この記事の読みどころ

  •  昨年末以降、銀価格は金価格以上に高騰しており、英EU離脱ショック以降も上昇が続いています。
  •  冷静に見ると、銀価格高騰をもたらす事態は起きておらず、金価格高騰の“連れ高”と言えましょう。
  •  しかし、銀価格の上昇は過去2度の大相場に発展しているため、引き続き注目です。

英EU離脱ショックを脱しつつある金融市場

大きな金融市場の混乱を引き起こした“英EU離脱ショック”から2週間以上が経過しましたが、為替相場と株式相場は徐々に落ち着きを取り戻しつつあります。

特に株式相場では、主要各国の株式指数は英EU離脱ショック前に戻っており、出遅れていた日本株もようやく急落前の水準へ近づきつつあります。今後は急落前の水準をどの程度超えてくるかに注目が集まるでしょう。

金価格以上に高騰している銀価格、昨年末から約5割上昇

その英EU離脱ショック後に急騰した金融資産が金(ゴールド)です。金融市場の混乱時に注目される傾向の強い金は、実物資産の王様でもあり、今回もその存在感を存分に示しました。しかし、金以上に高騰した貴金属も少なくありません。その中でも、とりわけ上昇が著しいのが銀(シルバー)です。

ここで、金、プラチナ(白金)、銀の上昇率を見てみましょう。年初来(2015年末と2016年7月11日終値の比較、ドル建てベース)では、金が+28%、プラチナが+25%上昇しているのに対して、銀は+48%上昇しています。

また、今回の急落直前(6月23日終値)との比較で見ると、金は+8%、プラチナが+13%上昇したのに対して、銀は+18%上昇しています。この1週間は、金は高値圏に止まりましたが、プラチナと銀は年初来高値を更新し続けています。

出所:ドル建て価格はLBMA(The London Bullion Market Association)の日次終値。
円建て価格は三菱マテリアルが日々公表する小売価格から、筆者が消費税抜きベースに再計算。

銀価格は、7年ぶりの安値となる13ドル台(1トロイオンス当たり、以下同)を付けた昨年12月を底に反転し始め、今年7月に入ってから約2年ぶりに20ドルを突破し、現在は21ドルを伺う展開です。銀相場に何か大きな変化が生じたのでしょうか?

銀の特徴:幅広い工業用途、通貨としての価値も

さて、銀という貴金属の特徴をおさらいしましょう。銀は、産業向け用途が幅広い(電気伝導率、熱伝導率は貴金属の中で最大)、手頃な宝飾品として人気が高い(可視光線の反射率が高い)などのメリットがある一方、空気中で黒っぽく変色しやすい(硫化物生成)という欠点があります。

特筆すべきは、金と同様に事実上“通貨”としての価値があるということでしょう。実際、欧米では今でも銀貨が流通しています。

今回の銀価格高騰は、金価格の“連れ高“現象か

さて、銀の価格が高騰し始めた昨年末以降の状況を見ると、5~6年前の太陽光特需のように、銀の需要が急拡大するような工業製品や新技術は登場していないと判断できます。また、昨年末からの上昇が、金価格の上昇から若干のタイムラグを経て同じようなトレンドにあることから、基本的には金の“連れ高”と考えられます。

また、通貨としての役割は重要ですが、金に比べれば大きく見劣りすることは否めません。現在、銀の需要までもが増大するような通貨危機、すなわち、米ドルの信用不安が起きているわけではないことも明白です。

今後の銀価格の動向は、米国の追加利上げ等と絡んだ金の価格動向に左右されると考えられます。したがって、現在の銀価格の高騰を過大評価することは少し危険と言えましょう。

銀相場は過去2度の超バブルを経験、3度目はあるか

しかし、銀相場は時として大相場に発展することがあります。実際、“ニクソン・ショック”以降の45年強の間に、2度の「超」が付くバブル相場(1980年のハント兄弟による買い占め、2011年の太陽光需要)を経験しました。

この2度の大相場は、金やプラチナでは起こり得ないバブルであり、2回とも一時は約50ドルまで上昇しています。そして、この2回とも最初は注目されないような小さな上昇から始まったのです。

今回の銀価格上昇が3度目の大相場に発展する可能性は低いと考えますが、何が起こるかわからないのが銀相場の特徴でもあります。引き続き注視していくことにしましょう。最後に、ご参考までに、銀価格が上昇局面で20ドルを突破した過去2回は、いずれも前述の大相場に発展しています。

 

LIMO編集部