韓国の大手化学メーカーであるLG化学(ソウル市)は、中国の化学材料メーカーである寧波杉杉(シャンシャン)グループに液晶パネル用偏光板事業を売却すると発表した。売却額は11億ドル(約1兆3000億ウォン)。LGグループでFPD(Flat Panel Display)を生産するLGディスプレー(LGD)がテレビ用液晶パネルの生産を縮小しており、今後の需要が見込めないと判断した。ただし、韓国FPDメーカーが液晶に代わって生産体制を増強し続けている有機EL向けに関しては、韓国の化学メーカーの売り上げは引き続き伸びており、韓国材料メーカーでも「有機ELシフト」の動きが今後も強まりそうだ。
合弁会社設立で3年後に完全譲渡
両社の合意により、杉杉グループが70%、LG化学が30%を出資する合弁会社を設立し、その後3年をかけてLG化学の持ち分30%も杉杉グループに売却する。LG化学の韓国の製造拠点は有機EL用や車載用の偏光板を引き続き生産するが、南京工場「LG Chem(Nanjing)Information & Electronics Materials」など中国の拠点は杉杉グループに売却する予定だ。
LG化学は、2019年に液晶パネル用ガラス基板事業からの撤退も表明している。「ガラス基板事業の拡大に努力したが、韓国主要液晶メーカーのキャパシティー減少などで事業の継続が難しい。やむを得ず断念することにした」と述べた。
韓国FPDメーカーの減産が引き金に
このコメントのとおり、LGDはテレビ用液晶パネルの生産能力を削減しており、韓国の第7.5世代(7.5G=ガラス基板のサイズが1950×2200mm)工場「P7」と、8.5G(2200×2500mm)工場「P8」を縮小。8.5Gでの生産はすでに19年10~12月期に停止し、20年末までには韓国でテレビ用液晶パネルの生産をすべて停止する予定で、有機ELへの事業シフトを加速している。
LGDと同様に、韓国ではサムスンディスプレー(SDC)もテレビ用液晶パネルの生産能力削減を進めている。韓国国内の7G(1870×2200mm)工場と8.5G工場を閉鎖し、中国蘇州の8.5G合弁工場も生産を停止する。赤字が続いていた液晶事業から撤退し、中小型有機ELと新型のテレビ用大型有機EL「QD-OLED」などの次世代ディスプレーだけに事業を絞り込む。ちなみに、SDCは、7Gラインの「L7-1」は中小型有機ELの6Gラインに転換済み、8.5Gラインの「L8-1」はQD-OLED量産ライン「Q1」へ衣替え中だ。
中国企業にとっては液晶シェア向上が魅力
杉杉グループはもともとアパレル事業を手がけていたが、2000年代にリチウムイオン電池の正極材料の製造に参入。現在は電池パックや電解質などの製造も手がけ、電池材料の総合メーカーに成長している。BOE(京東方科技)やCSOT(華星光電)といった中国FPDメーカーがテレビ用液晶市場でシェアを拡大していることを受け、今後も安定した需要が見込める液晶部材への参入を決めた。
韓国部材メーカーは有機EL用に活路
このように、韓国国内で需要縮小が続く見通しの液晶用部材に関しては事業再編が進むが、一方でSDC、LGDともに生産能力を増強している有機EL向けについては、韓国メーカーの需要が拡大し、業績が伸びている。
一例として、韓国の有機EL材料メーカー、徳山ネオルックスの20年1~3月期業績は、売上高が前年同期比64%増の319億ウォン、営業利益が同3.2倍の68.7億ウォン、純利益が同3.7倍の75.2億ウォンと大きく伸びた。
同社は09年から正孔輸送層(HTL)、CPL(Capping Layer)などの蒸着材料を生産し、14年には独自の赤色ホスト材料を開発。現在はこれらに加えて、発光層を補助する赤青緑のプライムレイヤー材料も量産供給している。
1~3月期は、韓国国内向けが同2.2倍の売上高48.4億ウォン、海外向けが同57%増の269億ウォンとなった。韓国FPDメーカー向けに加え、中国FPDメーカー向けの供給が増加しているとみられ、今後も韓国・中国メーカーの有機EL生産拡大が業績の牽引役になる見込みだ。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏