資産家ジョージ・ソロス氏がトレーディングの現場に復帰

英国の EU離脱の是非を問う国民投票を控えた6月上旬、あるニュースがトレーディング関係者を驚かせました。世界3大投資家(ソロス、バフェット、ロジャーズ)の1人で、2011年に引退宣言をしたジョージ・ソロス氏(85歳)が、トレーディングの現場に復帰したというのです。

ソロス氏といえば、1992年の英ポンド危機の際、大量のポンド売りを仕掛けたことで知られます。これに対して、イングランド中央銀行は公定歩合の引き上げなどで対抗しましたが、ポンド安を防ぐことはできませんでした。ソロス氏は1日で10億ドル以上を儲けるとともに、「イングランド銀行を倒した男」と呼ばれるようになりました。

今回、英国民投票を前にしたソロス氏の復帰に、「再び英ポンドの急落を予想し、売り浴びせるのではないか」と懸念する人も少なくありませんでした。

ただ、実際には、ソロス氏は「残留派」で、「離脱となれば、ポンドは急落し市場は混乱する。このような形での『ユーロと共同』は誰も望まない。離脱派勝利となれば、24日はブラックフライデーになる」と警告していました。

ソロス氏は英ポンドを買っていたが、ドイツ銀行の空売りで儲ける

「口ではそう言いながら、裏ではソロス氏はポンド安を見込んだ投機を行っているに違いない」と語る人もいましたが、ソロス氏のスポークスマンが明らかにしたところによると、国民投票に向け、同氏は実際にポンドをロング(買い持ち)にしていたそうです。

ただ、世界市場全般については弱気だったことから、他の投資で利益を上げたことも公表されました。その後、その投資とは、ドイツ銀行株の空売りであることが明らかになりました。

その規模は約700万株(約110億6000万円分)にも上ります。ソロス氏がどの価格で空売りを仕掛け、どの価格で決済(買い戻し)を行ったか不明ですが、ドイツ銀行株は6月24日だけで約14%下がり、その後も上場来安値を更新して下落していることから、同氏が大きな利益を得たと想像できます。

最近は世界的な株安を想定し、ゴールドに大きく投資

すでに85歳、引退宣言をし、ここ数年は公共政策的な活動や慈善事業に専念していたソロス氏を復帰させた大きな理由は、やはり、今が投機の大きなチャンスと見ているということでしょう。

では、ソロス氏は世界の動きをどう予測しているのでしょうか。結論から言えば、今回の出動は危機感を感じていることの表れだと思われます。

ソロス氏と言えば「弱気戦略(売り戦略)」で知られます。前述した1992年の「ポンド危機」のほか、1997年の「アジア通貨危機」でも、タイバーツの大規模な空売りを仕掛けたと言われています。アベノミクスによる円安相場でも大きく儲けました。

一般的な投資のセオリーは、割安な銘柄や今後成長しそうな銘柄を買うことでしょう。それに対して、ソロス氏は「ゲームのルールが変わる時をとらえてトレードする」のが自分のスタイルであると話しています。

そのソロス氏は最近、何に投資をしているのでしょうか。公開されたデータによると、金鉱株、金ETFなど「ゴールド」に大きな資金を投資しているそうです。

ある報道によると、米国株への投資額を昨年末から37%減らした一方、その資金でカナダにある世界最大の産金会社の株式を大量取得したとか。さらに米国株のプットオプション(売る権利)への投資も増やしているとも言われています。

「有事の金」とも言われますが、まさに危機に備える運用方針と言えます。中国経済についても、ソロス氏は「危機を避けられない」と語るとともに、世界的な株安を想定しているそうです。その鋭い眼力が今回も的中するのか。同氏の動向に注目したいところです。

 

下原 一晃