グローバル化する脅威
悪夢シナリオは何としても避けたいものだが、イラク国内にはそれに関するリスク要因が残る。
イラクでは新政権が発足したが、依然として政権基盤は脆弱で、去年秋のようにバグダッドなど各地で反政府デモが再び激化し、治安情勢が大きく乱れる可能性は十分にある。
また、シーア派とスンニ派、クルドと宗派・民族の融合が難しいイラクでは、イスラム国がスンニ派住民の不満を利用し、勢力を盛り返すことは十分に考えられる。
そして、この問題の最大の懸念は、イスラム国がイラクやシリアに限定された脅威ではないということだ。
イスラム国が台頭した2014年から早6年、既に両国では支配地域を失ったが、フィリピンやインドネシア、バングラデシュやインド、イエメンやエジプト、ナイジェリアやモザンビークなどの各地域でイスラム国を支持する組織が活動している。
そういった組織は規模や財政力は違えど、シリアやイラクを拠点とするイスラム国中枢を今でも強く支持している。要は、両国でイスラム国が勢力を盛り返すと、各地に点在するイスラム国支持組織が息を合わせるかのように勢いづく可能性があるのだ。
テロも、あっという間に蔓延する
この10年を振り返っても、日本人がイスラム国のテロに襲われる事件は断続的に発生している。
そして、そういった事件は欧米権益を中心に外国人が多く集まるところで発生しており、たとえ日本人が標的でなくても、それに巻き込まれるリスクは十分にある。
新型コロナウイルスも1月上旬には、武漢でウイルス発生が増えているという局地的な報道だった。しかし、今は世界経済を揺るがす地球レベルの脅威となっている。1つのリスクが一定期間のうちにグローバルなリスクになることは、感染症でもテロでも起こりうる。
和田 大樹