この記事の読みどころ
離脱派のレッドソム氏があっさり選挙戦を撤退したことで、想定より早くメイ氏が首相就任の運びとなりました。不透明要因が1つ減ったことを好感して、市場ではポンドが上昇しました。短期的に市場の下支え要因となる可能性もありますが、先行きには懸念要因もあり、前途多難も想定されます。
- メイ内相が次期首相に確定したことは不透明要因を1つ解消したため、短期的にポンドにプラスと見られる
- 離脱戦力を明確にした上で、離脱を申請するプロセスが見込まれる
- EUとの交渉には紆余曲折も想定される
英国新首相決定へ:メイ氏は13日に首相就任予定、EU離脱の舵取りへ
英国の次期首相を選ぶ英保守党党首選で、2016年7月11日に有力候補のメイ内相と争っていた離脱派のレッドソム・エネルギー担当閣外相が選挙戦からの撤退を発表しました。その結果、メイ氏がキャメロン首相の後任として首相に就任する見通しになりました。
英国の欧州連合(EU)離脱を率いる仕事はメイ氏の双肩にかかることになります。メイ氏は国民投票の際にはEU残留を訴えていましたが、国民投票後は、離脱は決まったこと、成功させようと述べるなど、国民の意思を尊重して離脱プロセスを進めるとの考えを示しています。
どこに注目すべきか:EU離脱担当相、移民問題、単一アクセス
離脱派のレッドソム氏があっさり選挙戦を撤退したことで、想定より早くメイ氏が首相就任の運びとなりました。不透明要因が減ったことを好感、市場ではポンドが上昇しました。短期的に市場の下支え要因となる可能性もあります。ただし、先行きには懸念要因もあり、前途多難も想定されます。
まず、離脱派のレッドソム氏が保守党党首選から撤退した背景を振り返ると、母親である自分の方が首相に適任など不適切な発言を繰り返しており、自らの失言が一因と見られます。加えて、市場がレッドソム氏を懸念した背景には、同氏がEU離脱を即刻申請する意向であったことも含まれると見られます。
EU離脱戦略が不透明、しかも英国議会は残留派が多数と見られる中での即座の離脱申請により、さらなる政局の混乱も想定されたからです。その点でレッドソム氏の撤退はポンド高要因と見られます。
もっとも、党首選挙はメイ氏が圧倒的に優位(あくまで英国の世論調査を信じればの話ですが)であったため、メイ氏が選出されること自体は織り込み済みであったとも見られ、ポンドの反応は好感したものの小幅な上昇とも見られます。
メイ氏の今後を占う上で次の3点に注目しています。最初の2点は短期的、最後の3点目は長期的な注目点です。
1点目は、メイ新政権で新設が期待されるEU離脱担当相とその戦略です。誰もいなくなった離脱派の問題点は明確かつ慎重なEU離脱戦略を示していないことです。EU離脱担当相のような新設ポストを設けることで、戦略的なEU離脱の青写真が示されることを期待しています。
2点目は議会内のEU残留派、離脱派の融和です。国民投票で民意は示されましたが、国民投票の法的拘束力は根拠に乏しいとも言われます。EU離脱申請にあたり、法的拘束力の付与をメイ氏は目指すものと見られます。
EU首脳は英国に早期のEU離脱申請の提出を求めていることや、英国議会は残留派が多数でEU離脱申請を受入れるか不透明で、議会運営は相当に困難となる事態も想定されます。もっとも、メイ氏は合意形成の政治家とも言われており、同氏の手腕に期待を寄せる面も見られます。
3点目はもっとも大切な点で、英国とEUの交渉です。これまでの同氏の主張から、「人の移動の自由」を終わらせることに熱心と見られます。一方で、英国が欧州単一市場にアクセスして、財・サービスの貿易を可能にすることを優先するとも述べています。
仮に人の移動の自由への制限と単一アクセスの両方を主張すれば、EUとの交渉は暗礁に乗り上げることも懸念されます。EU首脳は妥協案による英国のいいとこ取りは認めないと言明しているからです。とはいえ、どちらか一方を選択する戦略が国内で支持されるかは不透明です。
たとえば、保守党党首選の論戦で人の移動の自由と単一アクセスのどちらを優先すべきか、各候補(当時)が持論を展開した時、離脱派のレッドソム氏は移動の自由の制限を優先すべきで、それが実現するなら単一アクセスは不要という見解を示唆していました。同氏の主張が支持を受けたとは考えにくい状況です。
一方、EU残留派だったメイ氏は、国民投票後も融和的な姿勢で、移民規制と単一市場へのアクセスという本来相容れない要求の妥協を模索する柔軟さも見せています。
ただ、EU首脳も今回は英国に対し厳しい姿勢で交渉に臨む意向と見られ、交渉の先行きについては紆余曲折も想定されます。