出光創業家が昭和シェル株40万株を取得。TOBの義務が発生

石油元売り大手の昭和シェル石油(以下、昭和シェル)と出光興産(以下、出光)の経営統合が不透明になってきました。

まず、6月28日に行われた出光(5019)の株主総会で、創業家が代理人を通じて昭和シェル(5002)との合併に反対を表明、月岡隆社長をはじめ合併を推進する取締役10人の再任にも反対票を投じました。月岡社長再任はかろうじて可決されたものの賛成率は52.3%にとどまりました。

さらに8月3日には、出光創業家が昭和シェルの発行済み株式の0.1%にあたる40万株(取得価格約3億8000万円)を、市場を通じて取得したと発表しました。

出光は9月ごろに、英・オランダ系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェル(以下、RDS)が保有する昭和シェル株33.3%を市場外の取引で取得する予定でした。出光の大株主である創業家は同社の同一グループとみなされます。今回の創業家の取得により、出光グループが保有するとみなされる昭和シェルの持ち分は33.4%となり、3分の1を超えます。

金融商品取引法では、上場企業等の発行する株券等の取得についてさまざまな規制が設けられています。その一つが公開買付(TOB:take-over bid)の義務化です。

たとえば、「多数の者(60日間で10名超)からの買付けで、買付け後の所有割合が5%を超える場合」や、「著しく少数の者(60日間で10名以内)からの買付けで、買付け後の所有割合が3分の1を超える場合」は、公開買い付けを行わなければならないとされています。

「対等合併」による影響力低下が、創業家の反対の理由の一つか

公開買い付け(TOB)とは、会社支配権等に影響を及ぼし得るような証券取引について、透明性・公正性を確保するための制度で、取引所市場外で株券等の大量の買付け等をしようとする場合に、「買付者が買付期間、買付数量、買付価格等をあらかじめ開示」し、「株主に公平に売却の機会を付与」するものです。

出光の場合、TOBを行うと、RDSだけでなく他の多くの株主もこれに応じることになるため、巨額の費用が必要になります。

実は、創業家がここにきて反対を表明したのもTOBがキーワードになりそうです。もともと創業家は昭和シェルとの統合には反対ではありませんでした。しかし、創業家が望む形態は出光が昭和シェルに対しTOBを実施することにより昭和シェルを傘下に収めることでした。

ところが、昨年11月、出光と昭和シェルは統合の手法について「対等の精神で両社が合併する」と発表しました。対等合併となると、創業家の影響力が下がることになります。これが、反対の理由の一つではないかと言われています。

敵対的TOBは意外に成功例が少ない

TOBというと、株式を買い付け企業の経営権を取得する「敵対的買収」のイメージが強いかもしれません。過去には、ライブドアによるニッポン放送買収への動きや、楽天によるTBS株の買い増しなど、世間を騒がせた案件もありました。

ほかにも、村上ファンドによる昭栄(不動産業)や阪神電鉄に対する買収、ドン・キホーテによるオリジン東秀に対する買収、スティール・パートナーズによる明星食品やブルドッグソースに対する買収などが話題になりましたが、いずれも失敗しています。

また、かつては自社の株式が特定の企業などに大量に保有されていることが分かってから慌てるという例もありましたが、最近では多くの企業がさまざまな買収防衛策を講じるようになっています。

ただし、外国人投資家などからは、買収の対象になるのは株価が企業価値に反映されていないためであると考え、過度な防衛策は創業家など大株主の保身のためと指摘する声もあります。

業界の再編に伴いTOBが加速する

今回の出光の一件のように、大塚家具、セブン&アイ・ホールディングス、大戸屋ホールディングスなど、創業家と経営陣が対立する事件がいくつも起きています。まさに投資家不在と言えます。

一方で、引き際があざやかな経営者も登場しています。カレーライス店の「カレーハウスCoCO壱番屋」を経営する壱番屋は、ハウス食品グループ本社のTOBに応じ、ハウスの子会社になりました。

他にも、ヤフーは宿泊予約サイトなどを運営する一休をTOBにより傘下に収めました。流通大手のイオンなども活発にTOBを行っています。

さまざまな業界で再編が進む中で、TOBによるM&Aや資本提携がさらに加速していくと思われます。

 

下原 一晃