新型コロナ禍で株価が急落した時には、多くの若い人たちが証券口座を開設し、つみたてNISAを始めたと聞きます。特にオンライン証券の口座開設数は若年層を中心に3月に過去最高水準になったとのこと。

株価の下落が資産運用をためらわせたのではなく、チャンスととらえた若年層が多くいることは心強いばかりです。ただ、せっかく始めた資産運用を長期に続け、しっかりとした資産形成としていくのはこれからです。

ゴール設定が大切―年収の7倍を目標に

そこで大切になるのはゴールの設定でしょう。ゴールが設定できると、現在の資産運用がそのゴールに対して、どういった水準にあるのかが見えてきます。長期投資を考えるなら、まずはゴールを「退職後の生活のための資産形成」に設定すべきでしょう。そしてゴールを設定すると、2つのことがはっきりしてきます。

1つは必要な資産額が想定できることです。とはいえ、昨年注目された「老後資金2,000万円」といった一定金額での目標額は課題も多いものです。すべての人が同じ金額であるはずはありません。また、20年後、30年後、自分たちが退職後の生活に入るころに、それが十分な水準かどうか甚だ疑問が残ります。

そこで、フィデリティ退職・投資教育研究所では、金額ではなく退職時点の年収の7倍に相当する水準の資産を用意することを提唱しています。これは退職後の生活が現役時代の生活水準に連動することを考え、その年収に連動するように目標を設定するという考え方です。

それでも20年、30年後のことはなかなかイメージを作り上げにくいものです。そこで目先の目標を設定して、まずはそこを目指すことをお勧めします。具体的には、30歳でその年の年収の1倍、40歳でその年の年収の2倍です。遠くのゴールを身近なところでの途中経過目標に変えることで、よりはっきりとゴールを達成できているかどうかが見えてきます。

資産運用は手段―年収の16%を積み立てに

ゴールを設定することではっきり見えてくるもう一つのことは、資産運用がそれ自体を目的にするのではなく、資産形成という目標を達成するための手段であることです。

どんなに安全な資産運用を行っても、それで目標となるゴールを達成できなければ意味がありません。資産運用のリスクは価格変動リスクでみることが多いのですが、目標を達成できるかどうかの達成度でみる必要もあるのです。その意味で、十分に分散され、かつ成長力を持った資産構成が必要になります。

目標を達成するためには、資産を運用するだけではなくその資産を積み上げることも必要になりますから、定期的に資金を追加していく必要もあります。ここにもフィデリティ退職・投資教育研究所ではガイドラインを考えています。それは年収の16%を毎年資産形成に回すというルールです。

やっと始めた資産運用をしっかりとした資産形成につなげていくために、ゴールを設定し、積立投資を継続してほしいものです。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史