出光興産が目指す次世代CIGS太陽電池

軽量&フレキシブルで新市場開拓、タンデム型も開発

新型CIGSで新市場を狙う(出光興産)

本記事の3つのポイント

  • 出光興産が次世代のCiGS太陽電池の開発に注力、軽量&フレキシブル性を重視し新市場を開拓
  • 太陽電池で主流の結晶Siとの価格競争が厳しく現状で収益性は厳しい状況が続く
  • 結晶Siモジュールの大型&高出力化に対抗するため、CIGSと同じ化合物薄膜であるCdTeはモジュールの大型化および高出力化に取り組む
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 出光興産が次世代のCIGS太陽電池の開発に力を入れている。宇宙、航空、車載といった新市場への用途拡大を目指し、軽量基板を用いた軽量&フレキシブルモジュールを開発している。さらに、2つの発電層を重ねたタンデム型の開発にも着手した。トップセルに超高効率のⅢ-Ⅴ族化合物、ボトムセルにCIGSを用いたタンデム型をコンソーシアムで開発するほか、トップセルにペロブスカイト太陽電池(PSC)を用いたタンデム型も独自に開発している。

最高効率は23%超

 CIGSは銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)を基本元素とした多結晶化合物薄膜の太陽電池(PV)で、ガリウム(Ga)や硫黄(S)を添加することでバンドギャップを制御することができる。また、バンドギャップが1.1~1.2eVの直接遷移型半導体であるCIGSは光吸収係数が大きいため、膜厚2μm程度の光吸収層で太陽光を十分に吸収することができる。

 CIGSはガラス基板上にモリブデン電極、p型のCIGS光吸収層、n型のバッファー層(CdSなど)、さらに透明電極を積層してカバーガラスで封止した構造が一般的だが、有害なカドミウム(Cd)を含まないバッファー層も提案されている。

 CIGSの高効率化で有効とされるのがアルカリ効果で、1990年代以降、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)、ルビジウム(Rb)の添加で変換効率が向上することが確認されている。最近では、銀(Ag)を少量添加することで、CIGSのワイドギャップ化、界面再結合の抑制などで変換効率が向上することが報告されている。

 セル変換効率については、多くの研究機関で20%超が報告されているが、出光興産と経営統合(2019年4月)した旧昭和シェル石油の子会社のソーラーフロンティアが、Cdを含まないバッファー層を用いた1㎠のセルで23.35%の世界最高効率(AISTで認証)を達成している。CIGS光吸収層にCs処理を行うことで、光吸収層のライフタイムが改善し、キャリア再結合が抑制されたことで変換効率が向上した。

世界最高効率のCIGSセル(ソーラーフロンティア)

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 また、30cm角のサブモジュールでは19.2%、7×5cmのミニモジュールでは19.8%の変換効率を実現しており、いずれも世界最高効率となっている。量産出荷している高出力新型モジュールの出力は180~185Wで、量産ラインにおけるモジュールの最高出力は194.3W(開口部変換効率17.2%、モジュール変換効率15.8%)となっている。

世界で唯一、CIGSを量産

 ソーラーフロンティアはCIGSの商業化を目的に06年に昭和シェルソーラーとして設立した。翌07年から商業生産を開始し、10年には社名を現在のソーラーフロンティアに改称した。11年には主力工場である国富工場(宮崎、公称生産能力900MW)が稼働を開始しており、20年5月には累積出荷量が6GWを超えた。ソーラーフロンティアは世界で唯一、CIGSを量産している。

 CIGSモジュールの販売数量は12年が450MWだったが、13年には国内のFIT(固定価格買取制度)導入が追い風となり、販売数量は900MWと倍増した。そして、14~16年は850MW前後の安定した販売が続いたが、17年には販売数量が650MWまで落ち込み、以後、減少傾向が続いている。

 事業収益でも苦戦が続く。11年度から18年度までの旧昭和シェル石油のエネルギーソリューション事業(PV事業含む)の業績を見ると、11~12年度が営業赤字で、13~14年度は黒字転換したが、15~18年度は再び営業赤字となった。

 ちなみに、経営統合した出光興産の19年度決算においても、PV事業を含む電力・再生可能エネルギーセグントは赤字だった。20年度もCIGSの販売数量は減少する見通しで、セグメント利益は50億円の赤字を見込んでいる。

結晶Siとの価格競争激化

 CIGSの事業環境が厳しい理由はいくつかあるが、やはり、結晶シリコン(Si)との価格競争が大きな要因と思われる。結晶Siは昔も今もPVの主流だが、中国勢が本格参入したことで、価格が急速に下落している。ちなみに、現在の結晶Siモジュールの価格は、高効率の単結晶PERCがWあたり0.2ドル以下(平均)で推移している。

 生産シェアでも中国勢が席巻しており、IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、18年における中国のポリSiのシェアは5割強で、PVセル&モジュールはいずれも7割を超えている。

 19年のPVモジュール出荷トップは中国Jinko Solarで、以下、JA Solar、Trina Solar、LONGi Solar、Canadian Solarと中国勢が上位を独占している(英GlobalData調べ)。トップ10のうち、8社が中国企業である。

 現在のPVモジュールは単結晶Si、PERC(Passivated Emitter Rear Cell)、ハーフカット、MBB(マルチバスバー)、高密度実装技術などの技術を組み合わせることで高出力を実現しているが、最近では、中国PVメーカーがLCOE(均等化発電原価)の低減を目的に、相次ぎ大型Siウエハー&セルを用いた高出力PVモジュールを発表している。

 大型Siウエハー&セルを用いた高出力モジュールの口火を切ったのは中国Risen Energyで、19年末に505Wモジュールを発表したが、20年に入ると競合他社も相次ぎオーバー500Wの高出力モジュールを発表した。

 そして、すでに開発ターゲットは600~700Wに移りつつある。Jinko Solar、JA Solar、Trina Solar、Canadian Solar、Risen Energy、Maxeon、Jolywoodなどが600W超の高出力モジュールを発表しているが、JA SolarやTongweiは出力800Wのモジュールを開発している。

出力600W超の結晶Siモジュール(Jinko Solar)

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CdTeは大型&大出力を選択

 結晶Siモジュールの大型&高出力化に対抗するため、CIGSと同じ化合物薄膜であるCdTe(テルル化カドミウム)はモジュールの大型化および高出力化に取り組んでいる。1999年設立の米国First Solarは、02年からCdTeモジュールの量産を開始し、19年には累積出荷量が25GWに達している。

 09年には年産1GWを実現し、世界で初めてW単価で1ドルを切るなど、当時はPVのプライスリーダーだったが、近年は結晶Siモジュールの価格が急速に下落しており、W単価だけでは競争力の維持が困難となっている。こうした状況を打破するため、First Solarは大型&高出力の新型モジュール「S6」を開発し、18年から量産を開始した。

 従来の主力モジュールである「S4」は出力117Wだったが、「S6」はモジュール効率18%、最大出力は445Wとなっている。大幅な出力増により、「S6」は「S4」に対して4割以上の製造コスト低減が可能で、利益率の最大化が期待できるという。すでに米オハイオ州、マレーシア、ベトナムの3工場で生産が始まっており、20年には「S6」の生産能力が5.4GWに達する予定だ。

新型CIGSで新市場を狙う

 CIGSも大型&高出力化を目指す動きがある。Midsummer(スウェーデン)は、出力500Wの新型モジュール「Midsummer Magnum」を開発した。

 同社は厚さ0.3mm、156mm角のステンレス基板の上にCIGS層を形成し、各セルを接続することでCIGSモジュールを作成しているが、新型モジュールはセル枚数を増やすことで最大出力500Wを実現した。
 軽量&フレキシブル、高出力といった特徴を活かして、BIPV(建材一体型PV)への展開を目指している。

 一方、出光興産はモジュールの大型&高出力化とは異なる戦略を打ち出している。現在のCIGSモジュールは基板と表面材(カバー)にガラスを使用しているため、モジュール重量が18.5㎏と重く、耐荷重の低い屋根や建物の壁面に設置できないという課題があった。

 そこで、ソーラーフロンティアは15年に薄い金属基板と高機能の樹脂製カバーフィルムを使用した軽量&フレキシブルCIGSモジュールを開発し、シンガポールの空港に設置するなど、実用化に向けた実証試験を開始した。さらに、20年度からスタートするNEDOプロジェクトにおいて「多様な基板に適用可能な軽量CIGSの開発」が採択されたことで、軽量CIGSモジュールの開発を加速することにした。

 開発する軽量CIGSモジュールのサイズは1.2㎡(1.2×1.0m)で、5~7㎏の重量を想定している。まずはステンレス基板を用いたモジュールを開発するが、ポリイミドなどの樹脂基板も検討する。ちなみに、ポリイミド基板を用いた軽量CIGSセルでは変換効率20%超を実現している。

 加えて、自動車などの移動体にも搭載できる超高効率のタンデム型の開発も進める。トップセルにⅢ-Ⅴ族化合物、ボトムセルにCIGSを用いたタンデム型をコンソーシアムで開発する。また、PSCとCIGSを組み合わせたタンデム型も独自に開発している。これまでにPSC/CIGSのタンデムセルで変換効率22.4%を達成しているが、PSCの自社開発にも乗り出している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

まとめにかえて

 次世代の太陽電池を巡っては昨今、ペロブスカイト太陽電池などが脚光を集めていますが、CIGSも軽量・フレキシブル性を武器に虎視眈々と市場拡大の機会を狙っています。主流の結晶Siのコストダウン(価格低下)が予想以上に早いスピードで進んでおり、現状では収益確保が難しい状況ですが、「CIGSでしか難しい」という付加価値を付与することができれば、市場でのポジションを確立することも不可能ではありません。出光興産の今後の挑戦に注目が集まります。

電子デバイス産業新聞

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