸いています。今のところ台湾・中国などのアジア勢、それと欧米勢を中心とした開発・量産投資が活況ですが、記事にもあるとおり今後は日系メーカーの積極的な動きにも期待したいところです。
電子デバイス産業新聞