電子ペーパーディスプレー(Electric Paper Display=EPD)の最大手、イー・インクホールディングス(台湾新竹市)の2020年4~6月期業績は、売上高が前年同期比5%増の37.3億台湾ドル、営業利益は同3.2倍の3.5億台湾ドルだった。4~6月期の売上高としては過去8年で最高、また営業利益も上期(1~6月)および4~6月期として過去9年で最高を記録した。中国・揚州工場の稼働率が4月に100%へ回復したことに加えて、電子棚札(Electronic Shelf Label=ESL)の販売も好調で、電子インク材料の販売増が収益向上に寄与した。
買収によってEPD市場をほぼ独占
イー・インクは、もともと米国のEPDベンチャー企業だったE Inkを、09年9月に台湾の中小型液晶パネルメーカーPrime View International(PVI、元太科技工業)が約2億1500万ドルで買収し、社名を引き継いで現在の事業体制となった。その名を一躍知らしめたのが、米Amazon.comが世界で初めて商品化した電子書籍リーダー「Kindle」にEPDを供給したことだ。PVIはE Inkとの協業で製造元となり、12年には競合の台湾SiPixを買収して、EPD市場で独占的なシェアを持つに至った。
イー・インクのEPDは、マイクロカプセルおよびマイクロカップ型の電気泳動方式と呼ばれている。マイクロカプセルまたはマイクロカップの中に帯電した色の粒子と溶媒が入っており、これが電極に吸い寄せられることで色の表示を切り替える。EPDは表示品位が紙に近く、液晶や有機ELに比べて省エネであるため、ポスターや値札など頻繁に表示を切り替えない静止画の表示に適している。
大手FPDメーカーと相次ぎ提携
イー・インクは、旺盛な需要に対応するため、外部パートナーとの提携を加速している。5月には、台湾FPD(Flat Panel Display)大手のイノラックスとカラーEPD「ACeP(Advanced Color ePaper)」で協業すると発表した。IoTおよびスマートシティ向けの製品を拡充していく方針で、第1弾として28インチのバータイプを開発した。車載広告や小売りの看板、地下鉄や電車、電動バスなどの公共交通機関に販売する。
また、8月には中国FPD大手のTCL CSOT(華星光電)と事業提携した。CSOTは8.5世代(ガラスサイズ2200×2500mm)工場でEPD用バックプレーン(背面駆動基板)を製造し、両社で大型EPDのプロモーションを展開する。8.5Gでバックプレーンを製造するのは初めてで、42インチを中心に量産する。
さらに、6月には中国の中小型FPDメーカーであるビジョノックス傘下の義烏清越光電と小売業向けESLモジュールで協業することも決めた。義烏清越光電は3月に設立されたばかりだが、浙江省義烏科学技術ベンチャーパークに拠点を持ち、年間5500万台のモジュールを生産可能といい、両社で中国市場を開拓する。
生産能力を拡大、新技術の開発も
イー・インクは過去5年間でESL 4億枚(2.9インチ換算)、電子書籍リーダー用EPD 1.3億台を販売した。20年下期は上期よりも需要が増加するとみて、生産能力の拡大を進める。
カラーフィルターアレイを印刷で直接形成して4096色を表示でき、フロントライトで光らせるカラーEPD「Kaleido」および電子インク材料の増産を継続するほか、このほど新竹工場でマイクロカップ技術を用いたFPL(Front Plane Laminate)の生産能力を拡大することを決めた。マイクロカップFPLはACePなどに利用している。
技術開発面では、画面の切り替えやカラーの表示速度を向上したACePの第2世代品を開発したほか、フレキシブルEPDを搭載したフォルダブル電子書籍リーダーの試作品デモも披露した。
ちなみに、イー・インクの7月の単月売上高は前年同月比39%増の14億台湾ドルとなり、好調を維持している。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏