クラウドコンピューティング市場は3強時代に

「AWS」というサービスをご存知でしょうか? これは、Amazon Web Service(アマゾン ウェブ サービス)の略称で、企業向けのクラウドコンピューティングサービスで、世界レベルで展開するサービスとしては世界初かつ世界一の売上・規模のサービスとなっており、2016年夏現在、クラウドコンピューティングの分野ではダントツのリーディングカンパニーと言える状態です。

2016年8月3日にガートナー社が公開したマジッククアドラントは、クラウドコンピューティングサービス市場のプレイヤーを実行力と先進性という軸で比較し、「リーダー」「チャレンジャー」「ビジョナリー」「ニッチプレイヤー」とい四象限に分けて示した図です。ここでもAWSは圧倒的に高い評価を得ています(下図参照)。

この図には日本の富士通やNTTコミュニケーションズなども入っていますが、残念ながら左下ギリギリに載っているだけです。完全に「負け組」と「勝ち組」が分かれてきています。Amazon、Microsoftの2社が他を大きく引き離し、後はGoogleが「ビジョナリー」から「リーダー」をうかがっている以外は全てニッチに分類されてしまいました(2015年版では、まだVMware、IBM、CentryLinkなどもビジョナリーにギリギリ入っていたのですが)。

かつて、「世界に“コンピュータ”は5つあれば足りる」(The World Needs Only Five Computersと予言されたのをご存知でしょうか。10年前にサン・マイクロシステムズのCTO、グレッグ・パパドポラス氏が自身のブログで述べたものですが、まさに世の中はこの予言のように進んでいると感じてしまいます。全てのITシステム・サービスの基本になるクラウドコンピューティングは、世界レベルでは既に3社に淘汰されていこうとしているのです。

ここでガートナーの図では現状2強のように見えるところ、あえてGoogleを入れた3社としたのは、Google自体がこの市場からなくなることはあり得ないためです。

GoogleのあらゆるサービスはGoogle Cloud Platform上で運用されている

そのGoogleのあらゆるサービスは、既にクラウドコンピューティングサービス上で運用・提供されています。皆さんご存知のYouTube、Gmail、Googleカレンダー、Googleマップ、検索といったGoogleの全てのサービスが、このクラウドコンピューティングサービスのユーザーであり事例であると言えるのです。よって、現状のGoogle Cloud Platformの利用量は、恐らく自社のサービスによるものの方が多いのではないでしょうか。

Googleは自社サービスのためだけに巨額のハードウェア投資をしてきており、それは“世界有数のハードウェアメーカー”とも言われるレベルです。自社サービスだけでもその規模のインフラを運用しているため、規模の経済としては既に十分な規模のインフラを構築済みと言えます。

また、親会社であるアルファベットの2015年の投資総額は1兆円を超えると言われており、その大半がデータセンターの構築に注がれたとのことです。2015年にはVMware社の創設メンバーであるダイアン・グリーンをエンタープライズ部門のトップに招聘し、エンタープライズ向けの展開に強力にコミットし続けています。

Googleは広告の会社ではなくクラウドの会社になる

Googleの技術部門のシニア・バイス・プレジデントであるウルス・ヘルツルは、2015年11月に「The goal is for us to talk about Google as a cloud company by 2020(2020年までにGoogleはクラウドの会社であると呼ばれることを目指している )」と述べており、広告の会社ではなく、クラウドの会社になると言っています。

これは、売上げが実際そのようになることを予言・目標としていることにほかなりません。現在は広告の売上げがGoogle全体の90%を占めている状態ですが、これに対してクラウドの売上げがどの程度増えて行くのか注目です。今年は日本にもサービス提供データセンターが開設され、来年は世界で新たに10か所を開設するために投資している模様です。

全てはクラウドコンピューティングに

筆者は、10年以上インフラのシステムエンジニアとして企業の業務システムのデータセンター選定やサーバーの構築・運用等を行ってきました。昨今は仮に自社でサーバーを構築するにしても、どこも似たり寄ったりな構成を取ることが多くなって来ていると感じています。そのため、クラウドコンピューティング上にそれらを移せないということは、まずなくなってきています。

今後は、膨大なトラフィックを超高性能で、しかも信頼性高く捌く必要がある(証券会社の取引システム等)などの一部の特殊なケース以外は、全てクラウドコンピューティングに置き換わっていくでしょう。その候補は既に絞り込まれてしまっている、というのが現状です。

 

吉積 礼敏