本記事の3つのポイント
- 新型コロナの影響が広がる中でも、韓国メモリー2社は積極的な設備投資を展開
- サムスン電子は平澤工場、中国・西安工場で能力を増強、SKハイニックスは利川・清州の国内投資に加え、中国・無錫での投資も再開
- DRAM分野では新興の中国企業が製品の市場投入を開始しているが、韓国2社はEUVを駆使した微細化技術を武器に、優位性を保つ戦略
新型コロナウイルスのパンデミックによって世界経済が大きく揺れている。国際通貨基金(IMF)は最近の報告書で、2020年の世界経済成長率を-4.9%と予測。韓国もマイナス成長(-2.1%)は避けられない見通しだ。しかし、サムスン電子、SKハイニックスといった韓国大手半導体メーカーは、当初計画していた設備投資は動揺なく進めるという強い意志を固めている。
サムスン、メモリー半導体を継続
サムスン電子は、19年末にDRAMとNANDフラッシュの設備投資に積極的に取り組んだ。19年度の半導体不況のトンネルを抜けて、20年にはメモリー半導体の需要が回復すると分析していたためだ。同社は、20年にDRAMとNANDフラッシュのキャパシティーを12インチウエハー基準で月産それぞれ約5万枚、6.5万枚増設する計画だ。DRAMは韓国平澤工場(P1+P2)、NANDフラッシュは中国西安工場を増設している。
韓国半導体業界筋では、20年1~3月期に西安工場に月産2万枚設備が完成しており、平澤のDRAMラインも構築中だ。とりわけ、西安には韓国から専用機を飛ばし、200人程度のエンジニアが数回にかけてチャーター機で入国して、量産に向けた段取りを進めている。
ただ、新型コロナの影響で装置の搬入に支障が出ることは避けられないといわれている。同社は装置搬入の遅延を最小化するために、搬入作業に弾力的に対応している。例えば、西安に供給する予定だった機材などを、相対的に物流が円滑な平澤工場へ優先的に供給するといった対応をとっている。
SK、中国無錫に7月から装置搬入へ
SKハイニックスもメモリー半導体に対する新規投資を再開した。中国無錫工場(C2F)に3.2兆ウォン(約2857億円)を投資する。C2F工場の空きスペースに月産3万枚規模のDRAMラインを建設する計画で、20年7月から装置搬入が進んでいるとみられる。
同社は当初、20年の設備投資を保守的に行う計画であった。だが、メモリー半導体市況を肯定的と判断し、投資を再開している。また、利川工場(京畿道)のM16に対する装置搬入時期を、当初は21年1月からとしてきたが、20年内に前倒しする方策を装置メーカーと調整中だ。また、DRAMライン(利川)増設規模も当初の2万枚から3万枚に上方修正しており、NANDフラッシュ(清州)でも5000枚の増設を進めている。
DRAMは一時需給タイトに
このように、韓国大手半導体2社が新型コロナという未曾有の危機にもかかわらず、継続的に投資している背景は、メモリー半導体の市況を肯定的に予測しているからだ。まず、新型コロナの影響でグローバル経済が鈍化するなかでも、サーバーとPC用DRAMの需要が多くなっている。また、在宅勤務(テレワーク)とオンライン教育、余暇活動やショッピングなどがインターネットを中心に伸びていることから、サーバーとPCの購入が増え、DRAMの需要増につながっている。
とりわけ、最近のDRAMの需給はタイトな状態が続いていた。韓国大手半導体2社の在庫水準は、メモリー半導体の好況時と同様の2~3週分と低くなっていた。大規模なサーバーとデータセンターを運営するオンライン・サービス企業から、DRAMの需要が急増した。
このような傾向は、韓国メーカーだけではなく、台湾のDRAM専業メーカーであるナンヤテクノロジーも同様だった。新型コロナに伴うオンライン教育や在宅勤務、オンラインショッピングなどが伸び、20年1~3月期の業績改善に寄与した。
新型コロナで経済の不確実性は高くなったものの、半導体の需要増を後押しする要素も少なくないため、サムスン電子とSKハイニックスは一定の投資を継続する見通しだ。韓国半導体業界に詳しいあるアナリストは「韓国大手半導体2社の投資計画から判断して、半導体市況を肯定的に観ているといえる」と分析する。
関心は20年下期であろう。4~6月期までは好調が予想される半導体市況だが、これがいつまで継続するかが懸念材料である。ナンヤテクノロジーは1~3月期の業績説明会において、4~6月期と7~9月期もメモリー半導体の成長基調は続くと見通した。
韓国はEUVで中国勢を引き離す
韓国大手半導体2社が進めるDRAM分野に対する切り札は、極端紫外線(EUV)プロセスである。最近になって汎用PC向けDRAMを生産し始めたといわれる中国勢の猛追を振り切るため、韓国メーカーは「超格差の戦略」を駆使している。データ技術の高度化によって、DRAMは限られた面積で多くの情報を速く記憶・処理しなければならないという挑戦が立ちはだかっている。
サムスン電子は、20年4月にEUV工程を適用した10nm汎用DRAM(1x)100万個を生産することに成功している。1x DRAMにEUV工程を適用したのは、テストが目的。本格的にEUV工程を採用する製品は、21年に量産予定の第4世代(4G)10nm DRAM(1a)である。1a製品では、情報を外部に送り出すビットラインの製造にEUV工程を活用する。同社は従来の工程では限界に達した2~3個の層(レイヤー)にEUVを適用するといわれている。
また、SKハイニックスもEUV工程をDRAMに適用するための準備を進めている。同社の利川本社工場では2台ほどの研究用EUV露光装置を運用しており、21年にもEUV工程でDRAMの量産を目指す。
サムスン電子は、平澤工場に「P-EUV」と呼ばれるEUV専用ラインを、20年下期に完成させる計画だ。1xのテストは華城工場(V1ライン)で行ったが、1a製品は前述の平澤P-EUVで生産し、EUV工程のDRAM生産拠点を構築する方針だ。
SKハイニックスは、20年10月に完成予定の利川新規ライン(M16)でEUVライン構築を視野に入れている。M16ラインは21年上期に稼働する見通しだ。
「中国製造2025」で韓国勢に迫る
19年末時点で韓国大手半導体2社のDRAMとNANDフラッシュ市場シェアは、それぞれ72.7%、45.1%を誇っている。市場調査会社IHS Markitの資料によれば、20年の世界メモリー半導体市場は1259億ドルから21年は1519億ドルに回復する見通しだ。
しかし、数年前から「半導体崛起(中国製造2025)」を打ち出した中国半導体産業の勢いが韓国メーカーを緊張させている。
例えば、中国の長鑫存儲(CXMT)は、20年上期にPC向けDDR4 DRAMの量産を発表した。DDR4は、現状で最も汎用的に使われるDRAM半導体の規格であることから、関連製品の量産は、中国勢が早くも韓国勢に迫ってきていることを意味する。裏を返せば、そのような競争環境であるからこそ、韓国メーカーがEUVプロセスの採用を急いでいるのだ。
先述のアナリストは「EUV工程は、中国メーカーが当面真似できない先端技術である」といい、「EUV工程を先取りすると、プレミアムDRAMを求める大規模なデータセンターに対して有利に提供できる」と分析する。
電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢
まとめにかえて
20年上期のメモリー市況は新型コロナに伴うデータセンター/クラウド需要、そして「Work From Home(在宅勤務)によって、パソコン向けのDRAM/NAND需要も喚起されました。ただ、下期に向けてはスマートフォン向け需要の下ぶれやデータセンター向け需要の一服によって、慎重な見通しも出てきています。メモリー各社の投資計画やスタンスは目まぐるしく変わっており、今後も注意を払って動向を見守る必要がありそうです。
電子デバイス産業新聞