カルテルが禁じられている大きな理由は「企業間の競争がなくなること」
最近、報道などで「カルテル」という言葉を目にする機会が増えています。
カルテル自体は決して新しい概念ではありません。「カルテル(cartel)」は「企業連合」と訳されることもあります。その定義はまちまちですが、公正取引委員会では「複数の企業が連絡を取り合い、本来、各企業がそれぞれ決めるべき商品の価格や生産数量などを共同で取り決める行為を『カルテル』と言う」としています。
公共事業などにおいて、価格を維持するための入札価格や受注企業の調整などを行う、いわゆる「談合」についてもカルテルに含むという考え方もあります。
日本の独占禁止法では、カルテルや入札談合などを禁止しています。なぜ、カルテルはよくないことなのでしょうか。ポイントは、企業間の競争がなくなることです。企業間の競争がなくなると、消費者(購入者)は、より安い商品やよりよい商品を選ぶことができなくなります。
海外には日本の独占禁止法に相当するEU競争法、米国反トラスト法などの競争法があります。その目的は、競争制限行為を規制し競争を促進することです。現在、100以上の国々が競争法を有しています。
日本企業が巨額の罰金を科される事件が相次ぐ。従業員が逮捕される例も
日本企業にとって今、大きなリスクになりつつあるのが「国際カルテル」の摘発です。米国や欧州、中国のほか、多くの国で国際カルテルの摘発が強化されている傾向があります。
競争法の執行の内容は国によって異なるものの、制裁金や課徴金が科されるほか、罰金・禁固刑などの刑事制裁を受ける場合もあります。
実際に、日本企業に巨額の罰金が科されたり、従業員が逮捕され収監されたりする例が増えています。2012年には、矢崎総業とデンソーが米国向けの自動車部品「ワイヤハーネス」などを巡り価格カルテルを続けていたとして、米司法省から合計5億4800万ドル(約548億円:1ドル=100円で換算)の罰金を受け、関与した矢崎総業の日本人幹部4人が禁固刑となりました。
2014年には、ブリヂストンが自動車用防振ゴムでカルテルを行ったとして4億2500万ドル(約425億円)の罰金を支払うことで米司法省と合意しました。このほかにも、日本企業が100億円以上の罰金を科されるケースが相次いでいます。
影響は罰金額だけにとどまりません。取引先や消費者からの損害賠償請求訴訟、株主代表訴訟などに発展します。経営に大きなダメージを与えることになります。
経営者が意識改革を行い、コンプライアンス体制を確立すべき
日本企業の国際カルテル摘発が相次いでいる理由として、外国競争法への対応などコンプライアンス体制が不備であることが挙げられます。
特に問題なのが、日本企業の業界慣行です。同業者同士の業界団体や情報交換会、懇親会などは日本では珍しくありませんが、海外ではほとんど例が見られません。文化や習慣の問題もあります。メールで「いつもお世話になっております」と書いたことがカルテルの証拠の一つとされることもあります。
さらに、最近になって摘発が増えている背景には「域外適用」と「リニエンシー制度」があります。
「域外適用」とは、国外での行為が国内市場に実質的な効果を与える場合には国外の行為についても競争法を適用できるとする考え方です。たとえば、日本の複数の部品メーカーが日本国内で価格調整などを行った場合、部品や完成品を輸出・販売した現地の当局から摘発される可能性があります。
「リニエンシー制度(米国ではアムネスティ・プログラムと呼ばれる)は、企業が自ら関与するカルテルに関する情報を競争当局に提供した場合、罰則などが軽減される制度です。
1978年に米国で初めて導入され、1993年にそれを改正し、企業が罰則の減免を受ける要件の明確化が図られたことから、広く採用されることになり、欧州連合(EU)など各国でも導入されています。日本でも2005年に独占禁止法改正が行われ、2006年1月から「課徴金減免制度」が施行されています。
国際カルテル摘発のリスクについて多くの企業では何らかの理解をしているでしょう。しかし、「これまでもずっとこのやり方でやってきたから」というのでは、いつまでもカルテルの温床とみなされることになります。
コンプライアンス体制の確立に向けた抜本的な取り組みが求められます。そのためには、海外子会社や事業部門任せにするのではなく、経営トップ自身が意識改革を行い、コンプライアンスに対するコミットメントを表明し、リーダーシップを発揮して実践していくことが必要でしょう。
下原 一晃