金融の安定に対するリスクの懸念と裁定取引削減のための当局の取り組み
裁定取引を減らし、実体経済に流入せずに、金融システム内に資金が滞留しないようにする規制当局の取り組みも、最近の流動性引き締めの要因であると考えられている。特に、以下の2つのタイプの裁定取引が調査対象となっている。
(1)短期の債券に投資するための超低金利で安定したレポレートを活用する銀行間レバレッジの増加、(2)企業の、高金利仕組預金(約4〜5%の収益率)に投資するための、短期債発行や補助金付きローン(約2%のコスト)等の低コストの資金調達の活用。
なお、レポレートが切り上がる中、1日のレポ取引量は、5月中旬の1日あたり5兆元から6月下旬には3.5〜4兆元に低下しており、レバレッジが減少していることを示している。
仕組預金は預金と投資商品を組み合わせた金融商品であり、収益は当該預金の基盤となっている金融商品/デリバティブのパフォーマンスに依存する。
仕組預金は、預金(特に小規模な銀行間)の競争が激化し、元本保証の資産運用商品の発行を禁止する新しい規制により、2018年以降急速に伸びている。仕組預金の残高は4月に過去最高の12.1兆元に達し、その後5月には11.8兆元へとわずかに減少している。
仕組預金の残高は、全預金の6%弱を占めるに過ぎないが、1月から4月の新規銀行預金の4分の1以上を占めている。規制当局は、2020年末までに仕組預金を縮小するようガイダンスを各行に出し、各行が提示するリターンにも上限を課すと伝えられている。この措置は、特に四半期末に小規模な銀行で流動性不足を発生させる可能性がある。
微妙なメッセージ:異なるマクロおよび金融指標の目標が示される中での政策の「微調整」
6月17日に国務院は緩和的な金融政策を改めて表明し、貸出金利、債券利回り、資金調達コストを引き下げるため、預金準備率の引き下げと再貸付を通じて適切な流動性を維持することを表明した。
しかし、人民銀行による最近のコメントは、ハト派的とは言えない政策スタンスを示唆するものとなっている。すなわち、人民銀行は、超緩和的政策の悪影響とモラルハザードのリスクについて懸念を示しており、また、経済成長と金融の安定化のバランスを取る必要性を強調している。さらに政策余地を確保する必要性、景気刺激策の出口戦略の調査を開始する必要性も示している。
今年の信用供与目標、つまり20兆元の新規銀行ローンと30兆元以上の新規総融資は、2020年末までに、銀行貸出残高が前年比約13.2%増、総融資は11.9%増以上になることを示している。しかし、これは同時に下半期に新規の信用の伸びが著しく減速することをも意味している。
規制当局はまた、マイナス金利政策や債務の収益化の可能性を排除している。「より慎重なスタンス」とは、大規模な政策転換ではなく、積極的な緩和後の政策の「微調整」と考えられる。一方、景気回復の兆しが見られる中、ここ数ヶ月の力強い財政と信用の拡大により、追加刺激策の緊急性が低下している可能性もある。