また、6月下旬に撮影された人工衛星による写真によると、中国は係争地帯であるガルワン渓谷に倉庫などを設置するだけでなく、実効支配線のインド支配側で基地を建設しているとインドの安全保障専門家は主張した。

こういった状況がどこまで進んでいるかは不明だが、インドと中国の係争地域は高地という立地上、大量に積もる雪などの影響で実効支配線が長年曖昧なままであり、それが中国による過度な行動を許しているという現実もある。

インド封じ込めを狙う中国

これまで、中国はインドを囲むかのような “真珠の首飾り戦略”を進めてきた。中国は、モルディブのアブドラ・ヤミーン大統領の時、同国へ多額の経済支援を行い、橋や道路、住宅などを次々に建設し、首都と国際空港を結ぶ立派な橋も建設した。

そして、2017年7月、スリランカ南部に建設されたハンバントタ港の利用権が99年間にわたり、2013年1月にはパキスタン南部グアダル港の利用権が43年間にわたり中国へ明け渡された。

そして、中国はミャンマーやネパールなどにも莫大な経済援助を行い、南アジアでの影響力を高めている。

昨年春のインド総選挙で勝利したモディ首相は、第2次政権初の外遊先としてモルディブとスリランカを訪問し、両国へ政治経済的な支援を強化する意志を示したが、そこに対中けん制の意味があったことは間違いない。

そして、南アジアの覇権を巡る中印の争いは、両国の国境で激しくなろうとしている。現在、ラダック地方で起きていることは両国の領土紛争という枠に収まるものでなく、インド洋や南アジアにおける中印の覇権争いという現実を内包している。

和田 大樹