8月の米株式市場では、主な株価指数での最高値更新が相次いでいます。世界的に金融政策が緩和的であることが背景として挙げられていますが、米国内での雇用や個人消費が堅調に推移してきたことも買い安心感につながっています。

しかし、7月の米個人消費が予想外に低調だったことから、景気の先行きが怪しくなってきました。

米小売売上高が予想を大きく下回る。低調な所得の伸びが影響か

7月の米小売売上高が前月比横ばいとなり、事前予想の0.4%増加を大きく下回りました。4-6月期に高い伸びを示していたことから、その反動が出たとの指摘もあり、早合点は禁物ですが、個人消費が減速するリスクが高まっている模様です。

個人消費の減速要因として最も気になるのが所得の伸びの鈍化です。米個人所得の前年同月比の伸び率は2014年10月の6.2%をピークにおおむね右肩下がりとなっており、6月は2.7%にまで低下しています。可処分所得も歩調を合わせており、6月は前年同月比2.2%増加にとどまりました。

一方、6月の消費者物価指数(CPI)のコア指数(食品とエネルギーを除く)は2.3%上昇していますので、物価を調整した実質で見ると可処分所得の伸びはマイナスに転じたことになります。これは、所得の伸びが物価の伸びに追いついていないことを示唆しており、消費を抑制すると考えられます。

米貯蓄率を見ると、3月の6.2%から6月は5.3%と3か月連続で低下しています。所得が伸び悩んでいるにもかかわらず、貯蓄を控えて消費を拡大していた可能性が高く、このような消費の拡大は持続可能とは言えません。将来的には、低調な所得に一致するように、消費も減速することが見込まれます。

雇用にも先行き不安、悪循環で景気の低迷が長期化する恐れも

個人消費の拡大を支えてきた堅調な雇用情勢にも暗い影が見え始めています。米供給管理協会(ISM)が発表した7月のISM景気指数は製造業、非製造業ともにそろって低下となりましたが、指数を構成する個別項目にある雇用指数を見ると、製造業が49.4となり改善・悪化の分岐点となる50を下回りました。

非製造業ではまだ50を上回っていますが、水準は低下しています。また、米フィラデルフィア連銀が発表した8月の業況指数でも、雇用指数がマイナス20.0と7月のマイナス1.6からさらに悪化し、2009年7月以来、7年ぶりの低水準となっています。

このように、雇用の先行きが怪しくなっている背景として、労働生産性の低下が指摘されています。米労働生産性は4-6月期まで3四半期連続で低下しており、生産性の低下による企業収益の圧迫を恐れて、企業が雇用の拡大に慎重になる可能性があります。

低調な所得の伸びが個人消費を抑制し、その影響で雇用も頭打ちとなると、所得の伸びも低いままとなり、消費も伸びません。最近の米経済指標は、米景気がこのような悪循環の入り口に立っていることを示唆しています。

米GDP成長率は4-6月期まで3四半期連続で1.0%前後の低い伸びにとどまっており、米国では成長ペースが鈍化しています。この間、企業の設備投資はマイナスで推移していますが、個人消費は比較的高い伸びとなっています。

米経済は投資の不振が重しとなりながらも、堅調な個人消費が下支える構図となっていますので、今後個人消費が減速するようですと、景気の低迷が長期化する恐れがあります。

株価が軟調に転じると現職大統領の政党は不利?

こうした景気の先行きに対する懸念は、大統領選挙の結果に影響を与える可能性があります。ブルームバーグの7月18日付けの記事によると、大統領選挙までの3か月間の株価の推移は現職の大統領が所属する政党が勝利できるかどうかをかなり正確に予想してきました。

大統領選挙までの3か月間で、S&P500株価指数が上昇した場合には現職大統領の所属政党が勝利し、下落した場合には敗北したケースを数えると、過去22回の大統領選挙のうち19回が当てはまります。また、1984年以降の8回の大統領選ではすべてで的中しています。

8月に入って、米主要株価指数は相次いで過去最高値を更新していますが、民主党のクリントン候補が勝利を確実にするためには、11月8月の投票日まで現在の高値を維持し、できることならさらに上値を目指したいところでしょう。

とはいえ、これまで堅調だった個人消費や雇用情勢の見通しは必ずしも明るいものではありません。景気の低迷が長期化した場合には、短期的には株価が軟調に転じる可能性が高くなりますので、現政権の民主党から出馬するクリントン候補には向かい風が吹くことになりそうです。

このように、景気と株価と大統領選が連動していると考えると、株価の動きや大統領選の見え方も違った風景になるかもしれません。

 

LIMO編集部