UAEやカタール、バレーンなどといった湾岸諸国は、その多くをオイルマネーに依存している。たとえば、カタールには所得税や消費税などがなく、電気や水道などの光熱費、病院などの医療費、幼稚園から大学までの教育費などが全て無料で、カタール国民1人あたりのGDPも日本とは比較にならないほど高い。

だが、これらは莫大なオイルマネーによる成功なのである。原油価格の下落が長期間にわたって続くと、今までのような潤った生活はできなくなり、他の国々と同じように、税金を払い、医療費や教育費も一定額を支払うことになるだろうが、それに反発する国民のデモや暴動が激しくなるリスクもある。

これはカタールだけでなく、UAEやクウェート、サウジアラビアでも同じような話になるだろう。

また、カタールではカタール国籍者より圧倒的多くの出稼ぎ労働者が働いているが(カタールの人口の8割から9割)、彼らの給与は決して高くなく、衰退する石油産業のしわ寄せは、まず出稼ぎ労働者たちにやってくる。

ビルや道路の建設に従事する出稼ぎ労働者の存在なしに、今のカタールの近代化はない。オイルマネーの長期的下落は、国家そのものの発展や繁栄に悪影響を及ぼす可能性もある。

産油国の不安定化による負の連鎖

そして、ロシアやベネズエラ、シェールオイルを持つ米国などの産油国にとっても大きな打撃だ。供給が需要を上回る状況が長く続くと、各国の石油産業の衰退が進み、賃金低下や失業など深刻な影響が出てくる。

産油国であるイランでは、米国による経済制裁によって雇用状況が悪化し、若者たちの不満は極めて高い状況にある。そこに今回の原油安が拍車を掛けるならば、イラン経済が受けるダメージは測り知れない。

原油価格の下落によって、ガソリン価格が安くなると嬉しくなる人もいるかも知れないが、潜在的には、その長期化は産油国の経済の衰退、デモや暴動、テロなどを誘発し、原油価格のさらなる不安定化を招くリスクがあるのだ。

和田 大樹