7月のFOMCも金利据え置きを決定
7月26・27日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利の据え置きが決定されました。
今回のFOMCの声明文では、「経済の短期的なリスクは後退した」と述べているほか、雇用も「力強く伸びている」と指摘されています。景気後退の心配はないし、雇用も安定しているわけですから、いつ利上げを実施しても問題はなさそうですが、近い将来に利上げが実施されるとの見方は少数派となっています。
年内に1回の利上げでも難しい状況
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が公表しているフェッドウォッチによると、12月までのFOMCで利上げが実施される確率は50%以下となっています。この数字が70%を超えると利上げの公算が大きくなりますが、7月27日現在では、来年の7月までを見ても70%には届いておらず、向こう1年について市場はまだ追加利上げを織り込んでいないようです。
セントルイス連銀のブラード総裁は6月、「今後2年半(2018年末まで)で必要な利上げの回数は1回」と述べており、市場の見方に近い考えを示しています。同総裁は、米国では低成長・低インフレで安定した状態が続くとの見通しをもとに、向こう2年半での適切な政策金利を0.63%と推計しています。
もちろん、今後の経済指標が予想以上に好調な数字となれば、次回9月のFOMCで利上げが実施される可能性は残されていますが、よほどの大きなサプライズがない限り、年内に1度の利上げを実施するのも難しい状況となっています。
FRBの政策目標は既に達成されている
米連邦準備理事会(FRB、中央銀行)の政策目標は「物価の安定と雇用の最大化」にあり、具体的には2.0%のインフレ率と4.8%の失業率となります。
実際の数字を確認すると、失業率が5.0%まで低下したのが昨年11月で、同月には物価の中長期的な動きを示す消費者物価指数(CPI)のコア指数(除く食品・エネルギー)も前年同月比で2.0%上昇となりました。基調的に失業率が低下、インフレ率は上昇していましたので、FRBが昨年12月に利上げを開始した際にはこうした数字の裏づけがあったことがわかります。
6月の失業率は4.9%、6月のコアCPIは2.3%上昇となっていますので、昨年12月と比べて労働市場が改善しており、インフレ率も上昇しています。したがって、今回のFOMCで利上げを実施しても何ら問題はなかったと言えるでしょう。
カギを握るのは海外動向、ブレグジットの影響を見極めへ
米国内の経済指標からは利上げが十分可能と判断できますので、利上げを見送っているのは米経済以外に問題があると推定されます。
まず最初に挙げられるのが「ブレグジット」の影響です。前回6月のFOMCでは、会合の翌週に英国のEU離脱を問う国民投票を控えていたことから、結果を見極めたいとして利上げが見送られました。今回は、懸念されていた英国のEU離脱が現実となり、その影響を見極めるにはまだ時間が必要として利上げが見送られた可能性があります。
国際通貨基金(IMF)が7月19日に公表した「世界経済見通し」では、2016年の世界経済の成長率は3.1%となり、前回4月時点の見通しから0.1%ポイント引き下げられました。この中で、英国のEU離脱による悪影響が広がった場合には、成長率は3.0%以下へと低下する可能があると指摘されています。
これまでのところまだ目立った影響は出ていませんが、実際にEU離脱のプロセスが進む過程でどのような影響が出るかはまだ未知数ですので、引き続き警戒が必要となりそうです。
中国の不良債権問題を警戒
中国での不良債権問題が再びクローズアップされていることも気がかりです。
IMFが4月に公表した「世界金融安定報告書」では、中国で膨れ上がっている不良債権について、損失額が国内総生産(GDP)の7%に達する可能性があると試算されています。
6月にはIMFの副専務理事が、中国企業が過剰債務を解消しなければ経済成長が鈍化し金融危機を招く恐れがあると警告しています。昨年8月には、中国の人民元切下げをきっかけとして、世界的に株価が急落しました。中国の不良債権問題が表面化した場合には同じ様な混乱が見込まれます。
米大統領選挙を控えて動きづらい
11月には米大統領選挙が控えており、政治的な配慮から利上げが見送られている可能性もあります。
現在、株式市場では4-6月期の決算発表が真っ盛りですが、ファクトセットの7月22日付けのリポートによると、S&P500採用企業の業績は、前年同月比3.7%減少となる見通しで、実現した場合には5四半期連続での減益となり、金融危機以来の業績不振となります。
企業業績の低迷が続く中、7月の米主要株価指数は相次いで過去最高値を更新しており、業績を伴わない株高となっています。これには、FRBが緩和的な金融政策を維持していることが深く関わっていると考えられており、利上げを実施すると株価が急落しかねない状況にあります。
FRBは政治的には中立とされていますが、不要な批判を避けるために、利上げをきっかけとした金融市場の混乱が大統領選に影響を与えることは避けたいと考えても不思議ではありません。
LIMO編集部