2019年の半導体フォトマスク市場は前年比15%増の4915億円となり、引き続き過去最高を更新したとみられる。19年は半導体市場全体が低迷し設備投資も低調に推移したが、フォトマスク市場に限っては、EUVリソグラフィーの量産工程導入や中国をはじめとする新興企業のデザイン活動が活発化したことで、大きな伸びを見せた。
19年時点で1000億円超える規模
フォトマスク市場全体が大きな成長を遂げている一方で、内訳をみると従来の光リソ用マスクは微減、伸びの大半がEUVマスクであることがわかる。EUVマスクはTSMCを筆頭にマスク内製メーカーが最先端プロセスへの導入を開始したことで市場が拡大。19年時点においても1000億円を超える市場を形成したとみられる。
20年以降もこの拡大傾向が続く。TSMCはEUVを導入した最初の世代「N7+」に続き、20年から第2世代にあたる「N5」の量産を開始する。同プロセスは従来の2倍にあたる10レイヤー程度にEUVが適用される見通し。さらに競合するサムスン電子も華城地区でEUV専用棟となる「V1」ラインが竣工、5nmを巻き返しの世代と位置づけ、EUVマスクの消費は今後、本格的に増える見通しだ。
EUVマスクは内製市場メーン
一方で、光リソ用マスクは中国新興企業におけるデザイン活動の活発化といったプラス要素があるものの、最先端プロセスがEUVに移行するなかで、今後大きな市場を見込むのが難しい状況だ。外販マスクメーカーは今のところ、光リソ用を主戦場としていることから、今後はより一層難しい事業展開を迫られることになりそうだ。成長性の高いEUVマスクは基本的に、内製企業が手がけることから外販市場に需要が出てくる機会がないと考えられている。
18~19年は内製企業のマスク製造キャパシティーが逼迫したことから、外販市場に大きなセカンダリー需要が生まれることとなったが、今後に向けての持続性には疑問が残る。よって、外販メーカーとしては従来どおり、外部調達が基本方針の半導体メーカーからの需要をどれだけ獲得できるかに事業の命運がかかっていると言えそうだ。
今後の事業拡大のカギを握るのが、中国現地顧客の開拓だ。新興企業が続々と立ち上がるなか、大半の企業が技術的な障壁から外販ベンダーを頼らざるを得ないのが現状だ。これまでマスク市場は内製比率が拡大を続けてきたが、中国勢の台頭によって、今後は内製比率が下がる見方も出てきている。
凸版印刷、GFのマスク内製設備を取得
半導体フォトマスク市場は内製比率がおよそ7割を占めており、残る3割を凸版印刷や大日本印刷(DNP)、米系のフォトロニクスなど外販ベンダーで構成されている。外販トップの凸版印刷は近年、国内外に広がるマスク製造拠点の能力増強に注力しており、18年1月には、半導体用フォトマスクの製造を手がけるToppan Photomasks, Inc.(TPI)の子会社である上海凸版光掩模有限公司(TPCS)の建屋内に、先端フォトマスクの量産に対応した設備投資を行うと発表。18年から65~40nm世代に対応した体制が整ったほか、20年1月から14nm対応のラインも稼働を開始した。また、台湾の中華凸版電子股份有限公司にも先端マスク描画装置を導入し、国内の朝霞工場、上海工場、台湾工場の3拠点で先端マスク製造が可能な体制が整備された。
さらに、19年8月には主要顧客の1社である米グローバルファウンドリーズ(GF)とのあいだで、フォトマスクに関する複数年の供給契約を締結。これに伴い、凸版印刷はGFのマスク製造拠点であるバーリントン工場(ヴァーモント州)のマスク製造に関わる設備・資産を取得。TPIのラウンドロック工場(テキサス州)に設備を移設し、GFへの供給を続ける。一方で、独ドレスデンにある両社のジョイントベンチャー、「AMTC(Advanced Mask Technology Center)」は製造機能を含めて体制を強化。今後も先端マスクの製造を引き続き行っていく。
また、今後も10nm以降の次世代マスクの製造のほか、7nm世代からの採用が見込まれるEUVマスクなど最先端品の開発も続けていく方針。また、マルチビーム描画装置についても導入を含めて今後検討を重ねていく考え。
外販で唯一マルチビーム対応機を保有
凸版印刷と双璧をなすDNPは外販メーカーで唯一、マルチビームマスク描画装置を持っていることを強みとする。通常、マスク描画はいわゆる「一筆書き」のように、一本の光でマスクにパターンを描画していくが、近年は描画時間の短縮化などを目的に、マルチビームの導入が先端プロセスを中心に進んでいる。特にマスク1枚あたりの描画パターンが非常に多い、EUVマスクにおいてはマルチビームが必須とされている。
同社では国内拠点の上福岡工場(埼玉県ふじみ野市)にマルチビーム対応機を導入しており、19年初頭から商用生産を開始。現在、28/14nm世代を中心とした光リソ用マスクの生産に活用しているほか、NIL(ナノインプリントリソグラフィー)用マスターモールドの製造にも使用する。光リソ用マスクに活用することで、描画時間の短縮化などを図れる。
マルチビーム描画装置を有していることから、今後はEUVマスクへの対応も焦点となってくる。この点について、同社ではパートナー企業と協業してビジネスモデルの構築に向けた検討を進めているという。今後、協議を進めていき3年後をめどに業績貢献を果たせるよう、取り組んでいく考え。
光リソ用では、同業のフォトロニクスと合弁で中国・厦門市に新工場(PDMCX)を建設(DNPの持分は49.99%)。18年1月に、中国での半導体用フォトマスク事業の合弁契約に基づき、合弁会社(JV)の設立手続きを完了したことを発表した。新工場では今後5年間で1.6億ドルの投資を計画。19年から商用生産を開始した。
今後、PDMCXを戦略拠点に中国市場の開拓をこれまで以上に積極的に進めていく。現状でDNP、フォトロニクスの両社合わせて中国市場で55~60%の市場シェアを獲得できていると見ている。中期的には7割のシェア獲得を目標に事業拡大を進めていく。
キオクシアとの合弁会社であるディー・ティー・ファインエレクトロニクス㈱では、キオクシアのメモリー能力の増強に合わせて、20年に北上工場での能力増強を行っていく予定。
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳