台湾FPD(Flat Panel Display)メーカー3社の2020年3月単月業績が出揃った。この結果、20年1~3月期の売上高は、3社合計で前年同期比17.2%減の1.07億台湾ドルとなった。通常、1~3月期は春節(旧正月)の影響で他の四半期より売り上げが下がり、年間で最も売り上げが低くなるが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大によって部材調達のサプライチェーンが混乱したり、スマートフォンやテレビといったディスプレー搭載製品の生産が当初の想定より低迷したことが、ディスプレーの需要にも影響を及ぼしたとみられる。

売り上げも出荷も前年同期に届かず

 AUO(友達光電)、イノラックス(群創光電)、ハンスターディスプレー(瀚宇彩晶)の台湾FPD3社のうち、20年1~3月期に前年同期比で増収を達成できたのはハンスターのみで、AUOは19.5%減、イノラックスは15.9%減と2桁の減収となった。

 ただし、3社いずれも1~3月期のなかで、3月の単月売上高が最も高くなり、前年同期実績にはまだ届かないものの、徐々に需要や稼働率が高まってきていることをうかがわせた。AUOは月ごとに売上高が増えており、イノラックスは3月の売上高が2月比で39%増と大きく伸びた。ハンスターは中小型液晶パネルが主力だが、前年同期に比べて大型パネルの出荷が増えたことが増収に寄与したようだ。

 3社の出荷に関して、20年1~3月期の大型パネルの出荷台数は前年同期比11.7%減の4812万台、中小型パネルについては同4.2%減の1.69億台となり、いずれも前年同期を下回った。パネルに関しては、スマートフォンやテレビの平均サイズが年々大型化しているため、出荷台数だけで好不調を単純比較するのは難しいが、AUOは中小型パネルの出荷台数が前年同期比18.3%増と大きく増えた。

FPD搭載機器の需要はコロナ禍で減退

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がエレクトロニクス市場に大きなマイナス影響を与えており、20年4~6月期の業績にはさらに深刻な影を落とす可能性もある。

 FPD調査会社のDisplay Supply Chain Consultants(DSCC)は先ごろ、20年の世界テレビ市場の予測を更新し、前年比10%減の2.33億台に落ち込むとの最新予想を発表した。1月時点では同2%増を見込んでいたが、新型コロナウイルスの感染が欧米で拡大し、世界需要が大きく冷え込むことを織り込んだ。

 また、調査会社のInforma Techも、20年のスマートフォン出荷台数の見通しを当初の13億8500万台から12億400万台へ、大きく下方修正した。当初は中国での感染が終息すれば生産が戻り、需要回復も早いとみていたが、その後の世界的な蔓延に伴う販売店の休業や経済・雇用情勢の悪化を鑑み、減少した需要の穴埋めは容易ではないと判断した。

パネル価格上昇が需要減を一部相殺か

 一方で、FPDメーカーにとっては業績のプラス要因もある。19年は下落する一方だった液晶パネル価格の上昇がここ数カ月続いていることだ。

 テレビ用液晶パネルの価格は、19年12月から反転に転じ、3月まで4カ月連続で上昇している。汎用的なサイズである32インチの価格は、19年11月に3300円前後で底値を付けたが、20年3月には4200円前後まで上昇し、4カ月で約3割も値を戻した。東京オリンピックをはじめとする大型スポーツイベントの相次ぐ延期によって今後の需要低迷が危惧されるところだが、新型コロナウイルスに伴う中国・台湾FPDメーカーの工場稼働率低迷や、韓国FPDメーカーのテレビ用液晶の生産撤退などによって供給過剰が回避できれば、価格上昇は今後も緩やかに継続する可能性がある。

 新型コロナウイルスの影響による需要減退を価格上昇だけでカバーするのは難しいだろうが、今後の業績の大幅な悪化を避けることには大きく寄与するだろう。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏